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一度も身につけなかった “アベノマスク”…菅義偉はコロナ禍に揺れる安倍内閣をどう見ていたのか 『喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書』より #1 - 読売新聞政治部

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 新型コロナウィルスへの対応に右往左往する菅政権。

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◇◇◇

「何で厚労省があんなに反対なのか」

 厚労省は依然、官邸にとってやっかいの種であり続けていた。

 例えば、検疫時の停留にも極めて消極的だった。官邸が3月4日、水際対策として「入国者の指定施設での停留」を盛り込んだ原案をまとめると、厚労相の加藤や厚労次官の鈴木俊彦が口をそろえて猛反発した。鈴木は約10ページの反論資料を官邸に持ち込み、「内閣支持率が落ちる」などと訴えた。厚労省の抵抗のすさまじさは、安倍が「何で厚労省があんなに反対なのか分からなかった」と戸惑うほどだった。

©iStock.com

 加藤は旧大蔵省(現財務省)出身で、元農相の加藤六月(むつき)の娘婿である。安倍家と加藤家は代々付き合いがある。菅にも官房副長官として仕えた。菅はかつて、「自分の後任ができるのは加藤だ」と漏らしたこともある。しかし、新型コロナ対応では、厚労官僚の言い分に引きずられることが多かった。

非常時の対応が後手に回りがちだった“強制労働省”

 厚労省が停留に及び腰なのは、「マンパワーの不足による」と見る向きは多かった。停留となれば、入国者の宿泊場所を確保しなければならない。そんな手間のかかる仕事にとても労力は割けないというわけだ。平時ですら、限られた人員で膨大な厚労行政に追われ、「強制労働省」とやゆされる。それ以上に負荷がかかる非常時の対応は、どうしても後手に回ることになった。

 官邸は厚労省の中でも、医系技官や薬系技官を最大の抵抗勢力と見なしていた。

 新型コロナを収束させるには、感染を予防するワクチンか、感染を治す特効薬が切り札となることは言うまでもない。ここで、技官の壁が立ちはだかった。

 安倍は富士フイルム富山化学が製造する新型インフルエンザ治療薬「アビガン」に目を付けていた。ウイルスの増殖を抑える働きがあり、新型コロナにも同様の効果が期待できるとみて、すでに2月21日の時点で、加藤らに積極活用を指示していた。新型インフルの治療薬として承認済みである以上、新型コロナに転用するのにはさほど手間がかからないと安倍は考えた。

 加藤はさっそく翌22日の読売テレビの番組で、アビガンの新型コロナ感染者への投与について「効くということになれば、全国に展開をして治療に使っていきたい」と述べた。

一方で危惧された薬害

 ところが、厚労省の反応は鈍かった。アビガンは動物実験で胎児に奇形が生じる副作用が確認されている。かつて胃腸薬などとして市販されたサリドマイドは、妊娠中の女性が飲んで胎児の奇形につながった。数々の薬害が苦い記憶として刻み込まれている厚労省では、医師免許などを持つ医系技官を中心に慎重論が根強かった。

「効果があるならどんどん使ったらいいじゃないか」

 3月中旬、首相執務室の空気が張り詰めた。今井らは、アビガンを積極的に活用するよう主張した。安倍も賛同したが、医系技官トップである医務技監の鈴木康裕は「明確な副作用がある。効果もはっきりしていない」と慎重な態度を崩さなかった。

 アビガンは中国が臨床試験で新型コロナへの有効性を確認したと発表したこともあり、50を超える国が日本にアビガンの提供を求めていた。今井は、周囲に怒りをぶちまけた。「あれは日本発の薬だぞ。それを厚労省はぶつくさ言って使わせない。で、中国政府は公式に効果があると言って、中国企業に大量生産させているわけ。本当は富士フイルムから世界に輸出しなきゃいけないのに、中国で同じものを作って中国が全世界に輸出するようになるんだよ」

見切り発車で始まったアビガン生産

 厚労省に手を焼いた官邸はアビガンの国内生産を目指し、見切り発車で経産省を動かした。

「化学業界を当たれ」

 官邸の意向を受け、経産次官の安藤久佳(ひさよし)は3月25日、大臣官房参事官の茂木(もぎ)正にアビガンの原料を生産できる国内企業を探すよう指示した。

 茂木はその日、省外で夕食中、ある経産省職員からのメールに目がくぎ付けとなった。そこには、アビガンの原料を生産したことがあるメーカーについての断片情報が記されていた。その場から化学業界の関係者に携帯電話で問い合わせると、化学メーカー「デンカ」の新潟県内にある工場で生産されていたことが分かった。

 工場は3年前に生産を停止しており、電話先の関係者からは「工場は夏に解体予定」とも伝えられた。茂木はさっそく翌日、都内のデンカ本社に出向き、担当役員と向き合った。「必要な経費は国が支払う。工場を再稼働してほしい」。そう頼み込むと、役員は「今は国難だ。最大限できることを全力で協力したい」と応じた。

 幸い工場に目立った損傷はなく、のちに生産が始まった。工場が解体されていれば、アビガン原料の国内製造はできなかった可能性がある。茂木は「偶然が重なって何とかこぎ着けた」と振り返る。

 官邸の指示で、3月27日、経産省2階の一室で約10人の「アビガンチーム」が発足した。2月から3人ほどで活動してきた態勢を一気に拡大した。

 厚労省の抵抗がなおも続く中、安倍は3月28日の記者会見で、アビガンの国際的な臨床研究拡大や治験開始を表明した。

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