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『鬼滅の刃』の絵がスゴイのは、“作画”よりも〇〇の力? ジブリと正反対のアニメーション思想とは - 高橋 克則 高瀬 康司

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『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』について、「作画がすごい」という誉め言葉をよく耳にする。たしかに激しい剣戟や趣向を凝らした異能力バトルなど、アクション的な見せ場の詰まったアニメであることは誰もが納得するところだろう。

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 しかし、“作画”の魅力的なアニメであれば他にもたくさんあるはずだ。その中でなぜ、アニメ制作会社ufotableによる『鬼滅の刃』の映像は、こんなにも多くの観客を魅了したのだろうか。アニメーター・演出家であり、3DCG作品も手がける沓名健一氏に、その映像的な見どころを解説してもらった。


作画と、3DCGと、撮影によるエフェクトが効果的にミックスされている 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PVより

作画・撮影・CGが連携してリッチな画面を作る

『鬼滅の刃』のバトルシーンで大きく目を引くのが、水の呼吸や火の呼吸などの“全集中の呼吸”の美麗なビジュアルだ。沓名氏はその魅力を、鬼たちとの戦闘の時間帯が主に「夜」になる点から説明する。

「暗い夜のシーンは色情報が少なく、視覚的に目を引く画面作りが難しくなります。しかし『鬼滅の刃』では、戦闘が始まると鮮やかに発光する“全集中の呼吸”のエフェクトによって青い波や黄色い雷などの色彩が一気に溢れ出てくるんです。

 あのエフェクトは作画・撮影・3DCGを複雑に組み合わせて表現してあり、単体でも目を引きます。しかしそれ以上に、視覚刺激の緩急のうまさが、見る人に大きなインパクトを与えた理由の1つだと思います」

非・戦闘シーンの気合いの入り方

 また沓名氏は、派手なアクションだけでなく、何気ないシーンにもしばしば目を奪われたという。

「劇場版の冒頭の墓地のシーンでは、“撮影”の気合いの入り方に驚かされました。木漏れ日の表現を“作画”によってではなく、“撮影”の工程だけであそこまで繊細に表現できている作品ははじめて見た気がします。光の強弱による複雑な揺らぎを、映画館で観なければ感じ取れない繊細なレベルで表現していました」

『鬼滅の刃』の“撮影”と聞くと、アニメは絵なのにどういうことかと思われるかもしれない。しかし沓名氏は、『鬼滅の刃』は“作画”の力だけでなく、「“撮影・CG”セクションの強いufotableの特徴が遺憾なく発揮された作品ですね」とその側面を強調する。

 アニメの“撮影”とは、作画や美術など各種素材からアニメーションの画面を組み上げ(コンポジットし)、ビジュアルエフェクトを加える工程のことを言う。劇場版『鬼滅の刃』冒頭の墓地のシーンで言えば、背景となる“美術”の上に、“作画”で描かれた産屋敷耀哉が重ねられ、身体の立体感に沿って“撮影”が複雑で動的な木漏れ日の光のエフェクトを落としている。

幅広いセクションのスタッフが社内にいるからこそ

“作画”は日常的に使われる言葉のため、アニメーションの画面の美しさを指して「作画がすごい」と語られがちである。しかしアニメーションにおいて“作画”とは、正しくはアニメーター(原画や動画などの絵を描くスタッフ)が生み出す動きの表現(キャラクターの日常芝居やアクションなど)を指す用語である。

 アニメーションの“撮影”というと“作画”以上にわかりにくい呼称だが、かつてはアナログ素材を重ね合わせて1コマずつフィルム“撮影”していた名残で、今もそう呼ばれている。それが2000年頃を境に、ソフトウェア上でのデジタル処理に切り替わることで、アニメーションのビジュアルへの影響力を増している。

『君の名は。』や『天気の子』の新海誠監督が、アニメ業界で長年「撮影の作家」と呼ばれてきたと言えば少しはイメージが伝わるだろうか。

 また『鬼滅の刃』は“撮影”と並ぶデジタル表現である、“3DCG“の大胆な活用も特徴的だ。川の流れや煙、揺れる木々などがフォトリアルな3DCGで描画され、無限列車も外観や内部の空間が3Dモデリングされているからこそ可能になったカメラワークや演出が活きているという。

「『鬼滅の刃』の3DCGは、うまく2Dアニメに寄り添った使われ方をしているように感じます。もし列車内のバトルシーンをCG専門の会社が制作したら、刀を振るときに天井や椅子に当たらないかといった空間的な整合性に引っ張られて、アクションが地味にまとまってしまうことになりがちです。しかしufotableのCGはカットごとに空間を誤魔化し、画面の見映えを優先していた。それはufotableのデジタル映像部が、アニメらしい見せ方を熟知しているからこそ実現できたことです」

 アニメ制作会社の中には、“撮影”や“CG”を専門の会社に外注しているスタジオも多い。しかしufotableは、“撮影”や“CG”といったデジタル処理の担当部門をはじめ、演出家、アニメーター、仕上げ(彩色)、美術など幅広いセクションのスタッフの社員化を推し進めることで、自社で内製できる制作環境を長い年月をかけて整備してきた稀有なスタジオである。

 そうした地道な積み重ねがあったからこそ、“作画”を担うアニメーターと、“撮影・CG”を担うデジタル映像部といった異なるセクションどうしが緊密な連携を取り合うことが可能になったのだろう。

ジブリとは対照的なアニメ作りの思想

『鬼滅の刃』では、丁寧で緻密な“作画”を、“撮影”や“3DCG”で底上げすることによって「すごい映像」を作り上げている。しかし実はufotableの美学は、過去の大ヒットアニメとは大きく異なると沓名氏は語る。とりわけ、沓名氏も一時期在籍していたスタジオジブリ・宮崎駿監督とは対照的だという。

「ufotableと宮崎作品では、アニメーションに対する思想がまったく異なります。宮崎さんにとってアニメとは、何より“作画”によって絵が生き生きと動くこと。そのためにキャラクターのデザインは線が少なく動かしやすいシンプルなものにし、動く絵を見せたいので“撮影”処理を派手に盛ることもありません。いわば宮崎駿という作家のこだわりの詰まったアートフィルムなんです」

 例えば『千と千尋の神隠し』であれば、千尋が釜爺のもとを訪ねる場面は“作画”的な名シーンとして知られている。

「キャラクターはもとより、髪の毛、服の皺、炎、蒸気、影など、画面の中のあらゆるものが“作画”でコントロールされ、キャラクターのボリュームも変化し続けています。そうすることによって、通常の作画では表現することが難しい、キャラクターのわずかな呼吸までをも観客に感じさせることができるんです」

 この場面は作品の中でも表現が異質でやや浮いた印象を与えるが、安定感や統一感を犠牲にしてでも“作画”的表現を優先するのが、宮崎駿という作家の思想なのだという。

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