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嗜好の多様化に対応した海外旅行のパラダイムシフトが未来を開く!~十年後、海外旅行はどうなっているだろうか?(後編)

若者の海外旅行離れという現状を踏まえながら、十年後の海外旅行について考えている。現在、30~50代の成人層は子ども時代、メディアによって海外ルサンチマン=海外への憧憬を醸成され、それが80年代後半、プラザ合意によって円高が進行することで一気に爆発。結果として海外旅行バブルが生まれたことを前回は確認した。

しかし、現在、若者の海外旅行離れは著しい。年齢別海外旅行者数比率は20代が21.9(2001年)→16.5 (2011年) と25%減少。それでも海外旅行者数が1611万人→1699万人と微増なのは、国際化に伴うビジネス用途による海外出張と、30代以上の「海外憧憬ルサンチマン組」がこの数を牽引しているからと考えていいだろう。

しかし、なぜ若者の海外旅行離れが進んだのだろう?

海外旅行は、もはやあまたあるレジャーの一つでしかない

これにはいくつかの理由が考えられる。

一つは若者における嗜好の多様化だ。現在の30代以上に比べると若者の趣味は実に多彩になっている。たとえばこれは彼/彼女たちの聴く音楽を見てみるとよくわかる。50代だったらビートルズ、40代ならニューミュージックやカーペンターズ、クイーン、ヘヴィメタル、ユーミン、サザン、中島みゆき、30代ならミスチルやドリカム、浜崎あゆみといったかたちで、世代的に聴く音楽にある程度まとまりがある。ところが20代の若者たちが所有するiPod(そしてスマホ)の中に取りこまれている曲のラインナップはバラバラだ。趣味のジャンルが多彩、さらに一つの趣味の中でも嗜好は多様になったのだ。そして、こういった様々な嗜好の中の一つとして海外旅行も位置づけられるようになっている。

また、海外旅行意識についての相対化といった側面もある。前回示したように、30代以上は海外憧憬ルサンチマンがある。この想いがある世代は、海外旅行に出かけることに大きな意味を見いだしていた。80年代~90年代、海外に出かけることは他者との差異化という側面があった。つまり、海外に出かけてくると、ちょっと自慢が出来、自分はイケてると感じられたのだ。これはパックツアーでもバックパッキングでも同じ。前者ならたとえば何カ国を訪れたのか、後者ならばそれに加えてどれだけレアな国を訪れたのかが差異化の指標となった(前編でも指摘したが、バックパッキングでインドに行ったことを就活の面接で披露すればアドバンテージになるなんてこともあったのだ)。

だが20代には先行性代のような海外への憬れ=海外コンプレックスはない。気がつけば海外の映像はあちこちにあり、かつてなら海外でしか見ることの出来なかった風景、たとえばファーストフードやコンビニなんて環境が生まれたときからあたりまえのようにあった。そして、海外の食べ物だってそのへんに行けばどこにでもある。だから彼/彼女たちにとって海外とは「たかが外国」でしかない。また、行ったところで自慢出来るような代物でもない(もはや、海外へ出かけている人間は国内には山ほどいる)。

こうなると、彼/彼女たちにとって海外はデメリットの方が顕著になるという側面すら現れる。言葉が通じない、時差がある、食べ物が合わない。だったら、そんなところへ行くのは面倒だ。旅行なんて国内で十分だ。安上がりで、お手軽だし。そう、彼/彼女たちにとって海外というのは先行世代とは違って、すっかりメッキの剥げた存在なのだ。

十年後の海外旅行、世代別シミュレーション

それならば、これからの海外旅行はどうなるだろうか?

先ず、20代。これはおそらく30代と同様、あるいはそれ以上に海外に対する意識を相対化させている可能性が高い。嗜好の多様化、相対化がいっそうの進展を見せると想定されるからだ。それゆえ海外旅行はさらに馬群に沈み、そのパーセンテージをいっそう減少させるだろう。次に30代。コーホート的に考えれば十年後の30代は現代の20代だから、前述したような「ルサンチマン無し+海外相対化」の感覚を備えている世代が引きあがっただけだ。だが、これは微増するだろう。男性が企業戦士となって海外に出張したり赴任したりするようになるからだ(つまり「旅行=ツアー」と言うより「渡航」)。その一方で、女性は子育てで減少することになるが。

海外旅行を牽引するのは40代以上だ。だがその旅行スタイルは現在のそれを踏襲しつつも、若干の変化を見せることになる。具体的には、パックツアーの減少とバックパッキングの激減が、考えられる。代わって増加するのがスケルトンツアーだ。これは航空券+ホテルだけ(あるいは空港とホテルの送迎がつく)の「中抜きパックツアー」のこと。 もうあっちこっち行ったので自分で歩き回ることが出来る。 だから、パックツアーは、もはやお仕着せがましい存在。でも、バックパッキングはちょっと手間暇かかりすぎ。短い時間で自由に回るなら、このスタイルがピッタリというわけだ(価格も安い)。実はスケルトンツアースタイルをチョイスする中高年層は、もはやかなりの割合に達している。

