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新型コロナの「真実」 大切な人や社会を守るには - 武藤義和 (公立陶生病院感染症内科主任部長)

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2019年12月。中国の武漢で原因不明の肺炎の患者が多発した。いずれの患者も同様の経過をたどり、場合によっては重症化して亡くなることもあった。事態を重く見た世界保健機関(WHO)は職員を中国に派遣し、20年1月初旬に新型コロナウイルス(ウイルス名:SARS-CoV-2、以下、新型コロナ)による感染症であることが明らかとなった。


人々が集まり、価値を共有しながら過ごすには、どうすれば良いのか――
(PHOTO BY KYODO NEWS/GETTYIMAGES)


そこから瞬く間にパンデミックを起こし、世界の感染者数は、20年11月末時点で6000万人、死者数は140万人を超えており、その勢いはとどまるところを知らない。日本でも冬に入り、気温が下がっていくにつれて「気温が低く湿度が低いと感染が広がりやすい」「コロナ禍で初めて迎える冬を乗り越えられるのか」といった警鐘が鳴らされ、報道は過熱気味である。

しかし、当初は感染したら命に関わり、人間社会を破滅に導く恐怖のウイルスという印象を持たれていた新型コロナだが、徐々にその正体が分かり、治療、感染対策、考え方も定まってきている。自分にとって大切な人や社会を守るために、新型コロナを「正しく理解し、正しく怖れる」を実践できる社会にしたい。そこで、この1年間で分かったことを今一度総ざらいして、これからの指針を考えていきたい。

※本記事は20年12月9日時点の情報に基づいています。

新型コロナの感染を
コントロールしにくい理由

コロナウイルスとは、人間の風邪のウイルスとして昔から存在しているものである。毎年の風邪のうち15%はこのウイルスが原因とされていた。風邪というのは鼻水や発熱、のどの痛み(咽頭痛)のように首から上に症状が出ることが多いが、新型コロナは肺炎を起こすウイルスである。すなわち、発熱に加え、咳、息切れ、だるさなどが中心の症状となる。

発熱はインフルエンザのように突然の震えの後に40℃を超えるというものではなく38℃前後であることが多い。逆に鼻水などは少ないとされている。報道でも多く取り上げられた嗅覚・味覚障害という症状も特徴的とされていたが、多くは若い方、特に女性に多いとされている。発生当初から診療にあたっている筆者の経験でも60歳以上の人はほとんどそうした自覚症状はない印象だ。

新型コロナで、特筆すべきは実に「半数近くの人が無症状」と言われていることである。ダイヤモンド・プリンセス号でも3622人の乗客乗員のうち712人が検査で陽性と診断されたが、そのうち半数には全く症状がなかった。さらに厄介なのが、この「無症状の人が感染力を持つ」ことだ。

一般に感染症は感染したらすぐに発症するわけではない。例えば麻疹(はしか)なら感染して2週間程度経過後に発熱する。結核では感染しても数十年間、全く症状がないこともある。03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や、12年の中東呼吸器症候群(MERS)は感染力のピークは発症後であった。

一方、新型コロナは感染してから4~7日後に咳や発熱などで発症するが、その2日前からすでに感染力があり、発症後、数日間程度、感染力が持続すると言われている。そのため、感染者自身も知らない間に感染を広めてしまうという非常に厄介な特徴があり、それが感染をコントロールしにくくしている。

感染対策においては、検査によって感染者を把握し、感染をコントロールする手法が一般的である。しかし、新型コロナについては発症前だと陰性、つまり見つけ出すことができないと言われる。それどころか、PCR検査などでは感染してからも最長で3カ月程度は陽性になり続けると言われており、人にうつさなくなってからも陽性になることがありうる。

つまり、検査のタイミングが非常に大事であり、無症状でも検査をすべき人は、陽性になっている可能性が高い人、つまり感染者の濃厚接触者などとなる。

PCR検査を「いつでも・誰でも・何度でも」ということにしてしまうと、不必要な検査が増えるのみならず偽陽性や偽陰性の懸念も増加し、費用的にもメリットはない。とはいえ検査可能な件数が現状で足りているわけでもないため、真に検査をすべき人に必要なタイミングで行き渡るよう、的を絞ったPCR検査の拡充は必要である。

「重症化」「後遺症」……
不安を煽る報道ばかり

この病気の経過には二つの山がある。一つ目の山はウイルスが悪さをする、感染からおおよそ最初の1週間である。発熱や咳が続くが、それほど重篤にならず経過することが多い。人によってあるのが二つ目の山である。一つ目の山が過ぎ、ウイルスは死滅していく一方で突然重症化する。

これは体がウイルスという異物に対して過剰に反応し、さしずめ空き巣一人をやっつけるのにミサイルを撃って町中を破壊するような反応が起こるためである。この反応は個人差が強く、無症状で終わる人が多くいる一方で、高齢者や肥満(BMI30以上)、血糖コントロールが不十分な糖尿病の患者は重症化しやすいと言われる。

20年2~4月頃の医療現場は壮絶だった。明確な治療も感染対策も分からず、ただ各施設がバラバラの対応をしていた。そのため、次々と運ばれてくる感染者に対して、「あの先生がこの薬剤が効くと言ったから投与する」「うちはこういう対策をしている」という試行錯誤の状態であり、体外式膜型人工肺(ECMO)や人工呼吸器もその使用方法は統一されたものではなかった。

報道でも何度も取り上げられたECMOも万能ではなく、いったん血液を体の外に通すため、血栓や出血など、ECMOの使用による合併症も報告されていた。

20年11月末現在では、デキサメタゾンとレムデシビルという二つの薬剤が承認されており、感染から7日目という重症化するタイミングに合わせて全国的に使用されている。また、薬剤を投与しつつ、「人工呼吸器などの侵襲的な治療が必要となるのはどのタイミングか」の見極めもできるようになりつつあり、全国的に統一した治療の確立と水準の向上が起こりつつある。

結果として、当初全体で5%以上と言われていた新型コロナで重症化して亡くなる人は、今では1.5%以下となった。80歳以上の高齢者に限れば10%前後ではあるが、これは一般的な肺炎と同等か若干低いくらいにまで改善している。

また、報道などで大きく取り上げられているのが後遺症や再感染である。一度感染すると普通の生活に戻れない、不眠やずっと続く咳、呼吸苦、味覚障害や脱毛が最大50%以上の感染者に起こるといったことも言われている。

しかし、筆者の見る限り、ほとんどの患者は健常な生活に戻れている。再感染に関しても3カ月くらいしたら免疫力が低下して感染しうるのではないかとも言われるが、正確な期間ははっきりしていない上に、再び感染したときに重症化するという明確な根拠もない。

ここで大事なのは、「後遺症に苦しむ感染症とは何か」、「再感染しない感染症とは何か」、「再感染で重症化する感染症とは何か」という点である。確かにそういった症候のある感染症は存在する。しかし数多ある感染症のうち、ほんの一握りで起こる事象である。

つまり、「極めて稀な事象であるにもかかわらず、新型コロナを特異な感染症とみなし、これらがさもよく起こりうるかのような前提」で、不安を煽る一方の報道がなされているといえる。

不安や悪い事態を想定することは当然あってよいし、その気持ちに共感もできる。だが、それだけがクローズアップされると、多くの国民を新型コロナへの正しい理解から遠ざけることになり、ひいては患者への差別などを助長することとなる。それではせっかくの注意喚起も意味をなさなくなる。

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