経産省が所管する官民ファンド「INCJ(旧産業革新機構)」。液晶パネル大手「ジャパンディスプレイ」をはじめ、経営再建を目指す企業に出資してきた。
「そのINCJが出資する企業で、“架空取引”が発覚したのです。社長やCFOらが辞任に追い込まれる事態に発展しました」
そう明かすのは、経産省関係者だ。
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問題の企業とは、医療介護専用SNS「メディカルケアステーション」などを運営する「エンブレース」(東京・港区)。代表取締役社長だったM氏は日本IBM出身、取締役CFOだったA氏は旧通産省(93年入省)の出身だ。
「エンブレースは『地域包括ケアというニーズに対する新たな仕組みを構築』などを理由に、INCJから16年に4億円、18年に3億円の出資を受けました。ところが以降も業績は悪化の一途を辿り、民間調査会社のデータによれば、20年4月期は約4億3000万円の売上高に対し、5億円超の赤字を計上しています」(同前)
厳しい状況に危機感を抱いた経営陣。手を染めたのが、“架空取引”だった。
「架空の売上高を創出するために、複数のソフトウェア会社から実体のないコンサル業務を受注。その一方で、受領したコンサル料を返還するために、実際に必要な金額を大きく超えた金額で開発委託を行っていました。“架空取引”の総額は1億円前後になると見られます」(同前)
株主宛の文書で認めた「不適切な取引」
監査法人からの指摘を受け、エンブレースは社外監査役などで構成される調査委員会を設置。11月12日、株主宛てに送付した文書で〈不適切な取引〉があったことを認めた。
11月26日に開かれた臨時株主総会。「週刊文春」が入手した議事録によれば、社長のM氏は辞任。他方でA氏は「売り上げ規模から考慮すると相当高額な発注だったにも関わらず、検討を怠った」などとしてCFOを解職されたが、取締役に留任することになった。
「大株主のINCJもそれ以上の厳しい処分を求めなかった。ただ、個人株主からはM氏やA氏らに損害賠償を求める声が上がっています」(エンブレース関係者)
エンブレースは「(役員人事は)ガバナンス強化が喫緊の課題と判断して経営体制の刷新を行ったもの」、INCJは「不適切な取引が行われた可能性が高いと判断されたことは、誠に遺憾に思っております。取締役を派遣している株主として、事業発展のための支援を継続してまいります」、経産省は「コメントする立場にない」などと回答した。
税金が投入されているINCJ。出資先として適正だったのか、検証が必要だ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年12月17日号)