80年代後半以降の海外旅行の盛り上がり以降、こういったスケルトンツアーに焦点を当てた事業展開をした企業が成功したことは、このことを傍証する。一つは旅行会社のエイチ・アイ・エス。スケルトンツアーに特化した戦略を徹底的に推進したことで、個人ツアー客ではもはやトップ企業に君臨するようになった。でも、ここは元はといえばバックパッカー相手にアジア向け(とりわけインド)の格安航空券を販売する零細企業だったのだ(僕はバックパッカーだったのでよく利用していた)。旅行ガイドの『地球の歩き方』(ダイヤモンドビッグ社)も同様だ。シリーズを出版しはじめた頃(80年前後)、このガイドブックはゲストハウスを中心に宿泊施設を紹介するような、典型的なバックパッカー向けメディアだった。だが80年代後半、編集方針を変更。読者層を広げ、豪華ホテルまで紹介するようになったことで国内最大の発行部数を誇るガイドになった。この二つは、まさにパックツアー、バックパッキング卒業生の30代以上に焦点を当てることで成功を遂げているのだ。ちなみに、最近ではこういったスケルトンツアーの需要に応えてインターネット上に格安ホテル予約サイト(アゴダ、エクスペディアなど)、格安航空券比較サイト(skyscannerなど)が登場している。航空会社自らが格安航空券とホテルのセットをネットで販売するようにもなっている。

50代、60代はどうだろう。これは海外旅行憧憬ルサンチマン派。でもパックツアーはもう、かなりやっている。それでも旅行業界としては、この層は実にオイシイカネづるになるだろう。50過ぎともなると可処分所得が増大、しかも子育ても終わっているので時間的余裕もある。しかしスケルトンツアーをやるようなスキルはない(バックパッキングなんてのはもちろんムリ)。そこで、この層には豪華なパックツアーを用意する。すると豪快にカネを巻き上げることが出来るのだ。すでに十年ほど前、50代の女性仲間での海外旅行が注目を浴び、この世代の女性にマーケティングのターゲットが向けられている。その名も「団塊ギャル」。そして、より豪華で、よりレアな旅みたいなものが用意されはじめたのだ。たぶん十年後には今以上に「海外クルーズ」「南極ツアー」みたいなものが企画され、この世代が食指を伸ばしていくだろう。

世代別の十年後を見てきたが、こうしてみるとおそらく十年後の海外旅行者数は現状維持か微減ということになるのではなかろうか。構造的には明らかに「先すぼみ」。とりわけツアー客は減少する。ただし、それをビジネス客が補うというかたちになるだろう。じゃあ、海外旅行者の数を増やすためにはどうしたらよいだろう。それはもちろん若年層の顧客の掘り起こしということになるのだけれど……。実はその手法、僕はあると考えている。ポイントは「パックツアー以外の海外旅行を提供すること」だ。ただし、それは今僕らが一般的に考えている海外旅行とは一線を画するものになるのだけれど。

嗜好の多様化に対応する

今回の議論の前提として若年層の海外旅行離れを指摘しておいた。そしてその理由が嗜好の多様化にあるとも指摘しておいた。だったら、その「嗜好の多様化に適った海外旅行スタイル」を提供すれば、海外旅行者の数は増加するということになる。じゃあ、いったいどんなやり方があるだろう。

その糸口となるのが目的別旅行だ。古くは海外留学だが、今や留学は減少傾向にある。というのも、かつての海外旅行(ツアー)はパックツアー、バックパッキング、そして留学くらいしか選択肢がなかったためだ。しかし海外に出かける理由はもはやこれだけに限定されない。つまり留学もまた多様化の中の一つと位置づけられたのだ。しかし、こういった先ず「目的」があり、その「手段」として海外という空間が設定されれば、それは嗜好の多様化に合わせた分だけの海外旅行手段が出現することになる。

もはや始まっている例をあげてみよう。まず「お買い物ツアー」。今はまだ、海外旅行に行ったら定番のおみやげを購入するだけなのが大多数だが、買い物それ自体を目的化し、日本では購入出来ないグッズを求めて海外へ出かけるというパターンが出現している。次に「エステ・ツアー」や「ダイビングツアー」。これはアジアのリゾートが力を入れているもの。魅力は格安でこれらが体験できるところ。さらに短期の集中的な語学研修というのもある。メッカはフィリピン。二週間程度の期間、マンツーマンで英語漬けになるのだけれど、これを旅費、宿泊費、授業料全部あわせても20万円以下で可能にしているのだ。これなどは、明らかに「語学が手頃にバッチリやれるのなら、どこでもいい」という感覚だ。

海外旅行のパラダイムシフトを

こういった目的と手段の逆転、つまり海外に行きたいから何か理由をつける、あるいは海外へ行くことそれ自体が目的ということから、やりたいことがあり、それを実現する場所がたまたま海外というふうに海外旅行を位置づければ、実に様々な旅のスタイルが考えられるはずだ。それは、まさに嗜好の多様化に適合した海外旅行のチョイスということになる。

海外のイメージがこれまで以上に相対化していくことが予想される十年後、海外旅行はこんなかたちで再定義されるのではないだろうか。僕のこういった予測が現実のものとなるならば、日本人は日本VS海外という違いを意識することなく海外旅行をチョイスするようになるだろう。そして、こんなふうに海外で自らの自己実現を果たすようになったとき、初めて本格的な国際化感覚が日本人に生まれてくるのではなかろうか。

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