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ムラ社会に生きる日本の「サラリーマン」 “気楽な稼業”がもはや成り立たないワケ - 牧野 知弘

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 企業という村に毎日通勤して、村の中の論理だけで働き、報酬を得る。これがあたりまえだった時には、働くということはそれほど難しいものではなかった。働くことの意味合いの多くが、会社組織の一員であるという安定的な基盤の上に成り立っていたからだ。

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格差の広がりと世襲

 働く場所が基盤ならば、なるべく大きく強固なほうがよい。それはすなわち大企業であるほど安心だという理屈になる。就活をしている大学生の思考パターンはまさにここにある。

 日本ではいつの頃からか、良い家に生まれて、多額の教育費を惜しげもなく注ぎ込まれて良い学校に入り、良い会社であるはずの大企業に無事、就職するというのが、人生の成功パターンになっている。これはある意味エリート層の再生産をやっているようなものだ。この循環が長期にわたれば社会には新たな階級が生まれ、格差はどんどん拡大していく。

©️iStock.com

 現在ではたとえば政治の世界でそうした弊害が指摘されている。先代の地盤を引き継いだだけの二世あるいは三世議員ばかりが国会を占め、民の本当の傷みや苦しみを理解できない、しようともしない政治に失望している人もいる。

切っても切っても同じ顔

 実は大企業社会の中でも同じような閉塞感が出始めている。二世や三世社員が増えたというわけではない。同じような思考回路を持つ金太郎飴のような社員ばかりで組織が構成されるようになっているのだ。あたりまえである。これまでの学校教育では、言われたことを素直にやる子が高く評価されてきたからだ。特にテストでの成績偏重を改め、内申書を重視するようになってから、この傾向がひどくなったように感じる。以前は先生に逆らうヤンチャな一面を持っている子でもテストの成績が良いと一定の評価がなされた。ところが今はある程度内申書の評価を得ないと学校では評価されにくい仕組みとなっている。

 そうした競争をくぐり抜けてきた、優秀であるはずの学生たちは、やはり安定基盤を持った大企業への就職に憧れる。採用する側もほとんどがこうした良い子たちで占められているので必定、自分たちと同じような種類の学生を採用してしまう。やがて組織は硬直化していくが、同様な思考回路の社員ばかりになってしまうと、そもそも硬直化しているという事態そのものにまで気が付かなくなる。いわゆる大企業病と称される状態に陥ってしまうのだ。

世界から遅れをとった日本

 会社の上層部はよく、改革だ、下克上だと叫ぶ。とりわけ社長が交代になるとほぼすべての新社長は「わが社には今こそ改革が必要だ」と言う。「前社長の施策どおりにやります」などと言うと、何だか社長交代した意味がないのではと考えてしまうからだ。しかしどんなに気張った改革でも所詮大企業という村の中で起こることなどは、他所からみれば、おままごとに等しいレベルのものだ。

 日本企業が世界中から称賛され、世界のマーケットを席巻していた時代はとうの昔に過ぎ去った。現在、世界をリードするのはGAFAと呼ばれるグーグル(アルファベット)、アップル、フェイスブック、アマゾンなどのITをベースとしたサービス業である。ところが今、日本企業で彼らに肉薄できる会社は存在しない。このGAFAにマイクロソフトを加えたGAFAMの時価総額をみると、すでに日本の東証一部企業の時価総額を超えている。日本企業からみれば、彼らはもはや視界にも入らない遠くを走っている。日本は平成時代にどうやら相当惰眠を貪ってしまったようだ。世界の急速な進歩から周回遅れになっているのは厳然たる事実だ。

原因は日本の“村社会意識”

 ではどうして、この30年の間に日本企業は世界から置いていかれたのだろうか。その理由は、日本の大企業に蔓延する村社会意識のせいである気がしてならない。良い学校を出た学生の多くが、今そこにある良い会社、安定した基盤がある大企業に就職するのだ。同じような人種が同じような境遇で育ってきた学生を、同じような価値観、つまり村の論理にそぐう人物と評価して採用するからだ。

 太平の世の中が続く限り、この方法にそれほど間違いはない。しかし、ビジネスの世界は時代の変化とともに急速に変わっていく。とりわけこの30年間は製造業のようなハード産業が、ITを利用したサービス産業に急速に取って代わられる30年だった。そこに日本は何の手も打てなかった。起業をする若者は少なく、良い学校を出た学生はあたりまえのように大企業にしか顔を向けない。みんながひとところに集まって、寄り添い、もたれあって仕事する。時代の変化には目をつぶり、小さくなっていく需要のパイを奪い合う業種で生きていく。日本は今でも人口が1億人を超えるマーケットが存在するので、まだ大企業同士で萎む需要を分け合うことができている。しかし、今後の発展は期待できず、大企業の中でもそろそろ寿命が尽きるところが出てきても不思議ではない。

 いっぽうでこれからの時代、情報通信機器を駆使して、自らの能力、アビリティを武器に仕事をしていく人が増えていくと、必然、企業組織も変わらざるを得なくなる。大企業の村の論理は崩れ、組織を構成する堅固な中間組織は不要のものとなる可能性がある。頑なに村の論理を守ろうとする会社は、世界の競争からさらに引き離され、国内需要が萎み続ける中で完全に行き場を見失うところも出てくるだろう。

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