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日銀による国債引受が禁じられている理由

 自民党の安倍総裁は11月17日に、熊本市内で講演し、衆院選後に政権を獲得した場合、金融緩和を強化するための日銀法改正を検討する考えを重ねて表明した。「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていく」と述べ、日銀が建設国債を全額引き受けるのが望ましいとの考えを表明した(日経新聞)。

 日銀による国債の引受けは、財政法第5条によって原則として禁止されている(国債の市中消化の原則)。

 財政法第5条:すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

 中央銀行が、いったん国債の引受などにより政府への資金の供与を始めてしまうと、その国の政府の財政規律を失わせ、通貨の増発に歯止めが効かなくなり、将来において悪性のインフレを招く恐れが高まる。それにより日本に対する国内外からの信認も失われ、格付け会社による日本国債の格下げも行われよう。国債への信認低下により日本の長期金利は大きく上昇し、これは日銀の金融政策などにより抑えられるものではなくなる。

 中央銀行による国債引受は麻薬に例えられることがある。いったん踏み入れてしまうと常用することになり、元には戻れず最後に身を滅ぼすことになる。先進主要国が中央銀行による政府への信用供与を厳しく制限しているのは、こうした考え方に基づくものである。

 たとえば、米国では連邦準備法により連邦準備銀行は国債を市場から購入する(引受は行わない)ことが定められている。また、1951年のFRBと財務省との間での合意(いわゆるアコード)により、連邦準備銀行は国債の「市中消化を助けるため」の国債買いオペは行わないことになっている。しかし、FRBは2009年3月から3000億ドル分の長期国債の買入れを行ない、同年10月には6000億ドルの追加購入を決定したが、これらは財政ファイナンスが目的ではない。

 また、欧州では1993年に発効した「マーストリヒト条約」およびこれに基づく「欧州中央銀行法」により、当該国が中央銀行による対政府与信を禁止する規定を置くことが、単一通貨制度と欧州中央銀行への加盟条件の一つとなっている。つまり、ドイツやフランスなどユーロ加盟国もマーストリヒト条約により、中央銀行による国債の直接引受を行うことは禁止されている。ECBは2010年5月より国債の買入れを行っているが、国債市場の安定化や市場機能の正常化を目的とした市場からの買入れである。

 イギリスではイングランド銀行による国債の引受は明示的には禁止されておらず、以前にはイングランド銀行による国債の直接引き受けが行われていた例はあるが、現在、直接引き受けは行われていない。イングランド銀行も2009年3月から国債買入を行ったが、その目的は中期的なインフレ率目標を達成するために、マネーと信用の供給量拡大をはかるためであり、やはり財政ファイナンスが目的ではない。

 日本を含めて主要先進国では中央銀行による国債引受は禁じられていることを示したが、日銀については国債引受には例外が存在している。このため、日銀はすでに国債引受を行っており、日銀による国債の直接引き受けは問題ないと論じる向きもいる。

 たしかに日銀による国債引受については例外があるが、これは財政ファイナンスを目的としたものではない。日銀保有の国債償還分の1年間に限って現金償還を延長するのも、60年償還ルールに基づいた借換債の発行増による市中への影響を軽減させるなどの目的もあるものとみられる。さらに、FBについては「予期せざる資金需要」が発生した場合などにはむしろ短期的な措置としては必要なものであろう。それぞれ、あくまで短期的な措置である。

 もし、日銀が財政ファイナンスを目的とした国債引受を行うとなれば、その時点で市場参加者による国債への信用が失われよう。当然ながら長期金利にもその影響は及ぶであろう。そして、その歯止めが効かないと認識されると、歴史上何度も繰り返されたような悲惨な事態が起こりうる。それだけは絶対に避けなければならない。

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