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『鬼滅の刃』のナゾ 押井守が考える「設定もキャラクターも新しいわけではない」のにバズった理由 - 押井 守

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 昨年も「文春エンタ!」において、1年を振り返ってくれた押井守監督。2020年はコロナやBLM、米中対立など実にいろいろありましたが、押井監督はこの世界をどのように見つめていたのでしょうか? 今年もぶった切っていただきました。(取材・構成:渡辺麻紀)

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◆◆◆

「100万人までは作品の力。それ以上は社会現象」

(1)『鬼滅の刃』大ヒットの理由とは?

 YouTubeの映像以外で『鬼滅の刃』を見たことはないけれど、基礎知識は一応ある。原作の漫画に人気があったというし、画も丁寧。とはいえ、設定もキャラクターもストーリーも新しいわけではない。にもかかわらず劇場版(『鬼滅の刃 無限列車編』)は日本の興行成績を塗り替えるほどのメガヒットを記録した。


押井守監督

 その理由を考えるとき、私の頭に浮かぶのは、鈴木敏夫(ジブリ作品のプロデューサー)の「100万人(の動員)までは作品の力。それ以上は社会現象」という言葉。アンコントローラブルのところまで行って、初めて大ブレイクする。今風にいうと「バズる」。バズった作品がメガヒットする。

「バズる」ことの本質は、誰もが知りたい現代の謎のひとつ。タネも仕掛けもないから“現象”であって、“現象”が先行するから“現象”であり、その理屈はあとからついてくる。では、「バズる」ことの臨界点はどこで超えるのか? 誰もが情報の発信者になりうるこのSNS社会で、どうやったら個人的な情報が臨界点を超えて社会現象を起こすのか? これもいろんな人が考えているけれど、納得できるような答えは出ていない。

 そこで、自分なりに考察してみると、考える順番が違うんだと思っている。「バズる」という現象は、現象ありきなのだから帰納的にしか説明できない。すべてが後付けになるため、演繹的に考えても無駄。哲学的にいうと、世の中には語れることと、語れないことがある。語れないことに対しては沈黙を守るしかない。つまり、その「語れないこと」が「バズる」ということ。そもそも人間はいまだに世の中の仕組みをコントロールできないんだから仕方ない。

 これは流行の本質だと思う。わからないからこそ、みんなが興味を示し近づく。評判が立っているという現象に誘導される。そうなると、いいか悪いかはもう関係ない。大ヒットした『君の名は。』も同じ。もちろん作品の力はあった。でも、その作品の身幅を超えたからこそ大ブレイクした。

『鬼滅』はおそらく、これからも劇場版が作られるだろうけど、この1作目と同じように大ヒットするかは怪しい。『ドラゴンボール』や『ワンピース』のようにスタンダードになるかというと、それも難しいと思う。でも、なぜそう感じるのかは説明できない。それもまた「語れないこと」だから。

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