- 2020年12月16日 09:23
カマラ・ハリス副大統領の誕生までに茨の道を切り拓いてきた黒人女性たち
1/2米国の次期副大統領カマラ・ハリスは、ジャマイカ出身の父とインド出身の母を持つ米国人女性だ。
ジョー・バイデンが現職大統領トランプに勝利したことで、上院議員カマラ・ハリスは黒人として、また女性として米国で初の副大統領就任が決定、米国で3世紀にわたり続いてきた厚い壁を突破した。アフリカ系米国人とアジア系米国人、2つの有色人種の人々に大きな意義をもたらす選挙となった。

しかし米国の歴史を振り返ると、黒人女性で副大統領を目指した人はハリスが初めてではない。カリフォルニア出身、ジャーナリストで政治活動家のアフリカ系米国人シャーロッタ・ベースは、1948年に進歩党から副大統領選に立候補している。ほぼ勝ち目がないながら米国の最高機関を目指した多くの黒人女性たち、ハリスはあくまでその一人なのだ。

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かつては綿花を摘んでいた手
奴隷制、黒人差別法、公民権の剥奪.......アフリカ系米国人は多くの壁にぶつかりながら政治参加の権利を手に入れてきた歴史がある。
特に黒人女性はいくつもの壁を乗り越えてきた。米国で女性が参政権を獲得したのは1920年のことだが、米国南部のほとんどの地域では、その後も、黒人女性が投票できない時代が続いた。60年代になり、黒人女性は公民権運動を組織化していったが、リーダー的ポジションに就くことはなかった。
黒人有権者が過去100年で成し遂げたことについて、1984年、公民権活動家でキリスト教バプティスト派のジェシー・ジャクソン牧師はこう語った。「(黒人は)かつて綿花摘みをしていた手で、今や大統領を選ぶようになった」
黒人女性が初めて市長に選ばれたのは1973年、オクラホマ州ムスコギー郡タフト市のレリア・フォーリー市長だ。現在では、米国内の100の大都市のうち、7都市(ワシントンD.C. 、アトランタ、ニューオリンズ、バトンルージュ、シャーロット、サンフランシスコ、シカゴ)で黒人女性が市長を務めている*1。警察署長や州知事候補にも黒人女性はいるし、下院議員を務める者も増えている。そして今や、かつては大統領になることはおろか、大統領選で投票することもできなかった黒人女性の仲間が、ホワイトハウスの一歩手前まで歩みを進めたわけだ。
*1 参照:Women of Color in Elective Office 2019
黒人女性に「ふわさしくない」と一蹴
カマラ・ハリスはカリフォルニア州検事総長を務めたのち上院議員となった民主党員だが、これまでに大統領候補者となった黒人女性の多くは「無所属」だった。
1968年、オハイオ州のシャーリーン・ミッチェル(当時38)が共産主義者として大統領選に立候補したのが、黒人女性としては初めてのケースだ。30年代生まれの多くのアフリカ系米国人のように、ミッチェルは人種的平等や男女平等を重要視していた共産党に入党した。黒人女性の共産党員らは、すべての人種の男女のために、黒人差別法・リンチ・不当労働行為と闘った。

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ミッチェルは大統領選挙戦でも公民権と貧困問題に焦点を当てたが、おそらく当初から負ける運命にあった。というのも、68年当時は多くの州が共産党員の大統領選立候補を認めていなかったのだ。日刊新聞ボストン・グローブやシカゴ・トリビューンなどのメディアでも、黒人女性のミッチェルは候補者に“ふさわしくない”と論じた。ミッチェルの得票数は1,075票ぽっきりだった。
その他、無所属で大統領候補になった黒人女性に、76年に地域活動家で人民党(71結党、77年解党)から立候補したマーガレット・ライトや、自ら立ち上げた第三政党「Looking Back」から3度(84年、92年、2004年)立候補したイザベル・マスターズがいる。
88年、無所属で立候補した心理学者のレノラ・フラニは、女性として、またアフリカ系米国人として初めて、50州すべての投票用紙に名前が記載されることとなり、それまでに米大統領選に立候補したどの女性候補者よりも多くの得票数を得た。教員のモニカ・ムアヘッドも労働世界党から3度(96年、2000年、2016年)立候補している。
バラク・オバマが大統領に選ばれた2008年には、ジョージア州の元下院議員シンシア・マッキンニーがアメリカ緑の党の指名候補となった。そして2012年にはペータ・リンゼイが社会主義解放党から立候補している。共和党から指名候補となった黒人女性は一人だけ。「新しいタイプの共和党員を増やすため」と、99年にフロリダ州から立候補した宗教的保守派のエンジェル・ジョイ・ジャービスだ。 大統領候補にまでなったにもかかわらず、これらの黒人女性たちの存在はほとんど知られてこなかった。
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