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祝M-1初の決勝! ウエストランドが愛される理由


今年の『M-1グランプリ』決勝進出9組が発表された際、驚きとともに祝福の声、その人数はともかく、熱量がひときわ高かったのが、タイタン所属、岡山県津山市出身の井口浩之、河本太からなるウエストランドに対してだったと思う。

驚き、喜んでいるファンの多くが、「応援してたけど、まさか本当に決勝いくとは思わなかった」という心境だったのではないだろうか。個人的には、とろサーモンが決勝に行ったときの心境に近い。とろサーモンについてはその上に「応援してたけど、まさか本当に優勝するとは思わなかった」が乗っかるのだが。

ウエストランドが愛され、ここまで決勝進出を待望されていた理由はなんだろうか考えてみる。

ここまで、なかなか陽のあたる場所に出てこられたなかったことはあるだろう。2011年、芸歴4年目にし『笑っていいとも!』の準レギュラーに抜てきされ、かなり順調にキャリアを進んでいるようにみられたが、チャンスを掴みきれぬまま番組は終了。

その後、『THE MANZAI』をはじめ主要な賞レースは全て決勝に行く寸前で敗退しており(井口についてはピンで出場した『R‐1』敗者復活戦で“2位”になった)、今回の『M-1』が正真正銘の初ということもあるだろう。

これまでのウエストランドの主戦場はお笑いライブシーンだ。ライブファンからしたら、彼らがついに『M-1』決勝という超大舞台に立つ、というのは感慨深いのかもしれない。

しかし、「決勝に初めていけたから」という理由ならば、今年についてはおいでやすこが、東京ホテイソンや錦鯉だってそうだ(もちろん、これら3組への祝福の声はSNS上で多く見られた)。もっといえば、ファンに愛されながらも決勝の舞台を一度も踏めないまま、結成年が経過したコンビが大半だ。苦節○年なんて、M-1では珍しくない。

ウエストランドは特殊である

ウエストランドが愛される理由は、その漫才ネタの中にちゃんとある。

ウエストランドの芸風は、ほかの8組全組と分かつ点が1点だけある。いうならば、ウエストランドのネタは、ウエストランドそのものなのである。

コント漫才、しゃべくり漫才、システム…漫才にさまざまな種類、手法があるが、多くのお笑いコンビ、トリオについていえる共通点が1つある。それは「人」と「ネタ」に乖離がある、ということ。

どんな漫才師も、本当に「タクシー運転手になりたいから相方にお客さん役をやってほしい」わけでも、「おかんが好きな朝ごはんの名前を忘れたから一緒に思い出してほしい」わけでもない。それはあくまでも、「ネタ」上の設定である。

ウエストランドほど、「人」と「ネタ」の乖離がないコンビもなかなかない。それは、あえてジャンル分けするならば、ツッコミ・井口の主張である。ウエストランドのネタは、ウエストランド、というか井口そのものなのだ。

彼らのネタには、若手お笑い芸人が持つ貴重な資産「モテない、売れない、金がない」を燃料にした、「妬み、嫉み、僻み」というルサンチマンが濃縮されている。

ややぽっちゃり気味でのんびりマイペースそうなボケの河本、小柄で神経質そうなツッコミの井口。まずこの時点で「漫才コンビ」としてのコントラストが見事。ネタが始まると、イメージ通りのんびり飄々とボケていく河本に、早口で井口がツッコんでいく。

しかし、終盤ターボがかかってくると、河本はまるで壁打ちの壁のようになっていき、目の飛んだ井口が1人でひたすら早口でまくしたてる状況に。「ツッコミが実はボケというシステム」というようなカッコいいものではない。「本当にヤバい奴は井口の方だった」ということが発覚するただのドキュメンタリーだ。

しかし井口が放つ言葉には一定の理もあり、誰もが一度は思ったことがあるような感情、心の叫びであり、だからこそこの異常者の言葉は共感をも呼ぶ。

ウエストランドのネタについては、決勝進出が決まったあと初のウエストランド公式YouTubeチャンネル『ぶちラジ!』にて、井口自身が下記のように述べていることからも分かる。

(準決勝の出番順は)前半だったしね。思い切ってやるしかないということで、本当に言いたいことを全部言って、めちゃくちゃ言ったことが(よかったと思う)。
『M-1』って「これ言っちゃダメ」「こういうネタやっちゃダメ」っていうなんとなく都市伝説みたいなのがあるじゃないですか。そういうのを取っ払って、開き直って言いたいことを言えばいいやっていうのが、いい結果につながったんじゃないでしょうか。

ここで注目すべきなのは、井口自身がネタを「言いたいこと」と評していることだ。「面白いこと」であることは大前提だろうが、それとともに、ウエストランドのネタは「井口の言いたいこと」の集積なのだ。

このYouTubeではさらにこの後、決勝進出を祝福するリスナーからの「キラキラした人生を送ってきたヤツらに決勝の舞台で復讐する姿を楽しみにしています」というややネタっぽいメールにも、井口が「お前ら、俺を利用して発散すんな(笑)」とツッコむ。「復讐すること自体は否定していない」のだ。

ウエストランドは“ピュア”である

「妬み、嫉み、僻み」をパンパンに詰め込んだネタであり、そういう意味では陰湿な芸風、と言えるかもしれない。

しかし、ここまで発想、構成、センス、システムが進化しききってしまった現在の漫才文化において、「言いたかったことを言い、帰っていく」という驚くべきシンプルさ! それはさながら「未成年の主張」に近く、一周回って誰よりもピュアなのではないか、とさえ思えてくる。

ウエストランドはすでに流出している

さらに井口の人間としての面白さに追い打ちを、もとい拍車をかけているのが、昨年発生したいわゆる「いぐちんランド」騒動

いまさら過去のことをほじくり返すのも野暮なので詳しくは書かないが、ファンを騙る女性からSNSで送られてきた裸の写真に応え、自らの局部の写真さらには動画を送り返したところ、すぐさまその写真がネット上に晒された、という騒動のことだ。この件で相当精神的ダメージを食らった井口は、人としての陰影もより濃くなったと感じる。

とろサーモンの久保田と同様に、“生き様”そのものが面白い。背負っているものが他の出場者とは違うのだ。

ウエストランドはフリートークもある意味ヤバイ

『M-1』といえば、ネタ披露後の出場者と、審査員ら&司会・今田耕司との絡みも注目ポイントの一つだ。ウエストランドについて、ここでは今度は河本の方が注目だ。ボケ、というより、ただのお笑いファンで、フリートークが上手くできず、毎回、意味不明のボケを繰り出しては会場の温度を見事にネタ前に戻す河本。

岡山の山の奥から出てきた輩のような風体だが、一応プロのお笑い芸人として変に場なれしている分、余計にたちが悪い河本と、松本人志や上沼恵美子ら並み居る審査員らとの絡みが今から楽しみすぎる。

斬新なシステムがあるわけでも、キレッキレのセンスがあるわけでもない。愚直なスタイルのウエストランド。優勝できるとしたら、おそらく初見ブーストがかかる明日が最初にして最大のチャンスだと思われる。

ちまたでは「人を傷つけない笑い」が流行りのようなのだが、優勝してまたお笑いのトレンドを醜く捻じ曲げてくれることに期待したい。

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