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落合陽一氏「人間中心のデジタル社会があまり好きではない」

『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)や『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)などの著書、メディアアーティストとしての活動などでも知られる落合陽一氏

アマゾンジャパン合同会社は12月14日、「デジタル・トランスフォーメーションが拓く日本の未来」をテーマに、第6回目となるAmazon Academyを開催した。Amazon Academyは、日本社会や企業が抱える課題をテーマに取り上げ、産学官の視点から、課題の解決策や目指すべき方向性などを議論するというものだ。

今回は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)といったテーマに準じて、デジタル改革担当大臣 平井卓也氏からのビデオメッセージに加え、筑波大学 図書館情報メディア系 准教授 落合陽一氏、アマゾンジャパン合同会社 社長 ジャスパー・チャン氏、衆議院議員 自由民主党青年局長 デジタル社会推進本部事務局長 牧島かれん氏の3名によるパネルディスカッションが実施された。

この記事では、人工知能(AI)メディアであるLedge.ai編集部として注目してほしい、落合陽一氏による発言を抜粋し、パネルディスカッションの様子をレポートしたい。

関連記事:落合陽一「2025年までに新しい転換点を示すのが僕らの役割」

デジタル改革担当大臣「デジタルを意識しないデジタル社会」を目指す

パネルディスカッションの前に、まずは平井卓也氏によるビデオメッセージを一部抜粋してご紹介しよう。

平井卓也氏は「私は今、まさに日本の政府としてのデジタルトランスフォーメーションの司令塔を作る、という仕事をさせていただいています」と切り出した。また、これまでの日本の状況については「日本は今までDXがなかなか進んできませんでした。官民両方とも出遅れたと思います。この出遅れをアドバンテージとして最大化していくことが必要で、これからはスピード&スピードが問われると思っています」と語る。

さらに、来年の通常国会では、20年ぶりにIT基本法を改正し、デジタル社会形成基本法として共有すると決意を述べ、「そのなかで最終的に目指したいのは『デジタルを意識しないデジタル社会』。そして、それぞれいろいろな選択肢があるなか、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げていきたい。つまり、幸せな生活の選択肢が広がる。そして、これは地方にも広がる」といったビジョンを明らかにした。

平井卓也氏は「そのうえで、社会自体が人にとても優しい、つまりデジタルテクノロジーがいかに人に優しいサービスを提供できるかも1つのポイントだと思っています。その意味で、高齢者・障害者の皆さんをはじめ、すべての皆さんに、デジタルの恩恵を届けるという意味で、我々はサービスデザインUI・UXに徹底的にこだわりたいと考えています」と述べた。

落合陽一氏「コロナ禍のテクノロジーは20年前のもの」

パネルディスカッションでは、落合陽一氏、ジャスパー・チャン氏、牧島かれん氏がDXについて、3つのテーマを順に議論した。1つ目は「日本のDXの現状、これまでの問題点」といったテーマで、落合陽一氏はコロナ禍に感じた日本社会の問題点を指摘している。

落合陽一氏は「僕はテクノロジーをやっている側からすると、『ちょっと悲しいなあ』と思ったのは、コロナの対策に使っているテクノロジーが20年前のものということです。我々がビデオ会議を使い始めてから、もう20年ぐらい経っています。本当だったら、3次元でバーチャルリアリティでゴーグルとかが世の中にあって、もっとフィジカルなコミュニケーションができるはずでした」と話した。

「この社会のなかで、デジタル移行したのはオフィスだったのです。我々は会議の問題だとか、レクリエーションの問題だとか、飲み会の問題だとか、セックスの問題だとかは解決していません。だから、集団感染が起こるところは、たとえば、最初は『夜の街』などが報じられることがすごく多かったと思います」

このような状況を踏まえ、落合陽一氏は「人間の動物的本能に向かい合うサービスは、社会のなかで、まだ十分な市民権を得ていません。デジタルがもっと向かい合わなければいけなかったことだし、このような観点はもっと着目しても良いのかなと思います」と語る。

ガバメントとイノベーションは「やる人材がまるっきり違う」

また、2つ目のテーマ「DXを通じて目指すべきデジタル社会(ミッション、ゴール)とは」では、近年は「DXが重要だ」「デジタル庁が重要だ」などと叫ばれているものの、デジタル庁などのデジタル・ガバメントと、スタートアップなどのイノベーションを担う人材は異なる、と落合陽一氏が主張を展開した。

「デジタル庁はデジタル・ガバメントの話なので、ミッションとロードマップに対して、どれだけ策定されたのかが重要だと思います。一方で、デジタルサービスやイノベーションはやる人材がまるっきり違います。一緒くたにして考えると、ぐちゃぐちゃになってしまいます」

具体的には、「別に、お役所のことがそんなに得意ではない人たちがイノベーションをやっているかもしれません。逆に言うと、デジタル・ガバメントをやっている人たちは『どうすれば、フリーアクセスのオープンなプラットフォームを作り、大衆あるいは公衆の利益になるのか』を考えられる、フラットな人々がやるべきだと思います」と話している。

落合陽一氏は「両者、ぜんぜん違うマインドセットやキャラクターを持っています。デジタルと一括りにして、違った人材を混ぜると、意味が変わってしまうのかなと思います。うまい交流であったり、全体像の把握であったりが必要なのかなと思います」と語った。

落合陽一氏「人間中心のデジタル社会があまり好きではない」

さらに、最後となる3つ目のテーマは「目指すべきデジタル社会をどのように実現するのか」。落合陽一氏は「人間中心のデジタル社会」ではなく、「デジタル中心の人間社会」といった思想を紹介した。

まず前提として、落合陽一氏は「会議ツールなどの話によって、人の認知能力や視聴覚能力──目が見えない、耳が聞こえない、ほかの言語をしゃべる──は全員が会議ツールをつなぐことで、わりと解決に向かっている気がします。自動文字起こしは速いし、自動翻訳もそこそこにできるし、耳が聞こえなくても字幕を見れば良いし、目が見えなくても読み上げ機能があるからです」と現状を説明している。

一方で、「このままだと、間違いそうだなと思っていることがあります。僕は『人間中心のデジタル社会』といった考え方があまり好きではありません。本当は『デジタル中心の人間社会』であるべきだと思っています。おそらく、社会の中心にあるのは人間ではなく、社会という機能です。なので、社会機能をデジタルを中心に置くのは正しいと思っています」と議論を展開した。

「デジタル中心の人間社会」とは、どういう意味か。たとえば、現代社会においては、デジタルなデータを印刷し、印鑑を押したものを「元本」と呼ぶことが多い。しかし、その用紙はデジタルなデータを印刷したものであり、本質的にはデジタルなデータこそが「元本」という言葉にふさわしいはずだ。落合陽一氏は、このような状況がさまざまな場所で起きていると解説する。

続けて、落合陽一氏は「(現代社会においては)人間は生でモノや情報を作ることはほぼしません。デジタル上で情報を作ったものをなんらかの形にして世の中で配っていたり、プロダクトの形にしたり、印刷パッケージにしたり、契約書の形にしたり、メールにしたりしているだけです。人間の知的コミュニケーションを支えているのはデジタルのほうで、デジタル中心に物を考えていくのは、なんら不自然ではありません」と訴えかけた。

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