- 2020年12月21日 15:55
2021年、最大のリスクは回復力の過小評価
1/2好ファンダメンタルズがブラックスワンを凌駕した
武者リサーチは1年前のレポート「2020年、積極的に株式に向き合う年に」(ストラテジーブレティン241号 2019年12月23日付)で、2020年は株式投資の大チャンスの年になると予想した。①製造業主導のミニ景気サイクルが回復に転ずること、②新産業革命(5Gデジタル革命)が進行すること、③米中貿易戦争が小康状態を迎えること、④潤沢な投資資金の存在などが根拠であった。リスクは米大統領選挙であるが、トランプ勝利により親ビジネスの経済政策が維持されるだろうと考えた。メディアのアンケートには、2021年の日経平均の高値めどを28000~30000円と答えた。
この強気の株価想定は、前提が大きく狂ったにもかかわらず、的中したとは言えないまでも、ほぼ妥当であった。新型コロナという歴史的疫病が全世界の経済活動を完全にマヒさせ、世界経済は史上最悪の急速な落ち込みになった。その結果、当選確実と見られていたトランプ大統領が落選し、民主党バイデン政権が誕生する。これらは想像すらできなかったマイナス要素であり、まさにブラックスワン来襲であった。にもかかわらず、株高が実現した、なぜだろうか。
ブラックスワンの来襲という超ド級のマイナスを、上述①~④のファンダメンタルズの強さが打ち消した、と考えられる。2021年は①~④の好ファンダメンタルズがそのまま持続し、他方でブラックスワンは消えていく。いや消えるのみならずブラックスワンは、新産業革命の加速と空前の財政金融緩和という恩恵を後に残す。バイデン次期大統領がイエレン氏を財務長官に指名したことで、米国新政権の経済運営が親ビジネス路線を踏襲することが明確化されたことも、好材料である。2021年の予測にあたって、この強靭なファンダメンタルズを軽視してはならない。
ダウンサイドリスクから持たざるリスクへ
2020年、経済と市場は新型コロナパンデミックの悪影響を驚くべきスピードで消化した。株価は5か月でV字回復し、経済も製造業の生産は一年でほぼ前年水準を回復、GDPは中国が6か月で米国も12~18か月でコロナ前水準に回復する見通しである。米大統領選挙を挟んだ11月、米国株式(S&P500)は10.0%、日本株式(日経平均)も14.4%と大幅な上昇となったが、それはブラックスワンの退場が見えたことを評価してのものであろう。この11月の上昇相場はあまりにも急激なもので、大半の投資家は乗り遅れた。その結果、持たざるリスクを強烈に投資家に意識させることとなった。この市場心理の「ダウンサイドリスクへの備え」から「持たざるリスクへの備え」への大転換は、今後到来する強烈な上昇の序奏なのかもしれない。
実際、市場展望は一様に強気になっている。ドイツ銀行グループの12月時点でのアンケート調査(全世界984人の市場専門家対象)によると2021年の最有望の投資対象は米国をはじめとした株式(72%)、最も避けるべき投資対象は現金・債券(62%)とかつてないリスクオン選好を示している。となるとリスクはどこにあるのか。この高まった楽観が裏切られるリスクなのだろうか。いや、2021年展望にあたって最大のリスクは、経済と市場の回復力の過小評価、アップサイドの可能性の過小評価はないだろうか。ダウンサイドリスクとしては、①ワクチンの副作用が発生、2021年を通してコロナは蔓延し続けること、②尚早の金融政策転換がハイテクバブルを崩壊させること、③インフレの高進、の3つが主要なものであるが、意外性はない。またベースラインの強靭さを打ち消すことにはならないだろう。
2021年にかけて、かつてない好条件が株式市場の基礎体温を押し上げることはほぼ確実である。
- コロナワクチン実用化により年後半にはコロナパンデミックは沈静化に向かうだろう
- 製造業景気ミニサイクルはコロナで底が大きく深くなったが、その分回復力が蓄えられた(在庫払底と投資抑制による供給力不足)
- コロナで欲望と貯蓄が堆積しており(いわゆるペントアップディマンド)その一気発現が見込まれる
- 世界的な空前規模の財政拡大と金融緩和の効果が顕在化する
- イノベーション(ネットデジタル、新エネ、脱中国サプライチェーン構築)が加速する
等はほぼ間違いなく実現するだろう。
2021年強烈な短期循環の上押し圧力が顕在化する
上述5要因のうち④の世界的空前規模の財政拡大と金融緩和、および⑤イノベーション(ネットデジタル、新エネ、脱中国サプライチェーン構築)の加速、はこれまでのレポートでも説明していることであり、詳細な分析は次回に回したい。今強調したいポイントは、短期景気循環の強烈な押上げが起きそうだということである。つまり②製造業景気ミニサイクルの回復と③ペントアップディマンドの強さである。この短期景気循環の押上げこそ、2019年末、武者リサーチが2020年を強気に考えた根拠であった。それが2021年に後ずれしておきると考える。