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西浦教授の「指数関数的拡大」とは何か?

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 先週末に、「新規陽性者数:本当に「指数関数的」拡大なのか?」という文章を書いた。http://agora-web.jp/archives/2049119.html 新著『新型コロナからいのちを守れ!』という題名の自著の出版の機会に、西浦博教授が「報道各社のインタビューに応じ『都市部で感染者が指数関数的に増加している』と述べ」たことを受けたものだった。https://www.tokyo-np.co.jp/article/70490/

 果たしてこれは正当化される発言だろうか。対談集『不安を煽る人たち』を出版したばかりの私としては、非常に気になるところである。https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8D%E5%AE%89%E3%82%92%E7%85%BD%E3%82%8A%E3%81%9F%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%9F%E3%81%A1-WAC-BUNKO-330-%E4%B8%8A%E5%BF%B5/dp/4898318304/ref=tmm_pap_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=1607145806&sr=1-1 

 私は、「第1波」の際には、「西浦モデルの検証」と題した文章をシリーズで13回書いた。「第2波」の際には、「日本モデル vs. 西浦モデル2.0の正念場」と題した文章をシリーズで8回書いた。http://agora-web.jp/archives/author/hideakishinoda その私としては、「第3波」に対する西浦教授の発言には、関心を持たざるを得ない。

 先週末、私は、果たして西浦教授のように言えるか疑問だ、という趣旨のことを書いた。感染拡大のスピードは、11月12日頃にピークを迎えてから鈍化傾向に入っている、と言わざるを得ないと感じていたからだ。全国、東京、大阪の指標のいずれも、新規陽性者の拡大は11月下旬になって横ばい状態であるように見えたからだ。

篠田 英朗

篠田 英朗

篠田 英朗

 ちなみに11月下旬の連休の影響があれば、12月第1週前後に新規陽性者数に変化が見られることになる。確かに、この一週間では、実際に、鈍化傾向が鈍る様子、つまり少し増加率が高めに戻る様子が観察された。しかしそれは必ずしも大きな動きにはつながらず、再び鈍化傾向に戻り始めているように見える。

 実は「第2波」の際にも、続いていた拡大スピードの鈍化が、7月下旬の連休の一週間後には少しだけ跳ね上がりを見せた時期があった。その連休の影響が見られた後の8月2週目頃から、新規陽性者数は顕著に減少を開始した。

 このような動きを、「指数関数的拡大」、と呼ぶのは、いささか困難であるように思われる。もっとも指数関数的拡大の意味は、意外にも、可変的である。たとえばグラフの横軸の単位を1年とか10年にした場合、現時点でのデータでは何も判断できなくなる。

 あるいは「昨日から今日にかけての二日間だけについては指数関数的拡大が見られる」と言うとき、実質的な意味はほとんど何もないが、もし今日の新規陽性者数が、昨日の新規陽性者数の乗数であったら、必ずしも間違いではない。

 押谷仁・東北大学教授は、4月に西浦教授が報道陣を集めて「42万人死ぬ」をやったときのことを述懐して、次のように述べている。

―――――――

尾身先生から、西浦さんが試算を公表する可能性があると聞いたのは前夜。当日朝電話したが西浦さんは出ず、僕は新橋のスクリーンであの推計値が発表されたのを見ました。試算の公表には反対でした。・・・ああいうモデルは被害想定を大きくしようと思えば、どこまでも大きく出せる。この感染症の実態にいまの数理モデルは合わないと思います。

――――――――――

 押谷教授は、過大な試算を強調することの危険性について、指摘する。

――――――――――――

あまりに現実とかけ離れた数字を出すと、そんなに死亡者が出るなら細々とした対策など意味がないのではないかと、人々が逆に対策をあきらめる方向に動く危険性があるのです。https://www.dailyshincho.jp/article/2020/07090602/

―――――――――――――

 私は繰り返し押谷教授を「国民の英雄」と呼び、その貢献を称賛し続けている。私は、押谷教授の考え方が正しいと思う。煽るだけ煽り、怖がらせるだけ怖がらせることが「専門家」の役割である、とは言えない。少なくとも長期戦である新型コロナへの対策として適切とは思えない。

 被害がコントロール不能なレベルに達しているという認識が広がりすぎると、人々は地道な努力を放棄し、「全ては政府の責任だ!テレビのワイドショーにしたがえ!さぼってないで早くウイルスを撲滅しろ!」という「煽り」言説に留飲を下げることしかしなくなってしまう。国民の行動変容が絶対不可欠な感染症対策を長期にわたって続けていくことは、不可能になる。

 日本は現在でもまだ、強制力を伴う感染症対策を可能にする法整備を充実させていない。国民の現実的な状況認識が極めて重要だ。国民意識がついてこなければ、対策の効果は出ない。

 政府が「何か」をしてウイルスを撲滅するべきだとする左派勢力と、対策は不要だという右派勢力に社会が分裂してしまえば、4月のような緊急事態宣言に踏み切っても同じ効果は出ないだろう。

 西浦教授には、印象論で語っているかのように聞こえてしまう描写や予測を控え、もっと専門家らしく客観的な現状の分析をすることを心掛けてほしい。たとえば、「指数関数的拡大」が起こっていると主張するのであれば、それはいかなる意味でそうなのか、きちんと説明するべきだ。

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