記事

《現地取材》「知るか、コピーしただけだ」フェイクニュースを量産する男たちの本音と正体 『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』より - 古川 英治

1/2

 センセーショナルな見出しで耳目を集めることだけを目的とした、悪質なフェイクニュースが跋扈するインターネット。SNSの普及は、それをさらに加速させており、政治、経済、さまざまな分野での悪影響は計り知れない。では、そうしたフェイクニュースはいったいどこで、誰が、どのようにして発信しているのだろうか。

【写真】この記事の写真を見る(4枚)

 日本経済新聞社で国際部次長兼編集委員を務める古川英治氏が、ロシアを中心に各国の情報戦争の真相に迫った著書『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』を引用し、世界を動かすフェイクニュース生産工場、マケドニアの都市ベレスで行った現地取材の様子を紹介する。

◇◇◇

グーグル翻訳でデマ作成

 IRAの活動と並行して、フェイクニュース発信の拠点として名をはせた街がバルカン半島の北マケドニアにある。16年のアメリカ大統領選の際には100以上も乱立した政治サイトが偽情報を拡散し、トランプの勝利に一役買ったとされる。

 ここでもロシアの工作が絡んでいたのではないか――私の中にそんな思いが膨らんだ。若者らが偽情報を量産した現場では何が起きていたのか。真相を探るべく17年4月に現地へ取材に向かった。

©iStock.com

 北マケドニア(19年2月にマケドニアから国名変更)はユーゴスラビアの解体に伴い1991年に独立した人口200万の小国だ。日本人に馴染みがあるのは、古代ギリシャのアレクサンダー大王が築いた王国の発祥地域だったことだろうか。首都スコピエの中心部には巨大な大王の像が立つ。フェイクニュースの街はここから南へ50キロに位置する。

フェイクニュースづくりで潤う街

 春の日差しが暖かい山間の高速道路を抜けると、人口5万人足らずのベレスという街が現れた。平日だったが、目抜き通りに並ぶカフェは大勢の若者でにぎわっていた。フェイクニュースづくりで大金が流れ込み、街は潤っているようだった。

 実は今回は欧米メディアのベレスに関する記事に目を通しただけで、事前準備なしの「パラシュート出張」だった。街頭で若者に片っ端から声を掛ければ何とかなる、と高をくくっていたが、ベレス訪問初日はまったくの空振りに終わった。英語があまり通じず、会話がほとんど成りたたなかったのだ。公用語のマケドニア語は、ロシア語と同じスラブ系の言葉だが、私にはさっぱり分からなかった。「一体どうやって英語で偽ニュースが作成されたのか」という疑問がわくと同時に、このまま何もつかめないのではないかとの不安に駆られた。

 夕方に首都スコピエに戻り、英語が通じるホテルやカフェで通訳をしてくれそうな人を探し回った。パブで知り合ったホテルマネジャーがベレス出身で、現地の1人の若者と連絡を取ってくれたのは幸運だったとしかいいようがない。

「儲け話があるぞ」と持ちかけられたデマ記事づくり

 ベレス取材2日目、通訳兼案内人のウラジーミルが革ジャンにくわえたばこといういでたちで待ち合わせ場所のカフェに現れた。「自分は反政府・反汚職デモのリーダー格としてテレビにも取り上げられた『政治家の卵』だ」と写真を見せながらしきりに売り込んできた。少しうさんくさいなとも思ったが、彼に頼るしかない。英語はでたらめだが、何とか話は通じる。

 取材の狙いを説明すると、「おれはフェイクニュースづくりはやっていないが、知り合いはいる」と言って、携帯電話で何人かに連絡を取り始めた。

 1時間すると19歳の小柄な若者、ニコラ(仮名)がカフェにやって来た。失業中のニコラは16年8月、友人に「儲け話があるぞ」と持ちかけられたと語り始めた。

「アメリカ政治に関する英語ウェブサイトを立ち上げて、サイトに掲載される広告へのアクセスを稼げば大金を稼げると言われた。半信半疑だったけど、友人はサイトと多額の口座への入金を見せてくれたので、やってみることにした。彼にやり方を教わって、指導料に140ユーロも取られた」

 ニコラによると、仕組みはこうだ。サイトを立ち上げて、グーグルの広告配信サービスAdSenseに登録する。訪問者が広告をクリックするごとに報酬が得られ、指定した銀行口座に振り込まれる。フェイスブックなどにサイトのページを作り、記事のシェア数を増やせばサイトへのアクセスを膨らませられる。

コピーしたり、捏造したり…

 ニコラは片言の英語しか話さない。毎日4、5時間ネットを検索し、グーグルの翻訳機能を使って既存メディアや偽ニュースのサイトの記事を読みあさった。真偽も分からぬまま、受けそうなものをコピーしたり、自分で捏造した文章を翻訳機で英語にしたりして、毎日10本程度をサイトに貼り付けた。

「ヒラリー・クリントン、大統領選から脱落、重病が発覚」

「ビル・クリントン元大統領はむかし、麻薬の売人だった」

 自分でつくったこんなでっち上げへのアクセスは数万に達した。「トランプは同性愛者」といった偽ニュースも発信してみたが、トランプに肩入れした記事の方が断然アクセス数を稼げたという。

あわせて読みたい

「フェイクニュース」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    毎日が40億円超減資で中小企業に

    岸慶太

  2. 2

    嬢告白 おっぱいクラスターの今

    文春オンライン

  3. 3

    全米ライフル協会 なぜ破産申請?

    SmartFLASH

  4. 4

    菅首相「あとは実行あるのみ」

    菅義偉

  5. 5

    真面目ゆえ命落とすナチス収容所

    紙屋高雪

  6. 6

    清田コロナ不倫 球界も冷たい目

    WEDGE Infinity

  7. 7

    自民党内で菅政権を見限る動き

    NEWSポストセブン

  8. 8

    鼻出しマスク失格は明らかに不当

    青山まさゆき

  9. 9

    海外の超富裕層が集まるニセコ

    fujipon

  10. 10

    キャバが時短無視する本当の理由

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。