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「イギリスのスタバは14年間ほぼ無税」法人税を逃れる多国籍企業の闇の手口

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多国籍企業は税逃れの手法に長けている。京都大学の諸富徹教授は「GAFAなどの多国籍企業は、タックス・ヘイブンに設立した子会社との取引で6000億ドル以上の利益を移転している。これは世界の法人税収の1割にあたり、諸外国の税収減は深刻だ」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、諸富徹『グローバル・タックス 国境を超える課税権力』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

スターバックスの紙コップとコーヒー豆※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monticelllo

市場価格が定まっていない「無形資産」

多国籍企業がグループ子会社間取引を通じて、利益を高課税国から低課税国に移す操作ができないよう、移転価格税制が用いられている。

これは例えば、子会社Aが子会社Bから法外に高い原材料を購入する対価として、AからBへの莫大な費用が支払われる形を装って利益移転が行われるのを規制するものである。これが利益移転か否かを判定する基準として、課税当局は、取引されている財・サービスの市場価格情報を使う。

つまり、あたかもその財・サービスが、無関係な第三者との市場取引を想定した場合に適用される価格を、多国籍企業グループ企業間の取引に適用する。

もし、その取引を通じて法外な利益移転が行われているならば、グループ企業間の取引価格は、市場価格から大きく乖離(かいり)しているはずである。こうして利益移転が炙り出されれば、課税局はそれに対して課税処分を行うことができる。

だが、移転価格税制が有効に機能するのは、参照すべき市場価格情報が存在する場合だけである。

知的財産やブランドなどの無形資産は、(1)工業製品などとは異なって、大量の規格品が生産され、広く市場で取引されるわけではない、(2)それを保有する企業と強く結びついて固有の価値を発揮することが多く、市場で価値をつけがたい、などの理由から、そもそも無形資産に移転価格を適用するのが困難だ。

このため経済がデジタル化し、無形資産が収益を生み出す中核的な資本として機能するようになると、移転価格税制の有効性は低下することになった。

特許料を使った租税回避のカラクリ

では具体的に、無形資産(ここでは知的財産)をどのようにして租税回避に用いるのだろうか。

図表1は、その仕組みを簡略化して示したものである。この多国籍企業は、日本に本社を置き、アメリカ市場向けに製品・サービスを製造・販売する子会社をもっている他、タックス・ヘイブンに実体のない資産保有会社をもっている。

タックス・ヘイブンの仕組み出所=『グローバル・タックス 国境を超える課税権力』

まず、日本の本社で実施された研究開発で生み出された知的財産を、何らかの方法でタックス・ヘイブンの資産管理会社に移す。この資産保有会社は、アメリカ子会社に対してその知的財産を利用して製品・サービスを製造・販売する許諾を与える対価として、彼らから特許料を受け取るという仕組みを次に構築する。

こうしておけば、アメリカ市場で稼いだ利益は、特許料という形でタックス・ヘイブンに集積する。

だがそこでは収益に課税はなされないか、仮に課税されたとしてもほんの僅かである。極端な場合、アメリカ子会社の利益はゼロとなり、タックス・ヘイブンに集積された利益を日本本社に配当の形で還流させず、タックス・ヘイブンにある資産保有会社で蓄積し続ける限り、本国である日本政府の課税も免れることができる。

こうしてこの多国籍企業は、グローバル法人税負担をほとんどゼロにすることができる。

GAFAは租税回避のパイオニア

この仕組みの着目点は、2点ある。第1は、日本からタックス・ヘイブンへの無形資産の移転である。

移転といっても、これは日本本社と資産保有会社の正当な経済取引なので、資産保有会社は、日本本社に対して正当な価格を支払って無形資産を購入するはずである。その価格付けの基礎は、将来にわたってこの資産がもたらすであろう年々の収益の割引現在価値となるのが自然だ。

だがこれでは、資産保有会社が日本本社から無形資産を購入する金額と、資産保有会社がアメリカ子会社から将来にわたって受け取る特許料収入の合計額が釣り合ってしまい、タックス・ヘイブンに富を集積できない。

それを可能にするには、日本本社が無形資産を無償譲渡するか、きわめて安い価格で資産保有会社に売却することが必須になる。そしてこれこそが、現実に行われていることなのだ。

第2の着目点は、アメリカ子会社が資産保有会社に支払う特許料の水準である。

これが正当な経済的価値を超えて高く設定されるなどして、アメリカからタックス・ヘイブンへの実質的な利益移転の役割を果たしているのか否か、これが問題となる。

無形資産を利用した租税回避を防止するのがきわめて困難なのは、上記第1、第2の着目点とも、誰もが納得する客観的な価格付けを行うのが難しい点にある。その原因は上述したように、無形資産の経済的価値評価の困難さに由来する。

多国籍企業による租税回避がその規模でみて一層深刻化したのは、経済のグローバル化に加えて、2000年代以降にデジタル化が加速化し、ビジネスの中核に無形資産が据えられるようになって以降である。

実際、無形資産を活用した租税回避は、いまや多国籍企業の常套手段となっている。デジタル企業の代表的存在であるGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)をはじめとするアメリカの多国籍企業は、無形資産を活用した租税回避の巧みな仕組みを開発する代表的存在でもある。

227億ドルの利益を無課税にするグーグル

以下、グーグルとスターバックスの事例を紹介することにしよう。

グーグルは、公開株式企業として登記される2004年8月の前年の2003年、その検索・広告技術をアイルランドに立地する子会社「グーグル・ホールディングス」に売却した(無形資産の低課税国への売却の典型例!)。この子会社は、バミューダに立地する資産管理会社によって管理されているため、アイルランドの税法上はバミューダ法人と規定されている点に特徴がある。

図表1でいえば、真ん中のタックス・ヘイブンに立地する資産保有会社が、バミューダに立地する資産管理会社に相当する。ちなみに、バミューダの法人税率はゼロである。

黄昏時のサウスレイクユニオンエリアのGoogle新社屋(米国シアトル・2019年8月19日)※写真はイメージです - 写真=iStock.com/400tmax

グーグルは、子会社への技術売却で対価を得たはずだが、その金額はわずかでしかなかった。もし、その金額が大きなものであれば、2003年に巨額の法人税を納めたはずだが、証券取引委員会の2004年の記録によれば、グーグルは全世界で2億4100万ドルの納税しか行っていない。

それ以降、数百億ドルの利益を生み出している技術の価値が当時、わずか7億ドルと評価されていたことを意味する(Saez and Zucman2019)。

実際、わずか1年でバミューダに立地する子会社グーグル・ホールディングスは227億ドルもの利益を上げた。なぜなら、同子会社はグーグルのもっとも価値ある技術の法的な所有者となっていたからだ。

アイルランドのグーグル・ホールディングスは、その特許使用権を欧州中のグーグル子会社に供与している。そしてドイツやフランスに立地するグーグル子会社は毎年、何十億ドルもの特許使用料をグーグル・ホールディングスに支払うことで、ドイツやフランスからアイルランド経由でバミューダに所得を流出させ、租税回避を行っているのだ。

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