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「中国政府の思うままに裁かれてしまいます」…香港・周庭さんの“予言”と“日本欠乏症” - 野嶋 剛

 香港の周庭(アグネスチョウ)さんが12月2日、「無許可デモを扇動し参加した」との罪で有罪となり、禁錮10カ月の実刑判決を受けた。24歳の誕生日の前日のことだった。

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 10代の頃から知っている彼女と最後にゆっくり話したのは昨年5月。逃亡犯条例改正反対運動が本格化する直前で、香港の喫茶店で待ち合わせた。

「日本に行きたい。パフェを食べたい。カラオケもめちゃしたい。抹茶スイーツが食べたい」とまくし立て、「日本欠乏症です」と笑う。

 アニメで学んだ日本語は相変わらずだったが、「民主活動家」らしくなった彼女はこう危惧していた。

「改正案が通れば司法の独立がなくなり、香港で捕まった人は中国政府の思うままに裁かれてしまいます」

 残念ながら懸念通り、彼女自身が強引な司法によって裁かれた。今回の判決は、過去の類似の案件に比べてかなり重く、異例だ。容疑となった昨年6月21日の警察包囲デモを私は見ていたが、彼女は数万人の若者と一緒に現場にいただけに過ぎず、しかも途中から道端に座り、背中を丸めて眠ってしまった。「扇動した」と言える行為はなかったはず。司法関係者も論理的に無理があると呆れる判決で、香港の「司法の独立」は失われつつあることを強く実感させられた。

 周庭判決翌日には民主派の論陣を守ってきたアップル・デイリー紙の創業者、黎智英(ジミーライ)氏も詐欺罪で収監。良質な報道を貫いてきた香港有線テレビでも報道部門の記者40人が一斉解雇された。「言論・報道の自由」も風前の灯である。

中国が狙う香港の「完全回収」

 1997年の香港返還を中国では「回収」と呼ぶ。「取り戻す」という意味だ。英国との交渉の末、一国二制度のもと「高度な自治」を50年間約束した。その自治の核心的価値は「司法の独立」「言論・報道の自由」「選挙と民主主義」だ。

 中国にとっては「半回収」とも言える妥協の産物だったが、歴代の指導者は手を付けることはなかった。ところが、「愛国主義」「中華民族の復興」を掲げた習近平体制の下、「高度な自治」の価値は一つずつ反故にされ、「完全回収」へのプロセスが進んでいる。


香港の「完全回収」を進める習近平 ©AFLO

 一方、一国二制度の価値観を信じて育ってきた周庭さんら若者がいま犠牲にされようとしている。彼女は身をもって香港の事態の悪化を知らせる「カナリア」で、彼女がいなければ日本で香港問題への関心はこれほど広がらなかった。

 一国二制度を破壊する中国の行為は明らかに国際公約違反。日本政府がもっと強いプレッシャーをかけ国際的な批判の連帯に加わるよう、彼女への同情を行動の力に変えていくべきだ。

(野嶋 剛/週刊文春 2020年12月17日号)

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