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樋口恵子×上野千鶴子「真面目で責任感の強い"よい嫁"が社会の足を引っ張っている」

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女性学のパイオニアである上野千鶴子さんと、「高齢社会をよくする女性の会」理事長である樋口恵子さん。女にとって激動の時代を生き抜いたお二人が、ヨタヘロになっても人生をすっきり過ごす、“妻のやめどき”を語り合います。

※本稿は、樋口恵子・上野千鶴子『しがらみを捨ててこれからを楽しむ 人生のやめどき』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。

主婦がキッチンで料理をしている
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liza5450

妻の「やめどき」はいつなのか

【樋口】妻のやめどきというテーマで思い出すのが、労働組合の幹部同士のご夫婦ね。そのご夫婦、働いていたときは理想的に家事の分担ができていたんですって。でも、妻が定年になったとたん、一気にこれまで二人の間にあったセオリーが変わってきたの。要するに夫は、妻が定年になったら家庭の仕事はすべて妻がするものだと思っていたらしくて。

【上野】何、それ?

【樋口】私も、そういう理屈があることを初めて知ったんだけど。要するに、今までは君も働いていたから俺も家事をしたけれど、今日から君は専業主婦なんだから全面的に家事をして当たり前と言うわけ。そこで妻は夫と三晩くらい徹底的に討論をして、それは間違っているということを言って聞かせて、ようやく今まで通りに収まったんですって。

【上野】つまり、その男性の理屈だと、これまで妻は不完全な主婦だったと。それが定年を迎えて完全な主婦になるんだからということなのね。開いた口がふさがらない。自分だって定年退職者なのに。

【樋口】まったく(笑)。同じ年数を働いてきているから、もらう年金もほぼ同額なのに。

【上野】でも、とっても男らしい理屈ですね。その話で思い出しました。私と同世代の元大学院生カップルで、当時、妻は学生結婚で子どもを産んで、ワンオペ育児でどんどん疲弊していったんです。そんなときに夫が「君は普通の女性以上のことをしようとしているんだから、家事も育児も普通の女性並みにできて当たり前だ」と言ったんですよ。これもすごい理屈でしょう?

【樋口】すごい(笑)。

“真面目な妻”ほど損をする、男の理屈

【上野】妻がまた真面目な日本の女なものだから、彼の言葉に納得しちゃったんです。それで家事と育児を全部背負い込んで、そのうえ、大学院の勉強もあって、さらにどんどんやつれていって。私が忠告しようとしたら、夫のほうが「上野さん、親戚のおばさんみたいなこと、言わないでください。僕ら、うまくやってますから」と。そういう理屈が男のほうで成り立っちゃう、驚くべきことに。今の樋口さんの話は妻が納得せずに説得したケースですが、このカップルは妻が納得させられてしまったケース。結局、妻は退学しました。どうかと思います。

夫として最悪なケース

【上野】労働組合運動や社会運動をやっている男性は夫としては最悪のことがあります。というのは、社会運動って正義とか大義のためにあるものじゃないですか。これが仮にモーレツサラリーマンだったら、「あなたがやっているのは、せいぜい会社の利益のためでしょう?」と言えるんだけど、社会運動をしている夫が走り回って家を顧みなくても、同じようには言えないというのを聞いたことがあります。

例えば、いわさきちひろさん(絵本作家/1918~1874年)の夫の松本善明さん(弁護士・共産党所属の国会議員/1926~2019年)も、戦後最大の冤罪事件といわれた松川事件なんかを手がけたりして立派な人ですが、朝早く家を出て夜遅くまで帰らない。だから、ちひろさんが女家長で、両親や子どもの世話、家計の維持まで全部やって、もうボロボロだったらしいんです。で、ある日帰ってきた夫に「あなたが悪い」って言ったんですって。そしたら善明さんが無邪気に「僕のどこが悪い? だって、僕は一日中いないんだよ」って(笑)。

【樋口】善明さん、何もしなくてもいいと思ってる(笑)。

【上野】これもすごい理屈でしょう? でも、ちひろさんが立派なのは、それを聞いて啞然として思わず吹き出して終わっちゃったこと。

【樋口】それで終わっちゃっていいのかしらね。

【上野】そうなの。でも、愛があったからいいんでしょう。

【樋口】だけど、男の人って必要なときに出てきて、面倒くさいときにすーっと引っ込んでくれる幽霊のような存在が、一番いいかもね。男にとっての女も同じかもしれないけれど。

嫁と姑の仲が悪いのは当たり前

【上野】樋口さんの世代の夫婦で、妻が夫に敬語を使っている家庭はあります?

【樋口】ほとんどないと思う。そういえば、松本清張さんの『砂の器』という小説があるでしょう? あの中にハンセン病のことが出てくるから読んだんですが、妻が夫に使う言葉が敬語ばかりでした。

【上野】小説の時代設定は何年頃でしたっけ?

【樋口】60年代頃ね。だから、私よりも上の世代。

【上野】私の世代も、周囲の学生に聞いても、妻が夫に敬語を使っている家庭はゼロでした。

【樋口】そのあたりはずいぶん変わりましたね。もっとも、うちの両親は二人とも明治生まれなので、母は父に向かって「お父様、何になさいますか?」でしたけどね。

【上野】それが今ではまったく消えてなくなった。

【樋口】そう考えると、嫁と姑の仲が悪いのは当たり前よね。自分は夫に敬語を使っていたのに、どこの誰とも知れない女が、自分の大事な息子に向かって「あんた、何してんの」って言うんだもの。

【上野】そこが、娘の母と息子の母で全然態度が違うんですよ。息子の母だと「嫁があんなふうで、息子がかわいそう」とか言って怒るのに、娘の母だとそうでもない。

妻と義母の良好な関係
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

【樋口】そうそう。私の小学校時代の同級生は、やっぱり息子がかわいそうとか、嫁に威張られていると感じているわよ。ところが、彼女らの息子たちはみんな何かがあると決まって嫁サイドについて「ママが悪い」って言うんですって(笑)。

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