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「菅カラー」が随所に…“守り”と“攻め”の73兆円、政府の新たな経済対策に秘めた狙い

 政府は事業規模73.6兆円の新たな経済対策を閣議決定した。新型コロナウイルスの「第3波」の中にあって、医療機関の支援や「GoToトラベル」の賛否に注目が集まるが、果たして経済政策に秘めた政権の狙いはどこにあるのか。(テレビ朝日経済部・梶川幸司)

・【映像】「守り」と「攻め」...菅政権初の経済対策、梶川記者に聞く

■中身も規模も「菅カラー」が随所に

 「基金なんてどんぶりだよ。国会で管理もされない。国の特殊法人を1つか2つ作ったような感じだよね」。財務省の幹部がこう指摘したのは、菅総理肝いりの「グリーン」にまつわる基金についてです。

 臨時国会の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」と表明した菅総理ですが、4日の記者会見では、脱炭素化への取り組みに2兆円の基金を創設するとぶち上げ、経済対策にも金額が明記されました。次世代の蓄電池の開発や水素社会の実現など、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間継続して支援すると。グリーン社会の実現こそが成長戦略の要というわけです。

 かつて、日本は環境分野で世界のフロントランナーでした。それが、いつしか温暖化対策に消極的な国とみられるようになり、環境分野の産業競争力でも米国、欧州、中国の後塵を拝するようになりました。このままではいけない、将来の成長分野に打って出る。その方向性に反対する人はいないでしょう。

 しかし、それにしても2兆円という巨額の基金です。

 基金はある目的のために複数年にわたっておカネを積むもので、単年度の予算と比べて、毎年の国会の議決を経ずに使うことができます。使い勝手が良い反面、チェックが甘くなったり、使い切れなくなって無駄に終わってしまうという弊害も指摘されています。そして、肝心の技術や将来性を見極めるのは、経済産業省の外郭団体。目利きの力量が問われます。基金の規模が大きければ、政権の意気込みを示すことができますが、一方で、規模ありきとの批判も招きそうです。

 この基金をめぐっては、必要な額だけを計上したい財務省の主計局が抵抗したものの、結果的には2兆円となった経緯があります。「局長レベルまで総理から直接指示が来る。官僚はみんな菅さんを見ていますよ」。財務省の幹部は、予算における官邸主導は安倍前政権よりも強まったのではないかと言います。

 菅総理が就任して初となる経済対策。経済対策には財源の裏付けが必要なので、同時に予算の規模も決まります。日本にコロナが襲来してから第3弾となる経済対策には、中身も規模も「菅カラー」が随所ににじみ出ていると言わざるを得ません。

■「第3波」をいかに抑え込むかがカギ?

 さて、今回の経済対策では、雇用調整助成金の特例措置の2月末までの延長、GoToキャンペーンの6月末までの延長、日本政策金融公庫による無利子無担保融資は当面来年前半まで継続、といった具合に、重要政策で「延長」「継続」の字句が散見されます。

 これは「続ける」というよりも、「区切りをつける」ことに重点を置いたように思えてなりません。コロナの緊急対応から抜け出して、次のステージへと早く舵を切りたいという政権の強い意志を感じるからです。

 コロナが収束しても、私たちの社会や暮らしがコロナ以前にそのまま戻ることはない、多くの人がそう感じ取っているはずです。満員電車はもうこりごりですし、テレワークもオンライン会議もやってみたら意外に便利でした。飛行機や新幹線を使って出張する必要も、以前ほどはないかもしれません。人の移動や働き方が根本から変わることで、変化は一時的なものでは済まなくなり、事業が成り立たなくなる業種や業態が出てくることは避けられないでしょう。

 経済対策の中では、雇用の7割を生み出す中小企業について、「淘汰を目的とするものではないことは当然」と断った上で、業態を変えようと挑戦する企業に最大1億円を出す「事業再構築補助金」の創設など、補助金や税制で「変化」を促そうとしています。財政も厳しくなる中、守りから攻めへと早く踏ん切りをつけたい、というのが政権の本音だと思います。

 しかし、業態の変更に挑戦できるほどの中小企業がどれだけあるのか。さらに現在、日本を覆う「第3波」が収束しなければ、意欲ある中小企業の体力を奪い、結果として「守り」の政策をいつまでも続けることになりかねません。

 政権が描く未来へと舵を切れるかどうかは、やはり「第3波」をいかに抑え込むかにかかっているのではないでしょうか。そのために「GoToキャンペーン」がどうあるべきか、国は専門家の意見を真摯に受け止め、国民の不安にも思いを馳せながら、的確な判断を示してもらいたいものです。

 そして、3次にわたる補正予算の編成で、国債の発行は今年度100兆円を越えようとしています。この先の日本の財政が持続可能であり続けるのか。「国民の命と暮らしを守る 安心と希望のため」と銘打った経済対策。財務省では連日深夜まで、3次補正と本予算の編成作業が同時並行で進んでいます。

■梶川 幸司(かじかわ ・こうじ)
テレビ朝日経済部記者。入社以来、政治部と経済部を経て、報道ステーションの政治・経済担当ニュースデスクとして、長年、番組制作に関わる。43歳。

▶映像:「守り」と「攻め」...菅政権初の経済対策、梶川記者に聞く

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