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焦点:「ワクチン不信」どう説得、米コロナ対策の鍵握る啓発活動


Sheila Dang

[16日 ロイター] - 「ナショナル・ブラック・チャーチ・イニシアチブ」は11月、ボルチモアにおいて教会15カ所による地域キャンペーンを主催した。黒人の住民らにインフルエンザ予防接種を受けるよう啓発するのが狙いだ。だが、人口60万人の同市での参加者は11人にとどまった。

主催団体のトップ、アンソニー・エバンス牧師は、「(新型コロナウイルスの)ワクチンが用意できたときに受けると思われる忌避感について、本番同様のリハーサルになったと捉えている」と語った。

ファイザー、ビオンテックの共同開発による新型コロナウイルスワクチンの配布という膨大な作業を開始しようと、米国全土をトラックが走り回っている。モデルナ、ジョンソン&ジョンソン、アストラゼネカが開発するワクチンが承認を得られれば、動きはますます活発になるはずだ。

すでに米国で30万人以上の死者を出したパンデミックを終息させるには、今後さらに、多くのワクチン懐疑派を説得し、この命に関わるCOVID-19に対する予防策を受け入れてもらうという課題がある。

連邦レベルの公衆衛生当局、非営利団体(NPO)、マーケティング関係者は、すべての米国民にワクチン接種を促すため、テレビ、ウェブサイト、ソーシャルメディアを通じた公共キャンペーンを準備中だ。そこで重視されているのが、ウイルスによって最も厳しい打撃を被っている人種的なマイノリティに以前からずっと見られる、そして歴史的な経緯を考えれば無理のない、ワクチン接種への不信感に対処することだ。

1950年代のポリオワクチン接種促進など全国レベルの取り組みを成功させてきたことで知られるNPO広告協議会は、1月開始予定の新型コロナワクチン接種促進キャンペーンを準備している。

広告協議会のリサ・シャーマン最高経営責任者(CEO)はあるインタビューのなかで、「有色人種のコミュニティは、当初から不釣り合いなほどCOVID-19の影響を受けている」と話している。「公共の啓発キャンペーンでは、こうした人口集団を重視することが大切で、これまでより前向きにワクチンを接種してもらえるよう、事実を伝えていきたい」

同協議会では、まず民間セクターから5000万ドル(約51億6000万円)を調達することをめざしている。ソーシャルメディアを運営するフェイスブック、スナップ、レディットの広報担当者によれば、各社とも広告スペースの提供を予定しているという。

マイノリティのコミュニティを対象とした公共広告(PSA)を制作するグループにとって最優先課題は、適切なメッセージ発信者を見つけることだ。

8月、広告協議会はアカデミー賞、エミー賞、トニー賞を受賞した経験のある俳優ヴィオラ・デイヴィス氏、米国で最も獲得メダル数の多い体操選手シモーネ・バイルズ氏と契約を結び、マスク着用を促す広告キャンペーン「You Will See Me」に起用した。

同協議会では、PSAの具体的な内容や、スポーツや音楽、ソーシャルメディアといった分野において誰を起用するかなど、新たなワクチン啓発キャンペーンの詳細についてはまだ詰めていないと話している。

シャーマンCEOによれば、広告協議会はジョー・バイデン次期大統領の政権移行チームと計画のすり合わせを行っており、保健社会福祉省(HHS)や疾病管理予防センター(CDC)とも協力していくという。

退任するドナルド・トランプ大統領の政権でも、これとは別に今月2億5000万ドルを投じた公共啓発キャンペーンを開始した。HHSでは、トランプ氏の再選戦略のための連邦予算流用は許されないと民主党が警告したことを受けて、「Inspire Hope」と銘打ったキャンペーンに著名人を起用するプランの一部を中止した。

HHS広報担当者マーク・ウェバー氏によれば、「ワクチンへの信頼を高める」キャンペーンでは、ワクチン接種をためらう米国民のうち、「動かされやすい中間層」をターゲットにするという。

ワクチン全般を頑なに拒む人々とは異なり、新型コロナウイルスのワクチンが記録的なスピードで開発されたことを理由に安全性を懸念する米国民は多い。

トランプ政権における啓発プログラムも、「黒人、ヒスパニック系、先住民コミュニティにおけるワクチン懐疑主義」を認識しているとウェバー広報官は言う。また、この取り組みにおいては、多文化マーケティング企業の指導も仰いでいるという。

バイデン氏の政権移行チームでは、ウイルスの伝播を止められるような集団免疫の構築に必要なワクチンへの信頼と広範囲での接種受け入れの必要性を伝えていく最善の方法を探っている。

元・前大統領のバラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントン各氏は、国民の説得につながるのであれば、自分のワクチン接種を受ける様子を撮影してもらってかまわないと話している。

<歴史の長いワクチン不信>

数十年にわたる医療へのアクセス・治療における格差、臨床試験への参加が過少だったことが原因で、黒人コミュニティにおけるワクチン不信は根強い。また、梅毒の経過を観察するため、アフリカ系の米国人男性が感染の事実を知らされずに放置されたという悪名高い「タスキギー実験」など、医療をめぐる残酷な事件の歴史も背景にある。

広告協議会と提携する研究グループ「COVID-19コラボレーティブ」が最近行った調査によれば、米国民のうち「ワクチンの安全性を信頼している」と回答した比率は、黒人では14%、ヒスパニック系では34%にとどまっている。

先週発表されたロイターの世論調査によれば、COVID-19ワクチンの接種に関心があると答えた黒人は49%で、これに対し白人では63%だった。公衆衛生専門家によれば、集団免疫の実現に必要なワクチン接種率は約75%だという。

WIPP傘下でファイザーを長年のクライアントとしている広告代理店オグルビー・ヘルスのケイト・クローニンCEOは、副作用など予想される事態について知っておいてもらうことが重要だと話す。

ウェバー広報官によれば、HHSではプログラムの一環として、さまざまなバックグラウンドの人々を集めたフォーカスグループを作り、たとえばネイティブ・アメリカン対象のラジオ局など、特定のグループが愛用しているメディアに出稿するワクチン忌避軽減のための広告を制作する際に役立てようとしている。

マーケティング・コミュニケーション企業FCBヘルス・ネットワークで医療産業部門を率いるゾマー・バズーロ氏によれば、ワクチンの治験における有色人種の参加者も、ワクチンの安全性を同じ人種のコミュニティに訴えるべくCM出演を要請される可能性があるという。FCBのクライアントにはファイザーやアストラゼネカが含まれている。

NFLニューヨーク・ジャイアンツの元選手で、現在はESPNデポーテスの解説者を務めるラウル・アレグル氏のような人物も重要な役割を担うかもしれない。61歳のアレグル氏は妻と共に、モデルナが続けているワクチン治験にボランティアで参加している。

同氏は「COVID-19予防ネットワーク」が製作した英語・スペイン語によるソーシャルメディア上でのキャンペーンに出演している。

「ワクチン接種に参加することを促す内容だ。ヒスパニック系、アフリカ系はリスクが高いから」とアレグル氏は言う。「メッセージは、『さあ、パンデミックを片付けよう』だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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