若い女性がデートや性行為の対価として年上の男性からお金をもらう「パパ活」。パパ活から生まれる純愛はあるのか。パパ活を題材にした小説『彼女のスマホがつながらない』を執筆した小説家の志駕晃氏は「お互いに恋愛対象としては見ていないようだが、中には不思議な結びつきを感じたケースもある」という――。(後編/全2回)
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「港区女子」のギャラ飲みが発祥か
(前編から続く)
――パパ活という言葉はいつごろから使われるようになったのでしょう。
2014年くらいから「港区女子」と呼ばれる女性たちの間で使われはじめたそうです。六本木や麻布十番、乃木坂などの東京・港区で行われる豪華なホームパーティに、容姿やオシャレに自信がある「港区女子」がギャラをもらって参加するようになりました。そんなギャラ飲みが、パパ活へと進化していったと言われています。
また、愛人や援助交際という言葉は古くさくてダサいうえに、女の子に抵抗感を与える。そこで、交際クラブが、パパ活という言葉を使いはじめたという説もあります。
いまも昔も、若い女の子に対して、気前よくお金を払う富裕層は存在します。キャバクラで、一晩で10万円も散財するのなら、お小遣いという形で気に入った女の子にお金を直接渡した方がいいと考える男性もいます。
女性にしても、ふだんは縁のない高級レストランでごちそうしてもらえたうえ、お小遣いまでもらえる。
友人に「私には、年上で、お金持ちの彼がいるの」と自慢気に吹聴する女性もいるそうです。援助交際や売春という言葉は、貧困や悲壮感に結びつきますが、パパ活には、まだそこまでのマイナスのイメージはない。だから女性も罪悪感や後ろめたさを持たずに、パパ活をはじめてしまうのではないでしょうか。
ある調査によれば、20代女性の10人に1人はパパ活の経験があるそうですから。
多様な形態の売春や男女の出会いが「パパ活」でひとくくりにされた
――パパ活とオブラートに包んではいますが、実際は援助交際であり、売春であり、妻子を持つ男性との愛人契約でもある気がするのですが……。
そう思います。
ただパパの援助で、タワーマンションに暮らす女性は、自分が愛人だという意識は薄いのではないでしょうか。彼女たちにとっては、愛人契約ではなく、あくまでもパパ活なのだと受け止めているように思います。
その意味で、パパ活は便利な言葉なんです。
昔なら愛人と呼ばれるような生活をしている女性も、1回1万円で食事だけごちそうになる女子学生も、援助交際のようにSNSで男性を探して2万円、3万円で身体を売る女の子も、パパ活という言葉におさまります。
アプリやSNSなどの発達が、多様な形態の売春や、男女の出会いを、パパ活とひとくくりにして裾野を一気に広げてしまったのではないかと感じます。
パパ活は「1カ月でどれだけ稼げるか」の労働
――コロナの影響でパパ活に変化はあったのでしょうか。
緊急事態宣言直後は、感染を警戒して女性と会うのを控えるパパが多かったのですが、現在はそれなりに復活しているらしいです。そこには、キャバクラやラウンジで遊ぶよりも、決まった女性と会う方が、リスクが低いという考えもあるのでしょう。

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何よりもコロナは、水商売にたずさわる女性たちに大きな経済的ダメージを与えました。そんな女性たちがパパ活に流れていてもおかしくありません。
問題は、その女性たちが思うようなパパ活ができているのか。交際クラブにパパを紹介してもらえれば、年収や立場もそれなりに保証されています。しかし誰もが条件のいいパパを紹介してもらえるわけではありません。交際クラブに登録しても、定期的にお小遣いをくれる「月極パパ」や「太パパ」に出会える女性は3割程度と聞きました。
一方、マッチングアプリでは、どんな相手がくるか分からない。年収も経歴も、提示した条件すらも、デタラメの可能性すらある。トラブルの温床になっているにもかかわらず、アプリでパパを探す女性はたくさんいます。それほど生活に困窮しているのです。
