記事

特集:2012年米大統領選結果を読む

1/2
先週11月6日には米大統領選挙が行われ、オバマ大統領の再選が決まりました。ただし同日の議会選挙の結果もほぼ現状維持で、ホワイトハウスと議会のねじれ関係はあいかわらずです。ということは、与野党対立の構図に変わりはなく、今後も「財政の崖」問題などで政治の停滞が続くことになりそうです。

本誌としては、この結果はいちおう「読み通り」。とはいえ、終わったからには検証が必要です。過去の選挙と同様に、今回も出口調査などを踏まえて2012年選挙の結果を分析しておきたいと思います1。

●選挙結果:わずか2州をかえただけ

不思議な選挙だった。2人の候補者がそれぞれに「チェンジ」(変革)を訴えた。現職のオバマ大統領は、4年前に約束した変革が十分に果たせていないから、あと4年の任期をと訴えた。挑戦者のロムニー候補は、今のアメリカが向かっている方向は間違っており、これを変えようと主張した。

ふたつの「チェンジ」が真っ向からぶつかり合った結果は、前回の2008年選挙とほとんど代わり映えしなかった。わずかにインディアナ州とノースカロライナ州の2州が、民主党から共和党に移っただけである。後は48州で同じ結果が出た。2年近くもの時間をかけ、史上最高の選挙資金を投入し、テレビ広告による派手な空中戦や、大量動員によるドブ板選挙を展開したにもかかわらず、政治状況を大きく変えることはできなかった。

1 過去の本誌では2008年11月14日号「米2008年選挙の出口調査から」、2004年11月12日号「米大統領選の出口調査を読む」がある。

○過去10回の州別選挙結果(D=民主党、R=共和党)

[画像をブログで見る]

Washington Watch誌が面白い試算を行っている2。今回の選挙戦で両大統領候補が集めた政治資金は、オバマ陣営が6.8億ドル、ロムニー陣営が4.5億ドルで合計11.3億ドルであった。これにスーパーPAC分を加えると選挙資金総額は逆転し、オバマ陣営が11.8億ドル、ロムニー陣営は12.3億ドルとなる。合計24億ドルだが、今回の選挙では約1億2200万人が参加したから、割り算すれば「1票20ドル」という計算となる。これだけの巨費と長い時間をかけた選挙が、わずかに2州の結果を変えただけであった。

前頁のように、過去10回分の選挙結果を振り返ってみると、かつては振幅が大きかった州ごとの変化が、非常に小さくなっていることが見て取れる。近いところでは、ちょうどブッシュが再選を決めた2004年選挙も、3つの州の結果が入れ替わっただけだった。カール・ローブによる共和党の巧みな選挙戦術が語り草となった年だが、2012年もまたオバマ陣営が尐ないリードをうまく守り切った年として記憶されることだろう。偶然にも2004年と2012年は、どちらも「約6200万票対5900万票」で決着している(次頁参照)。

●出口調査:オバマ連合の誕生と共和党の不安

2012年のCNN出口調査を、過去2回分と比較したものが次頁の表である3。 これを見ると、オバマが強さを発揮したクラスターとして、①独身者(62%)、②黒人(93%)、ヒスパニック(71%)、アジア系(73%)、③若者(60%)、④年収5万ドル以下の低所得層(60%)、⑥無宗教者(70%)などが目立つ。しかもこれらは揃って、過去2回の選挙に比べて投票比率が増加している。

民主党が人種的尐数派や低所得層に強いのは昔からのことだが、特にこれからも増加が見込まれる「若者」「ヒスパニック」「無宗教者」の間で民主党ブランドが強まっていることは、中長期的に見て有利な材料と言えるだろう。逆に共和党側は、「結婚している白人の中高年層」を長年の地盤としてきたが、こちらは人口動態的に尐数派に転落しつつある。今後の巻き返しのためには、新たなクラスターを味方につける必要があるだろう。

また興味深いことに、⑤Party IDは4年前とほとんど変化がない。そしてDemocratはより民主党候補に、Republicanはより共和党候補に投票する傾向が強まっている。Independentではオバマはロムニーに5p負けており、4年前に比べて7pも減らしている。今年のオバマは、けっして無党派層に人気があったわけではない。この4年間で、オバマのポジションはそれだけ左寄りになったということだろう。

⑤Ideologyでは、Liberalの比率が尐しずつ上がってきて今年は25%になった。それでもConservativeの35%には及ばない。この間にModerate(穏健派)が細ってきている。アメリカ社会の党派的分裂が、こんなところにも表れている。つまり、世論の左傾化と右傾化が同時進行しているという点に注意が必要だろう。

2今回の選挙戦では総額60億ドルが使われたとされるが、これは議会選挙や知事選も含めた総額である。

3 http://edition.cnn.com/election/2012/results/race/president#exit-polls

○過去3回分の選挙出口調査(CNN)

[画像をブログで見る]

