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M-1予選で爆笑をさらったアインシュタインはなぜ落選したのか《審査員が鼻につく「設定」とは?》 - 中村 計

 変わる瞬間を見られるかもしれない。M-1の準々決勝で、そう大いなる期待を寄せていたコンビがいる。昨年から人気急上昇中のアインシュタインだ。

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アインシュタインの稲田直樹(左)と河井ゆずる M-1グランプリYouTubeチャンネルより

 今年の2回戦は動画配信される予定だった。そのため、続く準々決勝以降、2回戦と同じネタをかけると、すでに動画でネタを観ている客に「またあのネタか……」と飽きられる可能性がある。そうならないよう各組とも、本当に自信のあるネタは準々決勝以降に温存する傾向にあった。

 2回戦のアインシュタインは新鮮だった。というのも、彼らと言えば、昨年の「よしもと男前ブサイクランキング」のブサイク部門でぶっちぎりの1位に選ばれたボケの稲田直樹のブサイクキャラが最大のセールスポイント。ネタも当然、そこをからめたものが大半だ。

 ところが2回戦のネタは、稲田の容姿をまったくイジらないものだった。無事2回戦を通過して、最初の勝負となる準々決勝で、2人はどんな温存ネタを見せてくれるのだろうと期待が高まった。だが準々決勝は一転、稲田のブサイクキャラ全開のネタだった。会場はどっかんどっかんウケていた。客は彼らの十八番を待っていたのだ。

 しかし、アインシュタインはその準々決勝で落ちた。あれだけの技術を見せ、あれだけウケていたというのに。

「ウケればOK」とは限らない

 ただ、客は喜んでいても、審査員は倦んでいたのかもしれない。以前、2008年のM-1王者、NON STYLEの石田明がこんな風に語っていたことがある。

「アインシュタインは、僕らがめちゃめちゃウケてて、準決勝で敗退していた頃と、すっげー似てるんですよ。結局は、稲田がウケやすい設定でしかやってない。僕らも優勝する前は、イキったキャラの(相方の)井上(裕介)がウケやすいシチュエーションばかりを考えていた。

 でも、自分たちから離れた方がおもしろいんです。俳句って季語から遠い発想が入っているとおもしろくなる。大喜利もお題から遠ければ遠いほどおもしろい。僕らが新しい漫才に取り組んで初めて決勝に進んだ時、ウケだけで言えば、それまでの『イキり漫才』の方がウケていたと思うんです。ただ、ウケやすい、近道の漫才ばかりやっていた。なので審査員は鼻についていたかもしれませんね」

 石田がそんな風に話していたものだから、2回戦を見たとき、アインシュタインもついに「ブサイク漫才」を捨てる決意をしたのかと思った。若く、才能あるコンビが、ついに新しいスタイルを探す大航海に漕ぎ出したのだと興奮した。

 しかし、実際は、まったくの見当違いだったようだ。

容姿をイジることのリスクが高まってきた

 漫才は難しい。「正解」はない。

 結局のところ、正解があるとしたら、自分たちがおもしろいと思った漫才、やっていて自分たちが楽しいと感じられる漫才をやり切るしかない。

 そして、アインシュタインの「正解」が準々決勝のネタだったのであれば、その選択に対し誰も何も言うことはできない。

 ただ、こうは思う。現代において、容姿をイジるスタイルはいろいろな意味でリスクが高いし、最終的に本人たちが行き詰まるのではないか。

 やや話はそれるが、今年の『THE W』の準決勝でMCを勤めていたはりけーんずの前田登がこんな感想をもらしていた。

「太ってる子って、太ってるネタばっかり書かれたら、私は太ってなきゃいけないんじゃないかって思ってしまうんじゃないですかね」

 前田がこう心配するように、いわゆる「容姿イジリ」は女性芸人ほど顕著だ。それが芸に昇華されていれば笑えるが、正直「また、モテないネタか……」とうんざりさせられることも少なくない。

女性コンビの決勝進出は3度のみ

 M-1において、過去、女性コンビが決勝に進出したことは4度しかない。2005年のアジアン、2006年の変ホ長調、2007、2009年のハリセンボンだ。男女では芸人の数がそもそも違うといってしまえばそれまでだが、女性芸人が自虐ネタに頼り過ぎているせいもあると思う。一発ギャグなら効果的かもしれないが、3分から4分の漫才で、何度も自虐ネタを見せられると空気がささくれ立ってくる。

 よいネタとは、ひと言で言えば、誰が演じてもおもしろいものだ。自虐に走ると、ネタを磨く作業が疎かになる。

 前田の懸念をある有名女性芸人に投げかけると「(太ってなきゃいけないと)思うでしょうね」と即答した。

 だとしたら、それはエンターテイナーとしてどこか歪なのではないか。それとも、それが芸人という生き物なのだろうか。

 歪な台は、強い負荷がかかったとき、どこかに無理が生じる。その無理が空気をささくれ立たせているような気がしてならない。

2回戦のアインシュタインは自由そうに見えた

 誤解しないで欲しいのだが、アインシュタインの漫才が歪だというわけではない。彼らの漫才は無理を感じさせないからこそ、あれだけウケるのだ。まさにプロの技である。容姿をイジっていても、ぼる塾のように笑えて仕方ない女性芸人もいる。容姿イジリは簡単なようで、じつはとても高度なテクニックと、それをやってもほっこりさせられる天性の愛嬌のようなものが必要なのだと思う。

 それにしても、真相はどうだったのだろう。本当はもう一本、脱ブサイクネタを持っていたが、直前で確実にウケを取れる得意ネタに変更したのだろうか。あるいは、むしろ、ブサイクネタを温存していたということなのだろうか。

 来年、アインシュタインは、どんなネタでM-1に臨むのだろうか。あのスタイルを貫くのか、壊すのか。

 彼らは本当に楽しそうに漫才をする。加えて、2回戦のアインシュタインは、これは錯覚かもしれないが、自由そうに見えた。

(中村 計/Webオリジナル(特集班))

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