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連日20時間勤務で退職者急増…「このままでは崩壊する」元官僚が明かす“ブラック霞が関”の実態 『ブラック霞が関』千正康裕氏インタビュー - 近藤 奈香

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「07:00 仕事開始 27:20 退庁」。そんな強烈な帯文が目に飛び込んでくる書籍が発売された。タイトルは『ブラック霞が関』(新潮新書)。著者は2019年9月まで、厚生労働省でキャリア官僚として勤務していた千正康裕氏だ。同書の中で千正氏は、勤務時間が20時間以上にも及ぶその働き方を、「忙しい部署の若手のよくある1日」と紹介している。

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 こうした長時間労働が常態化した霞が関では、心身の不調を訴えたり、退職していく職員が増え続けているという。「このままでは霞が関は崩壊する」と語る千正氏に、いま官僚たちの世界で何が起きているのかを聞いた。


千正康裕氏 ©末永裕樹/文藝春秋

◆◆◆

霞が関が「おかしい」とは思っていなかった

――霞が関で働き始めて、最初に「この働き方はおかしいな」と感じたのはいつ頃のことでしたか。

千正 実は入省してからずっと、そこまでおかしいとは思っていませんでした。というのも、僕が入省したのは20年ほど前(2001年)で、その頃は民間企業もブラックなところが多かったんです。霞が関も異常でしたけど、民間企業に就職した同級生たちも夜遅くまで働いていたし、土日や休日に出勤するのも当たり前でした。だから、それほど気にしてはいなくて……危機感を持ちはじめたのは、この2年くらいですね。

――そこで何が変わったんでしょうか。

千正 数年前から、退職する若手が増えているというのは話題になっていました。ただ、それだけでは「すぐに組織が崩壊する」という感じではなかったんです。でも、バリバリ働いていた中心選手の管理職や中堅の課長補佐の中にも、倒れる人、家庭を壊しそうになる人、離職する人が相次いで出てきました。

 いまは官僚の家庭も共働きがほとんどなので、男性職員も家庭での責任があります。小さい子供がいるのに徹夜で働いて朝に帰る、みたいな生活をしていると、相手にワンオペを強いることになるわけですよ。で、フラフラになって家に帰ると夫婦で喧嘩になる。そうすると、もう何のために働いているんだろう……と。

雑談をする暇もなくなった

――以前と比べて、職場の雰囲気も変わってきていますか。

千正 すごく静かになりましたね。雑談をする暇もなくなったので。僕が入った頃は、上に行けば行くほど暇だったんですよ。管理職はみんな本とか読んでいるし、局長みたいな個室にいる偉い人たちは、テレビで国会中継を見ている。そんな感じだから、若い人も上の人に相談がしやすかったんです。

でも今は、上から下までみんな余裕がなくてあたふたしているから、「こんな忙しい人の手を止めていいのか」と思ってしまいます。仕事上の最低限の話はできても、「ちょっとこういうことで悩んでいるんです」とか、「この政策についてどう思いますか」とか、そういう会話は全然できなくなっている。若い人にとっては、困っても相談できる人がいない状態で、辛いという声もよく聞きます。

――退職していく人が増えているのは、やはり仕事量の多さが一番の要因なのでしょうか。

千正 退職する理由は二つでしょうね。ブラックだということと、やりがいを喪失しているということです。大学の同級生が就職した大企業などと比べて給料が安いから辞める、という人はあまりいないです。サービス残業の問題は解消すべきですが、もともと公務員の給料がどれくらいなのかはわかって入ってきているので、過酷な労働とやりがいの方が問題です。

働き方をブラックにさせた「官邸主導」

――なぜ「やりがいの喪失」が生じているのでしょうか。

千正 役人になる人は、やっぱり社会のために、みんなのために働きたい、と思って入ってきています。でも最近は「やらされ仕事」が増えていて。

――やらされ仕事?

千正 「官邸主導」は、政策が早く大きく動くようになったので、それ自体は良いことだと思っています。でもその影響で、誰かが決めた話が突然降ってきて、「とにかくこれを急いでやりなさい」と指示される仕事が増えています。もともと官僚は、実態を理解した上で、自分たちで政策の種となる課題を見つけてきたりして、「こういうふうに変えたら世の中が良くなるんじゃないか」と提案していく仕事です。僕もそうやって法律などを作ってきましたが、今はそうした「自分たちで解決策を考えられる仕事」がどんどん減ってきているんです。

 それは、働き方がブラックになっている要因でもあります。かつての“官僚”主導の時代は、自分たちが物事の決定に対して実質的な影響力を持っていたので、マンパワーなどを考慮して、霞が関の仕事がちゃんと回って、現場のオペレーションがちゃんと回って、その上で生活者に届くスケジュールで工期を設定することができました。自分たちが疲弊するような意思決定は、そもそもしなかったんです。

「早くやれ、早く配れ」

千正 でも、最近はスケジュールさえ自分たちで決められないことが増えている。たとえば今年、国民一人あたり10万円の特別定額給付金や、布マスクの全世帯への支給が決まりましたが、公務員が必死になってがんばっても、届くまで時間がかかりましたよね。

――「今すぐ欲しいのに届かない」との声も多くありました。

千正 これらも官邸主導の政策です。ただ、政策というのは意思決定して終わりではなくて、給付金やマスクを配ると決めたなら、誰がどんな仕事をして配るか、給付金であればそもそもどのように申請してもらうかなど、間に入るいろいろな仕事のことを考えなくてはいけない。官僚は、そうした実務に詳しいんです。

 ところが、世の中の期待や政権の支持率だけを優先すると、間の仕事のことは考えず、とにかく早くやれ、早く配れという話になる。そのプレッシャーのなかで、かなり無理なこともいっぱいあったと思います。以前からこうした政治状況の中、実務を無視したスケジュールでいろいろな意思決定がなされるということが、官僚や現場の公務員を疲弊させてきました。それがコロナによって本当に色濃くなったという印象です。

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