記事

これは朗報、なのだろうか?

さすが年の瀬、という感じで、やりたいことに割ける時間がじわじわと削られ、何事も消化不良になりがちな今日この頃。

世の中的には「週末」でも、ほぼ平常稼働でげんなりしていた時に目に飛び込んできたのがこのニュースだった。

「政府はフリーランスとして働く人を独占禁止法などの法令で保護する指針を年内にもまとめる。組織に属さずスキルを生かすような多様な働き方を法的な安全網の整備によって後押しする。取引する企業側が契約内容を書面で残さなければ独禁法違反につながる恐れがあることなどを明記する方向だ。」(日本経済新聞2020年12月19日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

これを見て最初に湧いたのは、

「これ、自分も保護してもらえるんだろうか?(笑)」

という素朴な興味である。

この記事を読むだけだと「フリーランス」の定義が全く分からないし、以前出された公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会報告書」*1を見ても、

「個人として働く者」とは,「フリーランス」と呼ばれる人がその代表であり,例えば,システムエンジニア,プログラマー,IT技術者,記者,編集者,ライター,アニメーター,デザイナー,コンサルタントなどが挙げられるが,このほか,スポーツ選手,芸能人を含む,幅広い職種を念頭に検討を行った。」(報告書6頁、強調筆者)

と、いきなり定義なく出番が与えられているから何とも言えないのだが、例示されている職業との対比でいえば、個人事業主として仕事を受けている士業者だって、決して例外にはならないはずだ*2

だから、多少興味を持ちつつ読み進めたのであるが・・・

記事を読む限り、

「新たな指針は公正取引委員会、中小企業庁、厚労省が連名で出す。企業とフリーランスの取引全般が独禁法の対象になるとの考え方を示す。発注者が資本金1000万円超の企業の場合は下請法も適用する。」
「例えば契約条件を書面で示さない場合、独禁法上の「優越的地位の乱用」を招く恐れがあるとして書面交付を促す。仕事内容に見合わない低報酬や成果物の権利の不当な要求を実質的に禁じる。」(前記・日経朝刊1面)

ということで、今回の「指針」の一つのキモは、独禁法における「優越的地位の濫用」、特に下請法が適用される可能性を明確に示す、ということのようなのだが、この点については、何を今さら、というのが正直なところで、下請法の条文上は、今でも、

個人又は資本金の額若しくは出資の総額が1000万円以下の法人たる事業者であつて,前項第4号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの」(第2条第8項第4号)

と明確に書かれているから、新たに指針を設けるまでもなく適用される可能性は今でも十分にある。

もしかすると、当局としては、「下請法は企業間の取引だけに適用される法律だと思い込んでルーズな取引をしている輩が多いからここで注意喚起してやろう」という肚なのかもしれないが、個人で仕事を受ける時に詳細な契約書面を作らないのは、当事者の力関係以前の問題として、受ける個人の側も「面倒だから」というのがむしろ多かったりするような気がする(少なくとも自分はそう)。

特に、この手の書面作成・交付に関する下請法のルールは、あまりに形式的、硬直的で、発注する側はもちろん、請け負う側の会社からも辟易する声が出るような代物だから、そのルールをそのまま個人事業主の世界にまで持ち込むのは正直どうなのかな、と思うところはあるわけで・・・。

代金減額とか受領拒絶、支払遅延防止、といった規制の枠組みをトータルで見れば、網をかけて「守られる」ことの大切さも十分理解できるところだが、一方で働き方も仕事の進め方もある程度自由にアレンジできる、というフリーランスのメリットを受託側が享受する以上は、発注する側にも企業間の取引の場合とは異なる一定の柔軟性を認めた方がかえってプラスになることもあるのではないかな、というのが自分の考えだけに、これが、当事者の主観や行為の悪質性の程度にかかわらず一律に網をかけようとする方向の話なのだとしたら、安易に賛成はできないと思っている*3

そして、ここまで書けば、次にやってくるもう一つのキモ、

「取引の実態が雇用関係に近い場合には労働法の網もかける。」(前記・日経朝刊1面)

という記述を見て、自分がどういう思いでいるかも、あえて書くまでもなくお分かりいただけるだろう。

もちろん、悪質な脱法的行為に対しては、適切な処分と法的救済が与えられて然るべきだと思っているが、そうでなくてもリスクに過敏に反応しがちな日本企業に、がんじがらめの「指針」を突き付けるようなことを行ったとしたら、「角を矯めて柔軟な取引慣行を潰す」ようなことも平気で起きてしまうわけだから、「フリーランス」を助けるつもりが豪快に足を引っ張った、ということにならないように、個人的には、今後出される指針を細心の注意をもって見守りたいと思っているところである*4

*1:https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf

*2:自分の場合、典型的な士業仕事だけでなく、コンサル的要素の強い案件まで手広く受けていることもあって、そういう時はフリーランスを自称することも多いのでなおさらである。この点については、さすがに指針まで出す段階になれば何らかの定義づけはしていただけるのではないかと思っているところだが・・・。

*3:そして、この「格差」を前提とした規制を強化すればするほど、フリーランスが大規模な企業から仕事を直接受注できる可能性は、狭まっていってしまうことになるだろう、とも思っている。

*4:自分が海外の仕事をメインでしていた時、日本との違いを一番感じたのは、欧米はもちろんアジアでも技術者を中心に、独立系の「コンサルタント」と呼ばれる人々が、個人の力で縦横無尽に活躍していることであった。そして、彼らとは、対峙することもあれば、自社で契約して力を借りることもあったが、前者の場合はもちろん、後者の場合ですら「委託する側が強い」なんて思ったことはほぼ皆無。法律の専門家でもないのに、契約を結ぶときは細かく注文を付けてくるし、契約が始まってからも折々で契約を盾に自己主張してくる。それは「法で守られている」かどうか以前の話だったりもするわけで(法律上の保護、という点で言えば、日本の下請法より手厚い保護が受けられる国などそう多くはないはずなのだが・・・)、本当に必要なのはそういうマインドをきちんと持てる環境を築いていくことではないのかな、と思っているところである。

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