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習近平は“敵”ではない…それでもバイデンは「香港・ウイグル問題」に踏み込めるのか? - 城山 英巳

 中国で最初に流行した新型コロナウイルスが米国で感染拡大した結果、最終的に「票」を失うことになったトランプ大統領は、自分の仕掛けた貿易交渉に乗らない中国共産党を徹底的に敵視した。しかし、ジョー・バイデン次期大統領は、共産党政権を「敵」とみなさず、「協力できる競争相手」と位置づけるだろう。

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 その融和的な中国認識はどうやって醸成されたのか。私は「文藝春秋」1月号および「文藝春秋digital」掲載の「バイデンを籠絡した『習近平親密企業』」で、共産党とバイデンの40年間余にわたる長くて深い歴史や、副大統領だったバイデンが習近平国家主席(当時は国家副主席)から直接紹介された中国企業との間で温めた癒着関係の経緯を詳細にレポートした。こちらを読んでいただければ分かるだろう。

習政権の対米戦略は「二分論」

 バイデンの外交チームは、国務長官に就任するブリンケン元国務副長官、国家安全保障担当の大統領補佐官サリバンが中核となる。米メディアなどで伝えられるバイデンチームの対中政策は、協力できる分野は協力しつつ、共産党の野心的な海洋進出や横暴な人権弾圧に対しては、民主主義の同盟国と連携し、国際的なルールに従わせるというものだ。しかし、いまだオバマ時代を超える対中政策の青写真を示せていない。


ジョー・バイデン氏

 一方、習政権の現在の対米戦略は、トランプとバイデンを区別する「二分論」だ。バイデン次期政権の対中政策まで縛ろうと、権力移行期間中にもかかわらず制裁を次々と発動するトランプ政権に、中国は強く反発している。特に激怒したのは、12月7日、香港情勢をめぐり全国人民代表大会(全人代)常務委員会の副委員長14人を制裁対象にし、米国内の資産凍結などを決めたことだ。 共産党系紙『環球時報』は、「友人が来たら『おいしい酒』を、喧嘩を売られたら『ビンタ』を」との見出しをつけた社説を掲げた。

 一方、バイデン側に対して王毅国務委員兼外相は同11日、「中米関係は新たな歴史の分かれ目に来ている。客観かつ理性的な態度を持ちさえすれば、異なる社会制度や文化背景を持つ国家がこの星の上で平和共存の道を探せる」として対話と交流を呼び掛け、コロナ対策、世界経済、気候変動、反テロなどの連携など、「おいしい酒」で誘った。

 習政権は、融和的なバイデン政権との直接交渉で、日本や豪州など同盟国の「団結」を揺さぶる狙いだ。対中対話の重要性を認識するバイデン外交チームはいずれ中国ペースに乗り、米中関係はトランプ時代とは違った展開で進むだろう。

陳光誠事件を覚えているか?

 こうした中で私が注目するのは、香港、ウイグルなど人権問題を重視するとしているバイデン次期大統領がこの問題で本当に毅然とした対応を取れるか、という点だ。オバマ政権期の2012年、米中関係を極度に緊張させた陳光誠事件を覚えているだろうか。地元当局に迫害された盲目の人権活動家・陳光誠は中国人権問題の「象徴」と位置付けられた。農村で軟禁状態の陳は、北京に向けて脱出し、米大使館に保護されるのだが、たまたま米中戦略・経済対話のため北京入りしたヒラリー・クリントン国務長官が緊迫の米中交渉を続ける。当初、強硬姿勢の中国政府も結局、陳氏の米国行きを容認するが、クリントンの下で対応に当たったのが、クリントンの次席補佐官だったサリバンだ。

 対中協力を維持しながら、いかに人権問題で共産党の強権体制を妥協させるかは、米歴代政権、特に民主党政権が共産党と向き合う際、最も悩んだ問題の一つだ。

 クリントンの回顧録『困難な選択』(日本経済新聞出版社)の中に、陳光誠事件の交渉を終え、「私たちは正しいことをしたと感じていますか?」と尋ねるキャンベル国務次官補に対してクリントンが「これは合衆国が合衆国であるために払う小さな代償よ」と答える場面が出てくる。

 実は当時、オバマ政権内部では、人権問題を米中関係に影響させるべきではないという意見も出たが、クリントンは、米国にとって対中協力を犠牲にしても人権問題が重要であると説き、「人権に対する我々の姿勢は米国の強さを支える最も偉大な資産の一つである」とも記した。

 しかし8年前の中国は今の中国と違う。習近平が社会主義の優位性を前面に「強国路線」を打ち出す中、人権問題で妥協を許さなくなっている。

 一方、バイデンにとって幸いなのは、トランプが発動した香港・ウイグル問題などに関する対中制裁が交渉カードになることだ。トランプの「遺産」を基に、制裁解除を武器として、あるいは制裁強化をちらつかせながら、習近平に直接圧力を加え、民主主義の根幹にかかわる人権・言論弾圧問題で少しずつ柔軟な姿勢を引き出せるかが、最大の見所だ。

 中国共産党との交渉は「是々非々」で進めるしかない。

(城山 英巳/文藝春秋 2021年1月号)

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