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支持率低下でも検察改革を変えない文在寅政権 - 澤田克己 (毎日新聞記者、元ソウル支局長)

韓国の文在寅政権をめぐる情勢が騒がしい。政権と検察の対立に世論の批判が強まる一方で、実質的に検察の権限縮小を図る「検察改革」の制度改正が強引に進められているからだ。

結果として、政権支持率は2017年5月の発足以降で最低水準にまで落ち込んた。韓国の大統領は再選なしの1期5年だけなので、任期はもう終盤に差し掛かりつつある。このままレームダック化していくのだろうか。

韓国政治の現状を簡単にまとめると、こうなるだろう。ただし政権の求心力が本当に低下してきたのか、あるいはレームダック化していくのかを現時点で見極めるのは難しい。日本と同じように新型コロナウイルスの感染「第3波」に見舞われたことから、今後の感染状況は政局に影響を与える大きな変数となる。

ただ少なくとも現時点では、文政権は相変わらずの強権ぶりで正面突破を図ろうとしているし、それが奏功する可能性も十分にありそうだ。外部からは無茶にも思える強硬姿勢の背景について考えてみたい。

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支持率低下でも歴代政権よりは高く

まず指摘しておかねばならないのは、支持率低下といっても程度問題に過ぎないということだ。政権発足から3カ月で20ポイント以上落ちたというような急激な変動ではない。

韓国ギャラップ社の世論調査を月ごとにまとめて見ると、2019年は最高48%、最低42%の間を推移していた。2020年に入ってからは、コロナ第1波の抑え込みに成功したことで春先に7割近くまで急上昇したものの、第2波の感染拡大が起きた夏以降は40%台前半に戻っていた。

それが、秋美愛(チュ・ミエ)法相が尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長を懲戒委員会にかけると発表した11月下旬の週間調査で40%となり、12月11日発表では38%になった。政権発足以降の最低ではあるが、任期4年目後半という時期で30%台後半というのは歴代政権に比べると高い数字だ。時を同じくしてコロナ第3波に襲われたことを考えれば、緩やかな下落とすら言える。

同社の調査は支持・不支持の理由についても聞いている。12月11日発表分で支持理由の最多は「コロナ対応」25%、次が「検察改革」10%だ。検察改革というのは、大統領や国会議員を含む高官に関する捜査権限を新設の「高官犯罪捜査庁(直訳だと、高位公職者非理捜査処=公捜処)」に検察から移管することが柱となっている。

検察の力をそぐための改革で、捜査庁設置を急ぐための法律改正案が10日に成立した。国会議席の6割弱を握る与党の「数の力」で保守野党の抵抗を押し切り、強引に採決に持ち込んでの国会通過だった。

不支持理由は「不動産政策」18%、「全般的によくない」12%、「人事」7%がトップ3。その次に「法務省と検察の対立」「コロナ対応が足りない」「独断的(独善的)」「経済問題を解決できない」が6%で並ぶ。

文在寅政権に対しては不動産価格の高騰に無策だという不満が強く、4日の内閣改造で担当閣僚を交代させたものの批判が収まらずにいる。このことへの不満が大きいと言えそうだ。

法相と検事総長の対立について聞く世論調査では、法相に批判的な意見が多い。だがギャラップ社の調査を見る限り、政権支持率に大きな影響を与える要素とはなっていないことになる。法務省の懲戒委員会は16日、尹検事総長に対する停職2カ月の処分を議決した。尹氏は法廷闘争を展開すると見られているが、政権側は秋法相の辞意表明によって批判世論を沈静化させたい考えのようだ。

別の調査会社であるリアルメーター社が14日に発表した世論調査では、大統領支持率が36.7%まで落ち込んだ。ただ、同社が同時に発表した捜査庁設置法の改正案可決に関する別の世論調査では「よかった」が39.6%で、政権支持層では「よかった」が9割に達していた。法相と検事総長の対立も検察改革から派生したものなのだが、全般として検察改革は政権支持層に受けていると言えそうだ。

強硬策連発での検察改革「仕上げ」を自賛

韓国では、国家情報院(情報機関)▽検察▽警察▽国税庁の4つを「権力機関」と呼ぶ。権力が政敵を圧迫するため、陰に陽に使ってきたからだ。過去に保守政権が政敵圧迫に利用してきた情報機関は、90年代以降の改革で国内政治に介入できなくなった。

その代わりに存在感を高めたのが検察で、進歩派の盧武鉉大統領が検察改革をしようとしたものの挫折。盧氏は、後任である保守派の李明博政権下で家族や側近の不正疑惑にからんで検察の捜査対象となり、自ら命を絶った。

