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好きな作家を問われると

学校読書調査:中高生の好きな作家、「山田悠介」圧倒的1位 文豪は不人気(毎日新聞)

 毎日新聞が全国学校図書館協議会(全国SLA)と合同で実施した「第58回学校読書調査」の結果が26日まとまった。中学生と高校生に一番好きな作家を聞いたところ、1位はともにホラー作家の山田悠介で、他を圧倒した。

 全国の公立学校に通う小中高校生を対象に6月に実施、1万1313人の回答を得た。

 あらかじめ選んだ30人から一番好きな作家を答えてもらうと、中学生は18%、高校生は22%が山田悠介を挙げた。2位は中学生があさのあつこ(8%)、高校生が東野圭吾(12%)だった。

(中略)

 一方、中学生の27%、高校生の19%は好きな作家を答えず、夏目漱石、芥川龍之介ら「文豪」は全員3%以下にとどまった。

 

 中高生の好きな作家を調べてみたところ、山田悠介が圧倒的なんだそうです。まぁ、粗探ししてケチを付けるのは割と簡単な作家とも言えますが、私はわりと好きな方です。隙のない整った文章=文学として優れた文章ではありませんから。ちなみに引用元では「文豪」の代表として夏目漱石と芥川龍之介が挙げられており、これは概ね最大公約数的な評価と思われますけれど、海外では三島由紀夫が圧倒的になることが多いようですね。オゥ! ジャパニーズ、ハラキーリ! 外国人が「日本」に求めるものを最も満たしてくれる作家は三島由紀夫なのでしょう。

 中高生ならぬ、中学や高校の教師が好きな作家とか調べてみたらおもしろい気もします。塾業界とか、入試対策をかねて調べてみてはどうでしょう。私が受験生であった頃、国語/現代文のテストに最も頻繁に顔を出していたのは山田詠美と厳密には作家ではないかも知れませんが外山滋比古でした。学校(国語)の先生が好きな作家の2トップだったようですね。また滋比古かよ!と辟易しつつも問題文である以上は真剣に読むしかない、それも今となっては懐かしい思い出ですけれど、時代は多少変わったでしょうか。私が受験生だった頃と学校の先生の好みが変わっていないとしたら、それはそれで不安になります。

 なお中学生の27%、高校生の19%は好きな作家を答えなかったとのこと。私も、ちょっと答えに困りますね。漫画家とかゲーム制作者とか、あるいはロックバンドに作曲家、それからサッカー選手や野球選手でも、好きな一人を挙げるのは割と簡単ですが、好きな作家と問われると難しいです。一応、私の専門は文学であって就職に役立つようなスキルを放棄した分だけ文学には精通していると自負しておりますが、それだけに判断に迷うところがあります。一応、論文を書いた作家もいますけれど、そうでない作家も良い作家ですから。

 

 そう言えば『幼年期の終わり』という小説を読んでいたとき、「幼年期」に当たるのは作中の「オーバーロード」達だと感じたものです。前半部のあらすじを説明しますと、宇宙から「オーバーロード」と呼ばれる種族が飛来してくる、そのオーバーロード達の能力を持って地球上の諸問題が次々と解消されていく、ところが――みたいな感じでしょうか。オーバーロードによって指導される地球人が「幼年期」なのだと、そう見せつつ実は別の意味で「幼年期」であったことが終末に至って明らかにされるのですが、どうにも私にはオーバーロードこそ幼年期に見えていたわけです。

 というのも、作中では人類の抱える問題を瞬く間に解決していくオーバーロード達ですが、どうにもそのやり方は稚拙で説得力を欠き、率直に言えば「自分も中学校くらいの頃までは、そういうやり方で世の中の問題が片付くと思っていたなぁ」と、黒歴史が甦ってくるような印象を拭えなかったのです。中学生や、思慮分別のほどは同程度の大人が説く「こうすれば上手く行く」レベルの解決法を実践するのがオーバーロードであり、それで上手く行ってしまうのが作中世界だった、と。小説の眼目はその辺のリアリティとはかけ離れたところにあるにせよ、政治や社会問題の複雑さへの洞察が見えないオーバーロードにこそ私は「幼年期」を感じたものです。

 これとは逆の意味で印象深かったのが『ゲームブック 君ならどうする・食糧問題』という本でした。一時は流行ったゲームブックですが、その中で「食糧問題」というまるで場違いに見える題材を扱った本もひっそり出版されていたもので、まぁゲームブックとしても食糧問題の参考書としても一流ではなかったかも知れませんけれど、この本と出会ったおかげで私は一足早く「幼年期」を終えることができたとも言えます。でなければ、もう少し長いことオーバーロード的な問題解決手段を信奉し続けていたことでしょうから。

 上記ゲームブックの読者は食糧問題担当大臣として、様々な問題を前に決断を下すことを迫られます。そして表れる選択肢の大半は、どれも一見すると正しいように作られているのです。そして選択肢Aを選べば、一部の問題が解決する反面で今度は別の問題を発生させてしまう、では誤った選択であったのかと逆に選択肢Bを選べばと言うと、やはり一部の問題が解決される一方でまた異なる問題に直面することになります。普通のゲームブックでは、概ね「正解」の選択肢があるのですが、この「君ならどうする」では「正解」と呼べる選択肢がない、一応のゴールこそ用意されているものの、大半の選択では前述のように解決できるのは一部だけ、逆に新たな問題が……という繰り返しなのです。

 『幼年期の終わり』では「正解」が存在し、その正解を次々とオーバーロードが示しては実行していきます。しかし、『ゲームブック 君ならどうする・食糧問題』においては大半の場面で正解はない、明らかに間違っていると判断できる、特定の思想に駆られた人しか選ばないであろう悪意ある選択は初めから除外されており、概ね誠意あると思えるはずの選択肢が並べられている、しかしどれも正しくはない、そうした現実の難しさを「君ならどうする」は教えてくれました。良心的な選択だけではどうにもならない、それを理解した上で前に進まなければならない、そのことを早い段階で気づかせてくれた名著であったな、と(少し記憶の中で美化されているかも知れませんが)思います。悲しいことに、今や邦訳版の出版元は倒産してしまいましたが。

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