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クリスマスが今年もやって来る! 竹内まりや・山下達郎夫妻のクリスマスソングはなぜ心に残るのか - 近藤 正高

 クリスマスが今年もやって来る。

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 何気ない一文だが、読んだとたんに竹内まりやの歌声が脳内に再生される人も多いのではないか。そう、これは、毎年この時期になるとケンタッキーフライドチキンのCMでBGMに流れる「すてきなホリデイ」のサビの一節でもある。


竹内まりや ©時事通信社

木村拓哉も参加している「今夜はHearty Party」

 竹内まりやとケンタッキーの関係は長い。1995年にクリスマスのCMソング「今夜はHearty Party」を書き、途中流れなかった年もあるものの1999年までCMで使われた。そして翌2000年、CMのために新たに書き下ろされたのが「すてきなホリデイ」である。以来じつに20年間も流れていることになる。

「今夜はHearty Party」では、SMAP(当時)の木村拓哉がセリフとコーラスで参加している。

 これは歌詞に「キムタク」というキーワードを入れたから、本人のセリフが入ると面白いだろうと考えたのが発端だった。ダメ元で依頼した数日後、木村はたったひとりでスタジオに現れたという。竹内は当時まだ20代そこそこの木村の度胸に痛く感心し、夫の山下達郎を交えた3人でコーラスをしながら彼が笑顔で踊っているのを見て、「やっぱりタダ者ではないぞ」と驚かされたと、後年振り返っている(※1)。

「今夜はHearty Party」では、失恋した女性が仲間たちに慰めてもらおうとパーティーに参加、やがて今度こそ本当のすてきな恋をつかまえようと心に誓うさまが歌われた。これに対して、「すてきなホリデイ」で歌われるのは、クリスマスを心待ちにする家族だ。

 竹内は、子供の頃の冬休みのワクワクした気持ちを思い出し、ハートフルな12月の一日を、ディズニーの映画音楽のようなオーケストレーションに乗せて歌ってみようと思い立つ。それを実現するため、「もっとも強い味方」となってくれたのが、今年6月に亡くなった音楽家の服部克久だった。服部のアレンジの出来栄えに竹内は、《私の弾き語り曲を、古き良き時代を思わせるゴージャスなクリスマスソングへと素敵に変身させて下さいました》と謝辞を贈っている(※1)。

 なお、夫の山下は27年前の週刊誌の記事で、自身のクリスマスのすごし方について《イブの夜に女房(歌手の竹内まりやさん)と娘と一緒に家族だけで、自宅で過ごします。こどもが生まれてから十年ほど、ずっとそのスタイルは変えていません》と語っていた(※2)。

「クリスマス・イブ」ブレイクのきっかけはJR東海

 その山下も不朽のクリスマスソングを残している。言うまでもなく、「クリスマス・イブ」だ。この曲は1983年6月、アルバム『MELODIES』の収録曲として発表された。

 山下はこれ以前、リゾートミュージックにニーズがあった時期に、『RIDE ON TIME』や『FOR YOU』といったアルバムをヒットさせており、むしろ夏のイメージが定着していた。しかし、やがて彼のなかで疑問が湧き、「このまま夏男で終わるのか、それは嫌だ」と、より内省的な世界を音楽で表現しようと思い立つ(※3)。ここから生まれたのが『MELODIES』であった。

「クリスマス・イブ」は曲が先にでき、《コード進行やメロディーの構造から「これはクリスマスかな」と思ってぱっとひらめいたのが「雨は夜更け過ぎに」という詞で、十五分ぐらいで書けちゃったんですよね》という(※3)。

 同曲は当初より音楽ファンからの評価は高く、『MELODIES』発売から半年後の1983年12月にはシングルカットされた。リリース当時のシングルチャートでの最高順位は21位にとどまるも、5年後の1989年初めに15位まで上昇する。ブレイクのきっかけは、1988年のクリスマスシーズンにJR東海の新幹線のCMで使われたことだ。

「ホームタウン・エクスプレス X'mas編」と題するそのCMでは、当時15歳の深津絵里がクリスマスに駅のホームで彼氏を待つ少女を演じ、強い印象を残した。好評を受けて、JR東海は翌年以降も「クリスマス・エクスプレス」の名称でCMをシリーズ化し、牧瀬里穂や吉本多香美などが出演している。

 このシリーズを手がけたCMディレクターの早川和良は、「ホームタウン・エクスプレス X'mas編」の絵コンテを描いている段階から、このCMを盛り上げる曲は「クリスマス・イブ」しかないと決め、コンテにもそう書き込んだ(※4)。