⑥宗教については、有意な変化は見出しにくい。ユダヤ系の共和党支持が尐しだけ上昇したのは、ロムニーがネタニヤフ首相との関係を強調した効果であろう。また、「今年は宗教的右派が動かなかった」との指摘をよく聞くが、出口調査を見る限り今回も投票した4人に1人がみずからを”Evangelical/Born-again”であると回答し、そのうち4人に3人が共和党に投票している。この辺は過去2回とさほど変化がないように見える。

出口調査から浮かび上がってくるのは、民主党側が若者、ヒスパニック、無宗教者などの新しい有権者層を開拓し、支持者としてうまく結びつけていることだ。彼らを「オバマ連合」と呼ぶことも可能であろう。 他方、共和党側は「白人中高年層」の先細りとともに将来に不安を抱えていることになる。尐し邪推を加えるならば、下院を中心とする共和党の抵抗が根強い背景には、「自分たちがいつかはマイノリティになる」(だから今のうちに勝っておきたい)という焦りがあるからではないだろうか。

●議会情勢:深まる対立の構図

大統領選挙と同日に行われた議会選挙も、ほぼ現状維持となった。上院は民主党が多数を占め、下院を共和党が支配する「ねじれ」の構図は変わっていない。

下院は、共和党の2010年の勢いがほぼ続いており、ティーパーティの影響力は衰えていない。これには2010年の国勢調査に伴う選挙区の再区割り、いわゆる「ゲリマンダー」によるプラス効果も働いた模様である。

上院では、前回2006年選挙が共和党の「負け過ぎ」であったので、今度は議席を増やすかと思われたが、激戦区は「1勝3敗」となって逆に2議席を減らすこととなった。こちらはティーパーティによる無茶な候補者擁立が自滅を招いた形である。

民主党が上院で5議席差の優位を築けたのは、望外の成果といえよう。もっとも議会選挙はまたすぐ2年後の2014年にやってくる。上院では、2008年に民主党が大勝ちした回の「裏」が回って来るので、5議席差があっても安閑とはしていられない。このことは、現職上院議員の閣僚起用(例えばジョン・ケリー国務長官)を難しくするだろう。

○議会・知事選挙の結果

[画像をブログで見る]

結果として、第2期のオバマ政権は今までと同様に議会との対立に直面することになる。「変わらない選挙結果」が、「決められない政治」の継続をもたらすことになるとしたら、何ともやり切れない気がする。

普通に考えれば、2期目を迎えたばかりの大統領は強い立場である。自分は民意を得たと主張でき、三選を禁止している合衆国憲法上の規定上、これ以上の再選を考える必要がない。向こう4年間は後顧の憂いなく、やりたい課題にじっくりと取り組むことができる。次の中間選挙までの向こう2年間は、大統領にとって最高の時間となるはずだ。

さしあたっては、当面の経済政策における最大の課題である「財政の崖」(Fiscal Cliff)への対応が問われよう。今年の暮れでブッシュ減税が期限切れとなり、放置しておくと来年から大増税となる。また、財政再建に向けての与野党合意ができていないために、来年の年明けからは歳出の強制削減が始まる。これらが同時に行われると、対GDP比3~4%の国民負担増となり、来年のアメリカ経済は一気にマイナス成長に転じる恐れがある。財政健全化だけを考えるのならともかく、下手をすれば崖から落ちるように景気が腰折れするかもしれない。その場合、世界経済への影響も計り知れないことになる。

オバマ大統領としては、「富裕層への増税」は公約の一部であり、譲れない一線である。所得のトップ2%だけは減税を取りやめ、それ以外は減税継続をと主張している。これに対し、下院共和党は抵抗するだろう。彼らもまた、議会で多数を得たからには民意は我にありと主張するはずである。

あわせて読みたい

「アメリカ大統領選」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    変異株で感染の閾値が低下した 緊急事態宣言延長は仕方ないか 橋下さんと岩田先生の交わりのない議論を聞いて 責任ない批判は簡単

    中村ゆきつぐ

    05月06日 08:21

  2. 2

    原宿の竹下通りが「地方都市のシャッター商店街化」の衝撃

    内藤忍

    05月06日 16:17

  3. 3

    ワクチン接種は1日67万人ペースでないと年内に終わらない

    諌山裕

    05月06日 13:46

  4. 4

    「週刊文春」の強さはどこからやってくるのか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    05月05日 12:05

  5. 5

    渋野日向子 海外挑戦で欠場も“罰金100万円”規定に相次ぐ疑問の声

    女性自身

    05月06日 10:09

  6. 6

    病院の窓にデカデカと「医療は限界 五輪やめて」

    田中龍作

    05月05日 08:42

  7. 7

    「経済優先で人は何を失うのか」 失踪外国人を通し日本を描く映画『海辺の彼女たち』

    清水駿貴

    05月06日 11:36

  8. 8

    小池百合子知事は東京オリンピック開催中止を進言できるか トップに立つ者の責任

    猪野 亨

    05月06日 08:46

  9. 9

    東京五輪に沈黙する小池都知事 豊田真由子氏「反対の世論を見て振る舞い変えている」

    ABEMA TIMES

    05月05日 20:47

  10. 10

    オリンピック中止に舵を切るためには、やはり二階さんの力が必要なようだ

    早川忠孝

    05月05日 16:48

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。