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“戒厳令”下の選挙やり直しを論議、トランプ、陰謀論者の特別検察官任命も - 佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 米有力紙などが報じたところによると、トランプ米大統領は最近の側近らとの会議で、軍隊を出動させた“戒厳令”下で大統領選挙のやり直しを実施するという驚くべき提案を論議したことが明らかになった。首席補佐官らが反対したとされる。大統領は依然敗北を認めず、逆転の方策を探っているが、独裁国家のような手法に関心を示したことで、その精神状態さえ問われ始めている。

(JL Images/gettyimages)

敗北めぐり揺り戻し

 トランプ大統領は11月26日、大統領を正式に選出する大統領選挙人投票(12月14日)で負ければ、ホワイトハウスを去るのかと聞かれ、「無論そうする」と述べ、選挙人投票でバイデン氏(次期大統領)に敗れた場合、敗北を認め、平和的な政権移行に応じる考えを明らかにした。

 大統領はこのほか、「バイデン政権」と発言したり、一般調達庁に政権移行の手続きを容認したりするなど、「選挙結果を遂に受け入れるようになった」(米メディア)と見られていた。この背景には選挙結果を覆そうとした法廷闘争が連邦最高裁を含めことごとく失敗したこと、また選挙人を各州議会に選ばせて一般投票を無効にするという奇策もうまくいかなかったことがある。

 しかし、12月に入ってそうした弱気な態度は一変し、14日の選挙人投票で勝利したバイデン氏に祝意を表明した共和党のマコネル上院院内総務らに激怒、認めるべきではないと強く反発した。

 その後もツイッターなどで「民主党に盗まれた不正選挙」という主張を激化させる一方で、コロナウイルスの拡大など重要な問題が山積しているにもかかわらず、公務にはほとんど取り組もうとしていない。週末のゴルフ以外、公の場にもほぼ姿を見せていない。

 ワシントン・ポストなどによると、トランプ大統領は居住区で一日中過ごし、友人らへの電話とツイートに明け暮れているという。補佐官の1人は、大統領が1月20日のバイデン氏の大統領就任式が過ぎても、ホワイトハウスに留まり続けると漏らしていることを暴露している。同補佐官は「大統領は怒っている。だが、(居座るという)彼の真意は分からない」と指摘している。

うさん臭いフリンとパウエル

 こうした状況の中で12月18日夜、問題の会議がホワイトハウスで行われた。会議の出席者は大統領の他、メドウズ首席補佐官、シポロン法律顧問、不正選挙訴訟団のジュリアーニ、パウエル両弁護士、そして元国家安全保障問題担当の大統領補佐官フリン氏らだ。フリン氏はロシア疑惑で訴追され、有罪となったが、最近、大統領から恩赦を受けたばかりだ。

 同氏は先週の右派ケーブルテレビ「ニュースマックス」に出演した際、戒厳令を発布し、軍隊を出動させて選挙をやり直すよう提案していた。同紙やニューヨーク・タイムズなどによると、トランプ大統領は会議の席上、この提案について同氏に尋ねたという。しかし、メドウズ首席補佐官とシポロン法律顧問が反対を唱えた。大統領がどう話したかなどは不明だ。

 だが、自由と民主主義の指導的な国家である米国の大統領が選挙を私物化する独裁国家のような“戒厳令”下の選挙に関心を示すこと、そのものが異常と言わなければならないだろう。大統領はさらに、「不正選挙」の捜査を監督させるため、パウエル女史を特別検察官に任命し、ホワイトハウス内で活動させる意向を披歴。女史に機密情報へのアクセス権を持たせる考えを持ち出した。

 大統領はこれまで、バー司法長官に対し、特別検察官を任命するよう要求していたが、バー氏は消極的で、事実上、大統領の要求を拒否していた。このため、大統領は不正選挙の主張に同調するパウエル氏に白羽の矢を立てたようだ。しかし、これについてもメドウズ首席補佐官とシポロン法律顧問が反対、パウエル氏は強く反発し、激しい応酬になったという。

 パウエル氏はこれまで、選挙で使われたドミニオン社の投票システムがバイデン氏勝利用に工作されていたという「陰謀論」を展開。同社が、ベネズエラの故チャベス大統領が設立に関与した組織で、キューバや中国など共産主義者の資金が選挙に多大な影響を与えたと主張している。しかし、この主張には大統領の側近やトランプ陣営の幹部も「馬鹿げた話」と信用していない。

 会議では、大統領が行政命令を出してこのドミニオン社製の投票システムを押収する案も話し合われたとされるが、うさん臭さが漂うフリン、パウエル両氏を会議に入れて論議に参加させること自体、敗北を認めたくない大統領が精神的に追い込まれていることを物語るものだろう。

“最後の抵抗”も不発に

 法廷闘争と選挙人制度の変更が失敗し、バイデン氏の当選が選挙人投票で正式に確定した中、トランプ大統領に逆転の道は残されているのだろうか。唯一残っているのは議会での異議申し立てという“最後の抵抗”だ。

 米メディアによると、共和党の上下両院の議員249人のうち、バイデン氏の勝利を認めているのはわずか37人しかおらず、表面上はトランプ氏の主張に大勢が賛同している。しかし、異議申し立てで、トランプ氏敗北の状況を変えるのは不可能だろう。

 議会は来年1月6日に選挙人投票の結果を公式に認定し、第46代大統領としてバイデン氏を確定させることになる。ワシントン・ポストによると、その際、トランプ支持者の共和党の一部下院議員は憲法の定めに基づいて、ペンシルベニア、ウィスコンシン、アリゾナ、ジョージア、ネバダの5州で不正が行われたとして、異議申し立てを行い、バイデン氏勝利の無効を主張する構えだ。

 申し立てが行われた場合、上下両院がそれぞれ持ち帰って議論するが、申し立てを認めるには、両院が合意しなければならない。しかも、民主党が多数派の下院はそもそもこの申し立てを認めないだろうし、上院もロムニー議員ら共和党の少なくとも4人が申し立てに反対する姿勢を明確にしているため、過半数の獲得は無理だ。トランプ大統領の逆転を狙った“最後の抵抗”は不発に終わる可能性が極めて高いということだ。

ジレンマのペンス副大統領

 トランプ大統領がなお勝利への執念を燃やし続ける中で、ペンス副大統領の立場は一段と微妙になっている。トランプ氏が2024年の次期大統領選に再出馬する意向を示しているため、自らの出番のチャンスが急速に萎みつつあることが同氏にとっての最大のハードルだ。例え出馬しても、今回の選挙で国を二分する7400万票も獲得したトランプ氏の圧倒的な人気と強さを凌ぐのは相当困難だ。

 ペンス氏は1月6日の新大統領認定の際にも大きなジレンマに直面することになるだろう。新大統領の認定宣言は憲法により、上院の議長を兼ねる副大統領が行うことに決まっており、ペンス氏の役割となる。だが、敗北を認めていないトランプ大統領がペンス氏に対し、バイデン氏の大統領を認定しないよう要求する可能性もあり得よう。

 その時、ペンス氏は大統領の要求を受け入れるのか、憲法の規定に従うことを優先するのかの選択を迫られることになる。ペンス氏はこの認定式を終えた直後、お別れの海外訪問に出発する予定だが、新大統領の認定に際して、どう行動するのか、米政界の注目が集まっている。

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