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【読書感想】ブロークン・ブリテンに聞け

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ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain
作者:ブレイディ みかこ
発売日: 2020/10/28
メディア: 単行本



Kindle版もあります。

ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain
作者:ブレイディみかこ
発売日: 2020/10/27
メディア: Kindle版

内容(「BOOK」データベースより)
EU離脱、広がる格差と分断、そしてコロナ禍―。政治、経済、思想、テレビ、映画、英語、パブなど英国社会のさまざまな断片から、激動と混沌の現在を描く傑作時事エッセイ集。

 ブレイディみかこさんが文芸誌『群像』に2年半連載していたエッセイを単行本化したものです。
 著者が「はじめに」で書かれているのですが、ひとつのテーマに絞って、というのではなく、「政治からテレビ番組や映画、アート、英語、王室に至るまで、英国に暮らして新聞や雑誌を読んだり、人と話したりするなかで、そのときに気になるものをランダムに書き綴ってきた」ものになっています。

 そうやって、「そのとき気になるもの」が書かれているからこそ、通して読むと、2018年から、新型コロナウイルス禍の2020年夏までの英国の時間の流れ、人々の生活が封じ込められているようにも感じるのです。

 ちなみに、この「英国」について、著者はこんな話を紹介しています。

 むかし、英国でチャータード・インスティテュート・オブ・リングィストという機関の試験を受けて翻訳者資格を取った。で、そのときにロンドンの夜間大学の試験準備コース講師から最初に教わったのは、ユナイテッド・キングダム(UK)のことを「イギリス」と訳してはいけないということだった。

 講師いわく、「イギリス」というのは、むかし日本人が「イングランド」(発音的に「イングリッシュ」のほうだろう)という言葉を聞いてそれが訛ったものなので、実際には、ウェールズやスコットランド、北アイルランドを含まない。だが、なぜか現在、日本人が「イギリス」と呼ぶものは、これらの地域を含むUKのことである。

 このため、例えば在英日本大使館のパスポート申請書などの公式書簡では、「連合王国」をUKの正式名称として使用している。だから、あなたがたも英国でプロ翻訳者を目指すのであれば、UKを「イギリス」と訳すような初歩的ミスを犯すなよ、でも「連合王国」と言っても日本の人にはどこの王国のことだかわからないので、「英国」と訳しておくのがプロの仕事です、とコース初日に教わった。

 その時点でわたしは在英4年目だったが、何の疑いもなく「イギリス」という言葉を使っていたのでこれには衝撃を受け、英国英語とはなんとしちめんどくさいものなのかと思ったが、実際のところ、本場のイングリッシュというやつは、住めば住むほど、わかるようになればなるほど、ややこしい。

 僕はなぜイギリスをわざわざ「英国」と訳すのか、ヤフーニュースの見出しとかなら字数制限もあるのだろうけど……格調高いイメージだから?などという違和感は持っていたのです。でも、これを読んで、「イギリス(イングランド)」は、「連合王国」の一部でしかない、ということに気づかされました。

 とはいえ、そこで「連合王国」と書いても、多くの日本人は直感的には理解できないし、そもそもこの「連合王国」というのも、正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国 United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」なのです。しかし、こんな長い名前を毎回書くのも難しい。

 というわけで、「英国」という言葉が、頻回に使われているのです。そうか、英国を特別視しているわけではなく、「簡便で言葉が実際に指すものと日本人がイメージするものが一致するのは、『英国』しかない」ということなんですね。

 こういう「雑学」的なものから、著者が実際に体験している「英国の格差社会の現実」につまで、書かれていることはさまざまです。

 昨年(2017年)3月、英国中部のリーズで女子生徒たちが生理のたびに学校を休んでいるということがメディアで大々的に報道された。10歳以上の少女たちが、家庭に生理用品を買う余裕がないために生理になるたび家から出られなくなるという。

 彼女たちは、ソックスの中にティッシュを詰めたり、古いTシャツを破ったり、新聞紙を重ねたりして生理の時期をしのいでいるが、そうしたものは市販の生理用品のように吸収力がないため、制服が汚れてしまうことを恐れて学校に行くことができないのだ。

 政府から低額所得と認定された家庭の子どもたちは、学校の給食費が無料になる。生理になったら学校を休むのも、おもにそうした家庭の子たちだ。ならば給食費無料の女子大生たちに生理用品を無料配布せよと立ち上がった運動が#FreePeriodsであり、首相官邸前などで抗議デモを行ってきた。

 2017年12月に慈善団体プラン・インターナショナルが発表した調査結果によれば、14歳から21歳までの英国の女性たちの10人に1人が貧困で生理用品が買えなかったことがあると答えている。さらに、7人に1人が生理用品を買うために金銭的に苦労していると答え、同じく7人に1人が生理用品を買うお金がなくて友人から借りたことがあると答えている。

 英国で生理用品を買うと、20個入りのナプキン1パックが約2ポンド(約300円)だ。人によって使う個数は違うが、毎月5ポンド(約750円)から6ポンド(約900円)は必要になる。世界でもっともリッチな国の一つであるはずの英国に、それを買えないほど貧しい女性が10人に1人もいるというのである。

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