 早川によると、2年目にCMをつくるときには、別のクリスマスソングも考えようと、いろんな曲を聴いてみたが、《結局は「クリスマス・イブ」だねって継続が決まった》とか(※4)。同曲が初めてチャートで1位になったのもこの年、1989年12月だった。

哀愁を感じさせるからこそ、引き込まれる

「クリスマス・エクスプレス」シリーズは1992年に一旦終了する。ちなみにこの年のCMには、駅の構内を走る吉本多香美が、ギターケースを持った帽子姿の男性とぶつかるカットが出てくるが、その男性を演じたのは誰あろう山下達郎本人だった(※5)。

「クリスマス・イブ」はその後も毎年シングルチャートのトップ100位以内に入り、2015年には30年連続となるランクインを達成。翌年3月、「日本のシングルチャートに連続でランクインした最多年数」としてギネス世界記録にも認定された。自身最大のヒットとなったこの曲について、山下は次のように評している。

《「クリスマス・イブ」は結構よくできた曲だと思います。僕の音楽は総力戦で、作詞、作曲、編曲、演奏、歌唱、そして録音、それらの全てがうまく調和するのが理想です。必ずしもベストヒット=ベストソングではないミュージシャンも多い中で、自分で一番よくできたひとつが「クリスマス・イブ」で、それが最大のヒットでもあったというのは非常に幸せなことだと思います》(※3)

 聴けばわかるように、この曲は失恋を歌ったもので、けっして幸せな内容ではない。前出の早川和良も、《ハッピーではなく、哀愁を感じさせる内容だからこそ、引き込まれました》という(※5)。

 考えてみれば、竹内まりやの「すてきなホリデイ」でも、冒頭に挙げたフレーズに続けて「悲しかった出来事を 消し去るように」と歌われている。コロナに振り回された今年は、とくにこの詞が心に沁み、祈りの言葉にも聞こえる。そこはかとなく感じさせる哀愁こそ、山下・竹内夫妻のクリスマスソングがそろってロングセラーとなった最大の理由なのかもしれない。

 山下と竹内が結婚したのは1982年。もともと同じレコード会社に所属し、契約関係や印税の問題について山下が竹内にアドバイスしたのが馴れ初めで、その後、彼女のレコーディングにもかかわるようになり仲良くなっていったという(※3)。

昭和・平成・令和とすべての時代でチャート1位

 結婚後は山下が竹内の作品を全面的にプロデュースしてきた。《彼にプロデュースしてもらうことで、書いた作品が私のイメージどおり、あるいはそれ以上になっていきます》とは、昨年、竹内がデビュー40周年を迎えた際のインタビューでの発言だ(※6)。同じインタビューの終わりには次のようにも語っていた。

《私はとても細かく、いろいろとリクエストをすることが多いので、かなりうるさがられているかもしれませんけれど(笑)。でも、彼自身の作品ではやりそうもないアプローチをすることが、もしかすると、彼の音楽に役に立つこともあるんじゃないでしょうか。今でも、彼の時間を奪うことに申し訳なさは、ちょっと感じたりもしますね。達郎自身の音楽制作やライヴに使えるはずだった時間を私に分けてくれていることに、とても感謝しています》

 一方、山下は2001年のインタビューで、日本の音楽界において女性のシンガーが結婚・出産後も現役を続けるのはけっして楽なことではなく、まして《シングルとかアルバムをチャートに入れる、1位を取るとかいう領域になると、実はまりや以外に芸能史ではほとんど例がない》と指摘したうえで、次のように述べている(※7)。

《このことは、芸能界といえども女性の抱える就労状況は(世間一般と)大して変わらなくて、女性が結婚して子供を持って仕事を継続することが、いかに困難であるかを示している。だからこそ我々スタッフは、セールスやチャートではなく、彼女が現役を継続していることに対して、大いなるプライドを感じてます》

 昨年リリースの竹内の40周年記念アルバム『Turntable』は、CDが全体的に売れないなかにあって25万枚も売れた。昭和・平成・令和とすべての時代でチャート1位を取ったのは、女性アーティストでは彼女が初めてである。

※1 竹内まりや『Expressions』ライナーノーツ(MOON RECORDS、2008年)
※2 『週刊朝日』1993年12月24日号
※3 『文藝春秋』2019年4月号
※4 三浦武彦・早川和良『クリスマス・エクスプレスの頃』(日経BP企画、2009年)
※5 『週刊現代』2014年12月20日号
※6 『週刊朝日』2019年9月13日号
※7 『日経エンタテインメント!』2001年12月号

(近藤 正高)

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