コロナ前のことですが、パパ活アプリを利用している女性にインタビューしようと接触を試みました。けれどほとんどドタキャンされてしまいました。
推測も含みますが、おそらく彼女たちは、太パパや月極パパがいない。だから、マッチングしたパパとのスケジュールは押さえますが、より好条件のパパが見つかると、前の予定をキャンセルしてしまう。彼女たちにとってパパ活は、労働なんです。1カ月でどれだけ稼げるか……。彼女たちは毎日、必死になってスケジュールを入れているそうです。
私が話を聞いた女性たちは「パパ活は、キャバ嬢や風俗嬢よりも効率がいい」と口をそろえていました。
実は、そこがパパ活のメリットの1つです。マッチングさえすれば、自分の好きな時間帯をパパと過ごして、お小遣いをもらえる。バイトのようにシフトを守らなくてもいいし、キャバ嬢のように遅刻や欠勤をしても罰金を支払う必要もない。しかも勝ち組の女性は、月数度の食事だけで、数万円ももらえる。労働に対する単価が非常に高いんです。
「彼氏とエッチしてもお金をもらえるわけではないから」
――でも、すべてのパパが食事だけですむわけではありませんよね。

志駕晃『彼女のスマホがつながらない』(小学館)
ええ。だからこそ、パパとの性行為を仕事だと割り切れるかどうかで、どれだけ稼げるかが決まるのではないでしょうか。
取材した女性の1人がこんな話をしてくれました。付き合っている彼氏に、パパ活がバレて「やめろ」と怒られたそうです。それでもパパ活をやめなかった。彼女の言葉が印象に残っています。
「彼氏とエッチしてもお金をもらえるわけではないから、パパ活はやめられない」
取材のなかで、ひとつ気になることがありました。彼女たちにとってパパは恋愛対象なのか、と。
話を聞いたほぼ全員が「恋愛対象として見ていない」と答えました。知り合ったきっかけは、交際クラブやパパ活アプリです。パパは、自分以外の女性とも同じように遊んでいるはずだから、それ以上は求めない。恋愛感情を持ったり、結婚を意識したりするはずがないとも言っていました。それは、男性も同じ。自分がお小遣いを渡している女性が、ほかの男性とも似たような条件で食事や性行為をしていると割り切っている。
パパ活女子は本当の父親を求めているのかもしれない
とはいえ、パパ活で出会った男女に、恋愛とも疑似父娘とも言えない不思議な結びつきを感じたケースもありました。男性側が、女性の容姿や、肉体関係だけではなく、2人の間に生まれた絆や信頼のような関係性に対し、お金を支払っている印象を受けたのです。
また、パパに対して金銭だけではない関係性を求めているように見える女性たちもいました。
もしも、彼女たちの実父が学費も生活費も支払えるくらいの経済力を持ち、精神的にも娘を満たせてあげられる存在ならどうだったのか……。きっと彼女たちは、パパ活をしなかったはずです。なかには母子家庭で育ったり、親子関係が破綻したりしてしまった女性もいました。彼女たちとの会話のふとした瞬間に、父性への飢えや憧れが伝わってきたのです。パパ活にハマる女性たちは、本当の父親を、父性を求めているのかもしれないな、と。
しかし格差が広がる時代です。
パパになる富裕層もいる反面、生活に困窮し、娘への仕送りもままならない実の父親たちもいる。
パパ活とは、そんな時代のあだ花のような現象ではないか、という気がしてならないのです。
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志駕 晃(しが・あきら)
小説家
1963年生まれ。明治大学商学部卒業。2017年、第15回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉として、『スマホを落としただけなのに』で小説家デビュー。著書に、『ちょっと一杯のはずだったのに』(宝島社文庫)、『あなたもスマホに殺される』(角川文庫)、『オレオレの巣窟』(幻冬舎文庫)、『私が結婚をしない本当の理由』(中央公論新社)など。
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(小説家 志駕 晃 聞き手・構成=山川徹)