日本で新型コロナの重傷者や死者が少ない要因を、京都大学の山中伸弥教授は「ファクターX」と名づけた。その正体はなにか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授は「さまざまな研究からファクターXは2つに絞られた」という——。
※本稿は、小林弘幸著、玉谷卓也監修『免疫力が10割 腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

アジア諸国と他地域の死者数の差
今回の新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックでは、アジアと欧米で大きく被害状況に差が出ました。欧米諸国の肥満率の高さなど健康水準のちがいが指摘されていますが、それだけでは説明できません。
日本では、中国のように強権的なロックダウンを行ったわけでも、台湾のように各国から賞賛される国家レベルの対策を打ったわけでもありません。
2020年4月の緊急事態宣言の発出によって感染の広がりをある程度抑えられたことは確かですが、欧米に比べ1カ月近く中国からの入国制限は遅れ、宣言発出まで満員電車は変わらずに走り続け、すでにかなりの数の国民に感染していることは明白でした。

しかし、PCR検査の体制が整わず、発症した患者にしか検査が行われなかったため、その実態も見えないままに時が経っていったのです。
それでも、世界、とくに欧米と比較すれば奇跡のように少ない発症者数、死亡者数で今日まで推移しています。国民の健康水準だけでなく、感染または発症を防いだ、なんらかの外的要因があったことは間違いないでしょう。
日本において被害が抑えられた未知の要因を、京都大学の山中伸弥教授は「ファクターX」と名づけ、その解明が進められています。ここでは、日本に限らず広くアジアの範囲で「ファクターX」について考えてみましょう。
示唆的な「BCGワクチン」と「交差免疫」
まずは、新型コロナウイルス感染症による被害状況をデータで見てみましょう。以下の表は、2020年10月1日時点での新型コロナウイルスの流行状況のデータです。

「感染者数における死亡率」を見ると、感染症の被害が甚大だった欧米、中南米と日本・中国・韓国の数値に大きな差はないように見えます。しかし、実際のところ「感染者数」は各国の検査体制に左右されるため、あまり参考になりません。
そこで、注目すべきは「人口100万人あたりの死亡者数」です。アメリカやブラジルでは100万人あたりで500人以上が死亡。同等かそれ以上の死者が、欧州や南米地域で出ています。
一方、日本、中国、韓国のほか、この表にはない東南アジア諸国を含むアジア全体で、100万人あたりの死者数は低い数値を示しています。また、死者数だけでなく、100万人あたりの感染者数も少ない傾向にあります。
結論からお伝えしましょう。
アジア諸国の被害の少なさの要因であるファクターXは、「BCGワクチン」と「交差免疫」の存在なのではないかと考えられています。