「みなさん、こんにちは。ガースーです」。
菅首相が「ニコニコ生放送」で披露したあの自己紹介。これ、どう報じられたのだろう。
「ガースー」こと菅総理 ©文藝春秋
『はにかみながら「こんにちは、ガースーです」と菅首相…ネット番組で自己紹介』(12月11日読売オンライン)
《日ごろは感情を表に出さない首相には珍しく、はにかんだ表情も浮かべた。》
読売はやさしい。「はにかんだ」か。
しかしこれ、正しい見方かもしれない。私は最近次のような提案をしている。
なかなか記者会見をやらない菅氏の楽しみ方として、たまにやる記者会見のBGMに「はじめてのおつかい」(B.B.クイーンズ「ドレミファだいじょーぶ」)を脳内再生して各自見てみては?と。
答弁が不得意でできるだけ人前に出たくない首相がやっと出てきてくれた。そう思って成長を楽しむしかないのだ。それでいくとあのニコ生出演の様子を「はにかんだ」というのは合ってる。ニコ生のおともだちに自己紹介できたのだ。
学術会議問題の質問にも「笑み」
そんななか東スポはあの様子を『空気読め』と書き、日刊ゲンダイは『菅スマイル全開でスカスカ』と書いた。こういうガチのおともだちは困ります。
その点、東京新聞はやさしかった。ニコ生出演より前の12月4日の首相官邸での記者会見について。
菅首相は9月16日の就任時以来、国内では2回目の記者会見をやっとおこなったのだが、東京新聞は次のように報じた。
『菅首相、学術会議問題の反発「かなり大きくなると思っていた」と笑み浮かべ回答』(12月5日)
微笑ましい。「笑み浮かべ回答」ですって。
すがさんがわらった。
《学術会議の任命拒否問題について、菅首相は、反発を予想していたかについて記者から問われると「かなりなるんではないかと思っていた」とやや笑みを浮かべて答えた。》
すがさんがわらった。
なんでここで笑うんだ、怖いじゃないかとか言ってはいけない。見出しに「笑み」をもってくる東京新聞の優しさを感じたい。
さて話をニコ生出演に戻すとどうもこの日の出演の評判はよくないのである。コロナで「東京595人感染」というタイミングが重なったこともある。
「ガースー」と名乗ったことについて《親しみやすさを演出したかったようだ。》(読売)という事情があったようだが、私はそのズレっぷりが気になった。コロナ対策で顔が見えない首相が何をのんきにやっているのかというツッコミも多数。
安倍晋三元首相と「ガースー」の共通点
これ、どこかで似たような光景を見たぞ。あ、思い出した。これだ。
『国難なのに優雅なツイート 安倍首相は貴族か!!』
今年4月13日の日刊スポーツの一面見出しである。
《安倍晋三首相が12日、ツイッターを更新し、星野源(39)が歌う「うちで踊ろう」とともに、自宅ソファで愛犬のミニチュアダックスフントのロイを抱く姿や、カップ片手にくつろぐ様子を公開した。》(日刊スポーツ4月13日)
当時の安倍首相が星野源動画と勝手に“コラボ”をしたら非難ごうごう。
《「ステイホーム」を訴えるのが狙いとみられるが、世の中の混乱をよそに優雅にくつろぐ姿にネットは騒然。》(日刊スポーツ)
ここで注目したいのは世の中との温度差だ。スポーツニッポンは『アベノコラボ マスクに続き大失敗』(4月13日)。星野源動画とのコラボもアベノマスクも不評だと伝えた。
では、あの布マスクは誰が発案したのだろうか。
《「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」。首相にそう発案したのは、経済官庁出身の官邸官僚だった。》(朝日新聞4月3日)
新聞には実名がなかったが「週刊文春」4月16日号には
「佐伯(さいき)耕三首相秘書官(44)が安倍首相に『全国民に布マスクを配れば不安はパッと消えますよ』と発案したのです。彼の進言に加え、3月に北海道の一部地域で実施したマスク配布が好評だったことも後押しとなった」(官邸関係者)
ちなみに星野源動画との「コラボ」を発案したのも佐伯氏と見られているという(文春4月23日号)。
私がこのとき痛感したのは、平時なら目立たなかったSNSでの“ふわっとした民意”を取りにいく手法が、非常時だと危機意識の無さに見えてしまったことである。もっと言えば安倍首相の周囲は世の中との温度差がわからないのだろうかとも感じた。
今回の菅首相の「こんにちは、ガースーです」にも同じ匂いがある。このタイミングで言って好感度が上がると判断した本人、もしくは周囲の甘さが気になって仕方ない。
実は今から振り返ると興味深いこともある。
「星野源とのコラボ動画」と「アベノマスク」で安倍首相まわりのコロナ禍での浮世離れ感がわかってしまったあの頃の記事を調べると、こんな内情も書かれていた。
『危機管理対応 変化の兆し 菅氏の関与見えにくく』(日経4月21日)
官邸の政策決定の変化を報じる記事である。どうやら「菅外し」がおこなわれているらしいという。その理由として菅氏の「令和おじさん」人気への警戒や、菅氏に近い菅原一秀経済産業相や河井克行法相が相次いで辞任したことで、安倍首相との間に距離ができているという見方である。
しかしその結果どうなったか。官邸内では「菅外し」がおこなわれていたが安倍首相に近い官邸官僚のアイデアが次々にスベり、菅氏は結果的にこの後復権したのだ。Go Toキャンペーンをひっさげて首相にまでなった。
今から読むと、なんという劇的な経緯だろう。
安倍元首相がスベったのと同じ轍を踏む菅首相?
しかし驚くのはそれだけではない。現在、首相となった菅氏も似たようなことをしているからだ。「説明」を問われ、Go Toキャンペーンについても問われている。なかなか会見や説明をしないなかで、ニコ生の「こんにちは、ガースーです」である。
この流れはすごい。
今の状況は皮肉にも安倍元首相が今年前半にスベった頃と同じなのだ。あのおかげで首相の座が近づいたというのに菅氏も同じような振る舞いをしている。というか安倍首相も菅首相も実は「危機管理に弱い説」が浮かんでしまう。
そういえば「桜を見る会」の前夜祭の補填の件で、安倍事務所の秘書の言うことをずっと2人とも「信じていた」というのも、本当だとしたらこちらのほうがずっとマズい。
このツートップがプーチンや習近平やトランプやバイデンらとどんな話をしてきたのか、これからしていくのか、国益が気になるのである。
(プチ鹿島)