盧氏は死後、進歩派のシンボル的存在となった。その盧氏が追求した検察改革は、盟友だった文在寅大統領にとっても宿願である。検察に「権力機関」などと呼ばれてきた歴史的な側面があることは事実であるうえ、近年は大きな捜査権限を背景にした金銭がらみのスキャンダルも珍しくない。「韓国の検察には権限が集中しすぎだ」という批判が受け入れられやすい素地はあった。

しかし、それにしても文政権の手法は強引としか言いようがない。

文政権は2019年末、進歩派の小政党や中道保守野党を取り込んで高官犯罪捜査庁の設置法を成立させた。進歩派政権による保守派攻撃の道具になると警戒する保守派の最大野党、自由韓国党(現・国民の力)がボイコットする中での強行採決だった。

この時点では、野党の懸念に応えるものだと説明される仕組みが法律に盛り込まれていた。野党指名の2人を含む7人の推薦委員会で庁長候補を審議し、6人以上の賛成を得た2人を大統領に推薦することにしたのだ。委員会から推薦された2人のどちらかを大統領が指名する。野党側委員2人が反対すれば人事を阻止できるから、野党にも受け入れられる人物しか庁長にはなれないという理屈だ。

ところが実際に推薦委員会が発足すると、野党側委員2人の抵抗で庁長候補選びは難航した。

これは、与党にとって想定外だった可能性がある。推薦委員を出せるのは国会議員20人以上の政党で、法制定時に条件を満たす野党は2つあった。そのうち1つは法案に賛成した中道保守政党だったのだが、2020年4月の総選挙を前にこの党は分裂。総選挙後に条件を満たすのは、強硬反対派の保守野党「国民の力」だけになってしまった。

法制定時と同じ国会構成なら野党枠2とはいえ、1人は法案成立に協力した野党が持つ枠ということになる。ところが総選挙を経て国会構成が替わり、強行反対派の枠が2になってしまったということだ。

与党側は結局、「野党は人選で文句を言っているのではない。捜査庁発足を阻止しようとしているだけだ」と断定。12月になって「7人中6人の賛成」としていた規定を「5人の賛成」に変更する法改正を強行した。これを歓迎した文大統領は「高官犯罪捜査庁は検察に対する民主的統制手段として大きな意味がある」と語り、検察改革の仕上げを自賛した。

韓国社会の深刻な分断が背景に

文在寅政権がこれほど強引な国会運営をできるのは、コロナ第1波制圧で支持率が高かった時に行われた総選挙で圧勝したからだ。与党はその後、慣例として与野党で分配していた国会常任委員長のポストを与党で独占し、与野党対決法案はすぐ強行採決で決着をつけるといった国会運営を続けている。

背景にあるのは、朴槿恵政権以降に深まった韓国社会の分断だろう。韓国はもともと保守派と進歩派の対立が激しかったのだが、それでも実は中間層が最大勢力だと言われてきた。その中間層がどんどん少なくなって両極に分かれて行くという、米国のような現象が進んでいるのだ。

だから自陣営であれば、多少の問題には目をつむるという現象が起きる。日本でも「タマネギ男」として有名になった曺国(チョ・グク)前法相を巡るスキャンダルは、その好例だろう。与党支持の進歩派で曺氏を批判する人は一部にとどまり、政権支持率には全くと言っていいほど影響を与えなかった。後任の秋美愛法相が息子の兵役スキャンダルを無傷で切り抜けたのも、同じことだ。

高官犯罪捜査庁の庁長人事の場合、尹錫悦氏の人物像を見誤って検事総長にしてしまったというトラウマもありそうだ。

尹氏は、朴槿恵前大統領が当選した2012年大統領選に情報機関が介入した事件の捜査を指揮して朴政権と対立し、左遷された。文政権はその尹氏を引き立て、2019年6月に異例の抜てき人事で検事総長に起用した。

「敵の敵は味方」だと考えて検察改革をやらせようとしたのだが、「尹氏は権力におもねず果敢な捜査をする一方で、検察という組織への忠誠心が強い人物」(韓国紙のベテラン記者)だった。結果として、現政権のスキャンダルを次々と捜査して、文政権にとっては目の上のたんこぶのような存在になった。

だから多少の無理をしてでも、「高官犯罪捜査庁の庁長は『きちんとした』人物を選ばないといけないと考えている」(同)のだという。

与党重鎮の国会議員が12月初め、韓国のラジオ番組で政権支持率について次のように話していた。

「保守層からの支持は、ずいぶん前に離れている。最近の支持率低下の原因が一部の進歩派による離反ということであれば、高官犯罪捜査庁設置法の改正案が成立し、どのような形であれ検事総長の問題が決着すれば、結集力が再び高まっていくだろう」

この見立てが当たるかは、今後の展開を注視する必要がある。コロナの感染拡大によっても、政権支持率は左右されるはずだ。ただ、今回の支持率低下を単純にレームダック化の兆しだと決めつけるのは単純すぎるだろう。この程度の上下は、何回も繰り返されているのだから。

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