記事

ありふれた商品を爆発的に売るeコマース事例

画像を見る

Dollar Shave Clubは2011年7月に創設された「髭剃りを販売する米国のECサイト」だ。同社はスタートアップでありながら、Gillette社などの大手メーカーが確固たる地位を築いている市場でシェアを伸ばしてきた。

以下では、同社のECサイト戦略について紹介する。

サブスクリプション(定期購入)サービスで髭剃りを販売

eコマースでのトレンドの1つになっている「サブスクリプション・サービス」ては、他のルートでは手に入りにくい商品をシリーズとして「月(週)に一度のお楽しみ」といった形で定期的に届ける例が多い。

日本でも、ケーキや日本酒、ラーメンなど「お取り寄せサービス」といった名称で顧客の期待感を盛り上げながら厳選した逸品を定期的に届けるECサイトが次々と登場している。

Dollar Shave Clubがユニークなのは、入手するのに困らない、毎回同じ髭剃りをサブスクリプション方式で提供していることだ。

画像を見る

用意されているコースは、「月額1ドル+郵送料(2ドル)」「月額6ドル(郵送料込み)」「月額9ドル(郵送料込み)」の3種類。製品を製造しているのは中国と韓国のメーカーである。

安い。だが近所のスーパーやドラッグストア、ダラーストア(百円均一ストアの米国版)でも、同じような品物が大差ない値段で手に入るのではないだろうか。

軽量でもあり、わざわざオンラインで注文して自宅に届けてもらう必要を感じる顧客がどれだけいるか、事業を始める前に普通は迷いそうだ。

しかしDollar Shave Clubの創業者二人は、レーザーという商品の特徴として「市場が大きい」「定期的に買い替えの必要がある」「どこでも買えるが、つい買い忘れしやすく、わざわざ買いに行くのは面倒」という点に注目した。

また、オンライン販売での最大の障害の1つは「送料」だが、レーザーは軽量なので、その点でもECサイトで扱うのに有利だ。

「大企業の陰謀と戦う同志の集まり」という物語を演出

しかし質が高く、他では手に入りにくい製品であっても、オンラインだけで販売するには戦略的なマーケティングが必要になる。それが「ありふれていて、どこでも入手できる製品」となったらなおさらだ。

Dollar Shave Clubは「チープで、ありふれている」という、普通ならば製品の弱点となりかねない特徴をポジティブな点として前面に押し出し、これに物語を加えることでこの難題に対処している。

About Us」ページにある同社の紹介文を見てみよう。

「優れたアイデアの多くがそうであるように、Dollar Shave Clubの場合も、二人の男がある現状に怒りを感じ、何とかしなければならないと決意したことから始まる...

我々は髭剃りに毎月15~20ドルも費やさなければならないことにうんざりしていた。『たかが髭剃りに、バイブレーション機能付きハンドルやLED誘導灯などなどの、ファンシーなハイテクが本当に必要なのか?』と自問してみた。答えは明確にノーだ!

大手メーカーはより高価な道具が必要なのだと常に我々に思い込ませようとしている。だがなぜだ? 髭剃りはシンプルであるべきだ。君の親父やお祖父さんの昔の写真を見てみろ。ハイテクな道具を使っていなくても、結構な男前に見えると思わないか?」

画像を見る

つまり「ハイテクな髭剃りを購入させられているのは大手メーカーの陰謀であり、その陰謀に対抗するためにできたのがDollar Shave Clubである」という物語を演出し、「君もこのクラブに入って、この陰謀に対抗するために一緒に戦おう」と世の男たちに呼びかけているのだ。

放送禁止語をタイトルにつけた宣伝動画が爆発的にヒット

上記の物語を全米に広めるのに絶大な威力を発揮したのが、今年3月に公開された「Our Blades Are F**king Great(わが社のブレードは超凄い)」というYouTube動画である。

一部が伏字になっているのは放送禁止語であるためだ。伏字にしても、この単語を使うことは、企業の評判にマイナスになるリスクもある。だが商品とターゲットの性格を考えて敢えてリスクを冒したことが、ここでは吉と出た。

