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「高校野球が好きだけど、半分は嫌いなんですよ(笑)」慶応高校野球部監督が坊主頭にこだわらないワケ 森林貴彦(慶應義塾高校野球部監督、慶應義塾幼稚舎教諭)――クローズアップ - 「週刊文春」編集部


『Thinking Baseball 慶應義塾高校が目指す"野球を通じて引き出す価値"』(森林貴彦 著)東洋館出版社

 2018年に慶應義塾高校野球部は、強豪ひしめく神奈川県を勝ち抜き、春夏連続で甲子園に出場した。15年より監督を務める森林貴彦さんが、自身の高校野球観を綴った一冊『Thinking Baseball』(東洋館出版社)を上梓した。その内容は高校野球に留まらない。日本の教育のあり方、人生100年時代に育むべき価値観まで、射程は広い。

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「僕は高校野球が好きだけど、語弊を恐れずに言えば、半分は嫌いなんですよ(笑)。というのも、今の高校野球のあり方には疑問点がたくさんある。そういうところを改善したくて監督をやっているところもあります」

 甲子園出場時、慶應高校は自由な髪型でも注目された。

「坊主にしろ、と言われて、ハイ、わかりました、と坊主にするのは、ある意味では楽ですよね。『なぜその髪型にするのか?』と、自分の頭で考えなくてもいいんですから。僕は、坊主にするのが悪いと言っているわけではない。髪型に限らず、自分自身で物事を考えられるようにならなくてはいけないんです」

 森林さんは、高校野球の根本はあくまで教育だという。

「甲子園は大人にとってはエンターテインメントだということはわかっています。でも、そこに出場している子どもには未来がある。人によっては、卒業したらすぐに社会に出ます。今の社会は、言われたことだけやっているような人は求めていません。高校生の間は言われたことをやらせてただ勝つことだけを求め、社会に出たら知りません、自分で考えなさい、では無責任ですよね。僕は高校野球を通して、この先の人生に通用するような主体性を身に着けてほしいと考えているんです」

 慶應高校では、監督と生徒の間に上下関係はない。生徒たちは「監督」と呼ばず、「森林さん」と話しかける。

「高校生をバカにしてはいけません。僕はほとんど大人として扱っています。そのために、普段から意識して〈問いかけ〉を行っています。『どう思っているの?』『なぜそのプレーを選択したの?』等々。例えばミスをしても、ただ叱るのではなく、その意図を聞きます。失敗の原因を自分で考え、理解することで、同じ失敗を繰り返さないようになるんですね。スポーツは本来、たいへん知的な作業なんです」

 甲子園人気は未だ非常に高いが、今年はコロナ禍で中止を余儀なくされた。

「生徒たちはもちろん甲子園を目標に日々練習しているわけで、中止の決定には僕自身も絶望感を味わいました。そういう大きな目標が突然奪われた時、どう生きるのか? 部活動、教育のあり方を改めて考える契機になったと思います」

 今年で監督6年目を迎えた。来年には社会人となる教え子もいる。

「自分自身、視野を広げるため、異なる業界の方との会合にも参加しています。野球でしか通用しない常識を子どもに押し付けるのではなく、スポーツ界、そして社会そのものにインパクトを与えられるような教育を実践していきたいと考えています」

もりばやしたかひこ/1973年生まれ。慶應大時代、慶應高校野球部の学生コーチを務める。NTT勤務を経て、筑波大大学院にてコーチングを学ぶ。慶應高校コーチ、助監督を経て、2015年8月に監督就任。18年春、9年ぶりにセンバツ出場、同年10年ぶりに甲子園(夏)出場。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年12月24日号)

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