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「4Lの焼酎ボトルがずらり」そんな僕が4年以上の断酒を続けられている理由

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アルコール依存症から抜け出すには、どうすればいいか。「酒をやめるくらいなら、死んだほうがまし」。そう考えていたライターの宮崎智之さんは、もう4年以上も断酒を続けている。なにが宮崎さんを変えたのか。新刊『平熱のまま、この世界に熱狂したい』(幻冬舎)から、その一部始終をお届けしよう――。(第1回)

※本稿は、宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい 「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)の1章「ぼくは強くなれなかった」の一部を再編集したものです。

本を読み、酒を飲んでいれば、「文学」だと思っていた

朝、鈍い日が照つてて

  風がある。

千の天使が

  バスケットボールする。

『中原中也全詩集』(中原中也、角川ソフィア文庫)

中原中也の「宿酔」という詩の一節である。「千の天使がバスケットボールする。」。二日酔いの苦しさと、なんともいえない侘しさをこれほどまで的確に表現した詩人はいないのではないか。中原中也は、酒席で太宰治に「何だ、おめえは。青鯖が空に浮んだような顔をしやがって」などと罵って理不尽に絡んだり、中村光夫の頭をビール瓶で殴ったりといった伝説に事欠かない酒飲み、もとい酒乱だ。

中原中也で卒業論文を書いたからというわけではないが、ぼくもよく酒を飲んだ。文学部にいるうちは、本を読み、酒を飲んでいれば、一人前に「文学」に励んでいることになると思い込んでいた。過去の文学者に倣って大酒を飲み、「何者か」になったつもりでいた。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

社会人になってからも、毎日とにかく、酒、酒、酒の日々……。365日、休みなく飲み続け、休肝日という発想は皆無だった。「酒をやめるくらいなら、死んだほうがまし」。本気でそう思い込んでいた。

しかも、何年もののロマネ・コンティ……なんて上品な飲み方ではなく、重要なのはアルコール度数だ。度数が高くて、値段が安ければなおいい。お金がなかった20代前半には、わざわざ遠方の酒屋まで歩いて、度数とリットル、値段を計算し、一番費用対効果が高い酒を探したものである。4リットル1800円ほどの安焼酎を背負って帰っていたのだから、当時のぼくには元気があった。

「酒のない人生なんて、空虚で華もない。酒こそが人生だ」

度数至上主義。そう呼べば多少は聞こえがいいが、ようはただの馬鹿である。そのうえ、一部界隈では「早飲みの宮崎」の異名を取っていたため、4リットルの空きボトルが一気に溜まる。大学時代、ある先輩が「酒は飲むものではなく、消すものだ」とぼくに教えてくれた。世界中を放浪するのが好きで、偽物のトルコ絨毯をつかまされたことを笑って話してくれた先輩は、今どこでなにをしているのだろうか。

しかし、酒を飲んだって何者にもなれはしない。中原中也は酒を飲むから詩人だったのではなく、ただ単に「詩人であり、かつ酒飲み」であっただけなのだ。「平凡であり、かつ酒飲み」のぼくは、いつからか酒と上手く付き合うことができない自分に気づきつつも、それを認めることができないでいた。明確な破綻を迎える時までは。

酒を飲むと気分が良くなり、楽しくなる。気が大きくなり、全能感が味わえる。普段よりも積極的な性格になって、いろいろな人と語らい、仲良くなれる。酒のない人生なんて、空虚で華もない。酒こそが人生だ。そんなふうに思い込んでいたため、自分が酒をやめられる人間だとは思ってもいなかった。というか、酒のない生活がどういったものなのか、ぼくには想像することすらできなかった。

事態が急変したのは2016年5月。急性膵炎で二度目の入院をした際、医師から「金輪際、もう酒はやめてください」ときっぱり宣告された時である。神託を下すような、毅然とした物言いだった。

「これからは休肝日を設けて、ほどほどに飲もう」

急性膵炎は、アルコール性のものが多いらしく、ぼくの場合は十中八九、アルコールに起因する症状とのことだった。「酒をやめるってことは、今後の人生、一杯も飲んではいけないってことでしょうか?」なんて野暮な質問はしなかった。なぜなら、一度目の入院の後、節酒に挑戦するも失敗した苦い経験がすでにあったからだ。