画像を見る

動画中、最初から終わりまで真面目な顔と口調でオフビートなギャグを連発しているのが、Dollar Shave Clubの共同創設者であるMichael Dubin氏。演技力が半端でないと思ったら、コメディグループに所属して演技を学んだ経験があるそうだ。

日本人の僕にはよく分からないギャグもあるが、米国人の笑いのツボにぴったりはまっているらしく、この動画はソーシャルメディアでどんどんシェアされ、公開後、最初の48時間で1万2000人がDollar Shave Clubに新規加入した。

動画の再生回数は、11月2日現在で7,294,126回を数え、今も同志を増やす力になっている。

わざわざこの店で買い続ける価値は何なのか?

Dollar Shave Clubの急激な躍進に注目が集まると、同社のサービスを利用することに疑問の声も出始めた。

例えば「Does Dollar Shave Really Save?」という記事は、Dollar Shave Clubのコンセプトは「節約」だが、それなら同社の顧客になるよりも、同社に製品を卸している韓国メーカーDorcoの米国法人のECサイトに行って、まとめ買いをした方がもっと節約になると教えている。

だが同社のサービスに満足している顧客は「節約になる」「自宅に届けてくれるので便利」という理由からだけで、同社のサービスを利用しているのではないようだ。

Business Insider」のこの記事はDollar Shave Clubの製品が届けられた経験を「ファンタスティック!」と絶賛している。

記事の著者は製品に添えられている「おめでとう。これは君が長い年月でくだした最高の決断だ。これで君はエリートグループの一員になった」「この会員証を全米のバーで提示すれば、一杯無料になる(いや、嘘だけどね。飲酒しながらの髭剃りはやめましょう)」といった馬鹿馬鹿しいメッセージを気に入っている。

画像を見る

レーザーやブレードは多くの男にとって髭を剃るために必要だから買うもので、わくわくと胸を躍らせながら買いに行くような品物ではない。

そういう品物に「大企業の陰謀と戦う」という物語を演出して、個々の顧客をその物語の登場人物として引き込み、クラブという形を取ることで「退屈な買物」から「楽しい買物」に変えた。それがDollar Shave Clubのブランド価値であり、最大の勝因だ。

つまり、Dollar Shave Clubは米国男性の遊び心を刺激することでコミュニティの形成に成功したECサイトといえる。それは同社のブログFacebookにもよく現れている。

尚、この記事では同社のサービスを「サブスクリプション・サービス」と紹介したが、Dollar Shave Clubでは「メンバーシップ・コマース」と呼んでほしいといっている。その方が同社と顧客の間に隔たりがなく、連帯感をより感じさせるからだ。

あわせて読みたい

「EC」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ジェンダー問題の被害者?“おじさん上司”にも存在する生き辛さ

    ABEMA TIMES

    05月17日 09:23

  2. 2

    「オリンピックは中止すべき」の調査結果は正しくない〜統計はウソをつく

    新井克弥

    05月17日 14:16

  3. 3

    コロナ対策の都道府県別の評価【大阪府 最下位】

    山内康一

    05月17日 15:57

  4. 4

    企業でいえば万年課長 大臣の一言でいつでも飛ばされる官僚はつまらない商売か

    ヒロ

    05月17日 10:54

  5. 5

    本仮屋ユイカ 有村騒動で涙…1ヵ月半で破綻した信頼関係

    女性自身

    05月16日 22:58

  6. 6

    ようやく減りだした東京の感染者数 人流抑制は変異株に有効か

    中村ゆきつぐ

    05月17日 08:31

  7. 7

    東京オリンピック 強行しても拭えない「穢れ」の印象

    柴那典

    05月17日 08:16

  8. 8

    石橋貴明の始球式が“神対応”と話題 若者ファンが急増のワケ

    女性自身

    05月17日 13:22

  9. 9

    東京の大規模接種 不具合で期間外の予約受け付け 772回の予約は有効に

    ABEMA TIMES

    05月17日 20:04

  10. 10

    対コロナ戦争の誇り高き勝利国インドを地獄に叩き落とした変異株 東京五輪は本当に可能なのか

    木村正人

    05月17日 09:33

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。