
成人男性の平均喫煙率は27.8%(2018年JT調査)とピーク時の1966年の83.7%と比べ大幅に減少。ただ女性の喫煙率も減少しているのに肺がん患者は増加している。その理由として喫煙がリスクにならない肺腺がんの増加が挙げられる。それでも近年、人間ドックなどでのCT検査に伴い、早期発見も可能になり、肺がん手術後の5年生存率は50%以上と向上した。
【写真】肺がん内視鏡手術の様子。開口部を押さえる医師と内視鏡を操る医師、2人がかり
肺がん手術も、以前の開胸手術から、胸腔鏡を用いたハイブリッドVATSが標準治療になっている。これは約2センチの複数の傷から胸腔鏡と用具を挿入させ、切除した腫瘍を肩甲骨付近から取り出すため、数センチ開胸する手術だ。
順天堂大学医学部呼吸器外科学講座、鈴木健司教授の話。
「かつての肺がん手術は脇から背中にかけて大きく切開し、肋骨を切り取っていました。その後、麻酔の技術革新により、腫瘍がない側の肺だけで呼吸させ、手術する肺は空気を抜く、分離肺換気での手術が可能になりました。肺がん手術は肺の切除量によって全摘、肺葉切除、区域切除、部分切除と分かれます。標準は肺葉切除ですが、CTで腫瘍の悪性度を測れるようになってきたため、区域切除や部分切除も、一部取り入れられるようになってきています」
肺は左右2つあり、それぞれ左肺は上葉と下葉の2つ、右肺は上葉、中葉、下葉の3つに分かれている。腫瘍のある肺葉ごと切るのが肺葉切除で、区域切除は左肺8区域、右肺10区域に分かれた区域ごとに切除する方法だ。部分切除は腫瘍と、その周囲だけを切除する方法である。
肺がんの初期で、リンパ節などに浸潤していない場合は肺区域切除術が選択される場合もある。これは左右18の区域から、病変に応じて切除区域を決める。通常では区域の境界線が目視できないため、インドシアニングリーン(ICG)を気管支内に注入する。胸腔鏡補助下により、切離予定領域の気管支の末梢側にICGを注入すると切除予定場所が青く染色され、切除箇所が特定でき、肺区域切除が安全に実施可能となる。
「傷が小さいことが低侵襲と思われがちですが、肺がん手術においては出血が少なく、手術時間が短いのが最大の低侵襲手術なのです。そのため私は出血の少ない電気メスを使います。ただし、肺動脈が近いため、電気メスの使用には高い技術と経験が求められますが、手術時間は約90分と通常の半分以下で済み、出血量も通常の10分の1の30cc程度と少なく、5日目には退院できます」(鈴木教授)
肺がんの手術中は人工呼吸器で圧をかけ、肺に直接空気を送り込む。約3億個の肺胞は大きさも様々なので、一律に圧がかかると小さい肺胞は破裂することもある。これが原因で急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症するケースもあり、防止のためにも手術時間の短縮は必須だ。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2020年12月18日号