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豚窃盗疑惑! ベトナム人男女19人同居「兄貴ハウス」に突撃して見えた真実 - 安田 峰俊

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「群馬の兄貴」をご存知だろうか? 今年に入り、群馬県を中心に埼玉・栃木の北関東各県で発生が続いた、被害総額3000万円ともいわれる家畜や果物の窃盗事件。その犯人グループの元締めであるかのように報じられた在日ベトナム人の39歳の男、レ・ティ・トゥン容疑者である。

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「兄貴」の逮捕は今年10月26日だ。群馬県警の捜査員が、ベトナム人窃盗団のアジトであるかに見える太田市新田上中町の貸家2棟を6時間にわたり家宅捜索。屋内に居住していたベトナム人の男女19人のうち、13人を逮捕したのだ。そこで主犯格とみられたのが「兄貴」だった。

 逮捕容疑は入管法違反(不法残留)だが、貸家の床下からは約30羽の冷凍ニワトリが見つかった。加えて、わずか2棟の貸家の住人数としては桁違いに多いベトナム人居住者たちの多くが逮捕されたことや、牛刀やモデルガン・金属バット・模造刀などの「武器」が押収されたこともあって、主要メディアやネットニュースは家畜窃盗事件との関係を書き立てた。

武装した刺青の「兄貴」と舎弟

 いっぽう、この逮捕劇はネット上でも大きな話題になった。理由は「豚を盗んだ『群馬の兄貴』」という面白すぎる言葉の響きに加えて、ネットに流れた兄貴一派のフェイスブックの写真(画像)があまりに個性的すぎたからだ。


「群馬の兄貴」のフェイスブックページにアップされていた「兄貴」(左から2番目)と舎弟たち。刺青に長大な刃物と、一見すると到底カタギの集団には見えないのだが……

 容疑は入管法違反とはいえ、カタギとは思えない集団が一網打尽にされた。また前後して、群馬県太田市由良町や埼玉県上里町三町などでも、アパートの室内で豚を解体したベトナム人たちが、入管法違反やと畜場法違反などの容疑で次々と逮捕された。「兄貴」と仲間たち計6人については、勾留期限が切れる前に、偽造在留カード所持や無免許運転などの容疑で再逮捕されている。

 北関東を騒がせた家畜窃盗事件は、これにて一件落着。……かと思われたが、話はまだ終わらなかった。「兄貴」と仲間たちは取り調べに対して、いずれも逮捕容疑については認めたものの、なんと家畜窃盗については頑なに否認を続けているのだ。各地で逮捕された他のベトナム人たちからも充分な情報はない。事件は意外にも、長期化の様相を見せはじめた。

 ゆえに私は真相を探るべく、『文藝春秋』1月号(12月10日刊行)の取材で「兄貴」の周囲を探ることにした。そこで足を運んだのが、まずは埼玉県上里町三町の豚解体アパート(前回記事参照)。そして、10月26日に「兄貴」ら13人が逮捕されたという、群馬県太田市新田上中町の2棟の貸家であった。

最寄り駅まで徒歩1時間14分……

 ──苦労して探し当てた新田上中町の「兄貴ハウス」は、思った以上に群馬っぽかった。

 コロナ第3波が本格化する前の11月13日午後。抜けるような青空の下で畑とビニールハウスがどこまでも広がっていた。天に向かい伸びる土のついた太いネギをからっ風が撫でていく。Google Mapで調べると、最寄り駅まで徒歩1時間14分(両毛線)。もしくは1時間21分(東武伊勢崎線)もかかるらしい。

 近くにレンタカーを停め目的地に向かう。私たちが目指す貸家は4棟あり、2棟目と3棟目が「群馬の兄貴」の住居だとみられた。もちろん「兄貴」はまだ勾留中だが、逮捕されなかったり保釈されたりした仲間は、まだこちらに住んでいるはずだった。

「Có ai không??」(誰かいますかあ?)

「さっさと出ていけ!」

 通訳のTが呼ばわる。彼は日本育ちのベトナム難民2世の青年で、私とは6年来の友人だ。しかし、外に洗濯物が干されているにもかかわらず屋内からの反応はない。

 周囲を探索すると、サッシ戸の外にベトナムの男性がよく吸う巨大な竹製の煙草パイプが放置されていた。しかも戸の鍵が開いている。おそるおそる開けてみると、室内には煙草の吸殻と飲みかけのペットボトル、公共料金の督促状の束があった。

 督促状には外国人らしきカタカナの名前が書かれている。また、部屋の鴨居には、住民の名前らしきベトナム語が手書きされた紙が貼られ、さらに奥には──。

 すると突然、奥の襖がガラッと開いて東南アジア系の若者が顔を出し、ベトナム語で一気にまくし立てた。

「誰だぁ、お前ら!? どうせ豚の盗難の件で来たんだろう? 仲間が捕まってから、日本人の記者どもが大勢、写真を撮りにきて気分が悪いんだ。さっさと出ていけ!」

 Tと一緒に彼をなだめる。根気強くコミュニケーションを取っていると、言葉が通じることやTが同世代であることからか、彼は次第に態度を和らげ、ついに「上がれよ」と屋内に迎え入れてくれた。根は悪い人ではなさそうだ。

一斉逮捕で「兄貴ハウス」が崩壊

 彼の名はヴァン(仮名)。ベトナムに妻子を残して2年前に技能実習生として来日したが、劣悪な労働環境と低賃金に嫌気がさして逃亡、不法就労者になった25歳である。だが、コロナ禍が深刻化してから、ほぼ失業状態になってしまった。

「ベトナムにいる家族のところに帰りたいけれど、フライト数が減って航空券もすごく高くなって、帰りようがないんだ。入管にも出頭したんだけどさ」

 現在、彼のようなベトナム人が多いことは、すでにさまざまなメディアが報じている。不法滞在と言えば聞こえが悪いが、彼らはもともと日本国家の技能実習制度の落し子であり、しかも入管に出頭しても、コロナ禍の混乱のなかで自宅待機を命じられて帰国できない立場にある。

「それが、この間(10月26日)の大捕物では不法滞在容疑で逮捕だよ? 入管に出頭したときは家に帰したくせに、なんで逮捕するんだか。日本の警察がやることはわけがわからねえ」

 もちろん不法滞在者である以上、入管や警察の指示には従うべきだろう。ただ、兄貴ハウスの住民からすると、謎の一斉逮捕によってわずかに不法就労をおこなっていた仲間も収入源を絶たれてしまった。生活はたいへん厳しく、もうすぐ電気やガスも止まりかねないという。

「逮捕された『兄貴』のことかい? 同居人の一人だったし、優しいいい人だったよ。でも、彼の仕事のことはよくわからないが、豚を盗んではいない。マジで、この件は俺たちはシロなんだ」

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