「飲みすぎたのがいけないんだ。これからは休肝日を設けて、ほどほどに飲もう」。

そんな計画が続いたのは、たったの1か月。入院のつらさを忘れた頃には、すっかり元の飲み方に戻っていた。いや、以前より酒量が増えたかもしれない。ダイエットでいうリバウンドみたいなものである。しかも、途中から「赤ワインは体に良さそうだから、いくら飲んでもオッケー」という謎のルールが加わった。これでは、焼酎がワインに変わっただけだ。赤ワインを口の周りにつけながら、行きつけのバーでくだを巻いていたぼくは、ワインを愛好する女優が亡くなったニュースを聞き、その場で膝から崩れ落ちた。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/5PH

そんなこんなで、二度目の入院と相成ったわけである。アルコールについては、今思えば笑い話になることもたくさんある。しかし、冷静に振り返ってみると、当時のぼくはやっぱり心が壊れていた。それをなんとか取り繕おうとアルコールを飲み、さらに心は壊れ、酒は深くなっていった。

飲むことで、前妻との生活に向き合うことから逃げていた

どこかで歪みが生まれたのだろう。気がついたら、酒量が常軌を逸した量になっていた。それがいつからなのか正確な線を引くことはできない。「あそこかも」と思う地点もあるが、徐々に酒が日常を侵食して生活を覆っていった、というのが実感だ。

30歳の時に、ぼくは離婚した。理由を人に聞かれたら、「小さなすれ違いが重なって、ある時期から取り返しのつかない心の距離が生まれてしまった」と説明している。この説明に偽りはないが、その根底にはぼくの飲酒の問題があったのは間違いない。

どこかのタイミングで、酒が楽しむために飲むものではなくなっていった。仕事に集中し、気が高ぶり過ぎて眠れなくなった。強制的に仕事のことを考えなくするために、気絶するまで酒を飲んだ。そのうち、「執筆に弾みをつけたい」と、仕事中も飲むようになった。そして、仕事のストレスや、なかなか成長できない自分に対する自信のなさを忘れるための「物質」として、酒が手放せなくなった。

「効能」を求めて酒を飲むようになり、求める効能の数は次第に増えていった。効能が、ぼくの駄目な部分、嫌いな部分を治してくれると信じた。さらに、酒によって生じたメンタルや体のトラブルを、効能によって抑えようとすらした。DVや借金といった深刻な事態には発展しなかったが、前妻との生活に向き合うことから逃げていた。

アルコール依存症は、自分では認めたがらないのが特徴

最後は目の前の現実から目を背けるため、朝起きた瞬間に酒を飲んだ。夜、泥酔してもう一歩も歩けない状態になっても枕元に酒がないと不安になり、千鳥足でコンビニまで酒を買いに行った。そして、また少し飲んで眠り、起きたら余っている酒に手をつけて、また酔った。当時、勤めていた編集プロダクションは出勤時間がゆるかったため、酔いが少し醒めてからシャワーを浴び、臭いを誤魔化して出社した。

離婚し、ぼくははじめて「人間の心は壊れる」ということを知った。心が壊れる瞬間の音を、リアルに聞いたような気がした。もちろん知識ではそういうこともあると知っていた。しかし、体は弱いけど、心はどちらかというと強いほうなのではないかと、自分では思っていた。心が壊れる音を聞いたとき、そうではないことを悟った。

でも、すぐにやめることはできなかった。酒を飲むと、心の弱い部分、壊れた部分が隠せると思っていた。飲んでいる間は、自分を強い人間だと信じ込むことができた。そして破綻を迎えたのだった。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/igorr1

アルコール依存症は「否認の病」だと言われている。自分では認めたがらないのが特徴の一つなのだ。「アルコールを飲んでも大丈夫」という理由を自分で探して捏造したり、時には飲んでいることを隠したりする。振り返ってみると、ぴったりと当時の行動に符合する。

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