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【読書感想】ベートーヴェンと日本人

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ベートーヴェンと日本人 (新潮新書)
作者:浦久 俊彦
発売日: 2020/11/18
メディア: 新書

Kindle版もあります。

ベートーヴェンと日本人(新潮新書)
作者:浦久俊彦
発売日: 2020/11/18
メディア: Kindle版

内容(「BOOK」データベースより)
幕末から明治にかけての日本人には「耳障り」だったクラシック音楽は、「軍事制度」の一環として社会に浸透し、ドイツ教養主義の風潮とともに「文化」として根付いていった。そして日本は、ベートーヴェンが「楽聖」となり、世界のどこよりも「第九」が演奏される国となっていく―。明治・大正のクラシック音楽受容の進展を描きながら、西欧文明と出会った日本の「文化的変容」を描き出す。

 「ベートーヴェン」、とくに、『運命』や『合唱』といえば、まさに日本中の人が一度は聞いたことがあると思います。というか、一度どころじゃないよね。
 2020年は、ベートーヴェンの生誕250年ということで、さまざまな「ベートーヴェンに関する本」が出版されています。もし、新型コロナ禍がなければ、記念コンサートもたくさん行われたはず。
 
 著者は、「この本はこれまで日本語で書かれてきた数多くのベートーヴェンの伝記や研究書とは少し視点が異なる。かの楽聖ベートーヴェン本人については、たったの一言もふれていないことだ」と「はじめに」で述べています。

 明治七年(1770)に遠く海を隔てたドイツに生まれ、文政十年(1827)にウィーンで没したひとりの音楽家が、二世紀というはるかな時と空間を隔てて、なぜ日本の「楽聖」にまで登りつめたのか? 未知だったはずの異国の音楽が、なぜ極東の島国の人々の心をつかみ、感動を与え続けているのか?

 不思議である。なぜ、ベートーヴェンでなければならなかったのだろうか?

 この本でぼくは「ベートーヴェンとは誰か」を書こうとしたのではない。ベートーヴェンは、どのようにして日本人にとって「あたりまえ」の存在になったのか?「あたりまえ」でないことが、「あたりまえ」になっていく過程に想いを巡らせてみたいと思ったのだ。

 ところが、少し書きはじめると、これはとてつもないことだとわかってきた。そのような「あたりまえ」は、ぼくたちの生活文化、習慣、常識、言語など、あらゆるところに転がっているからだ。

 思えば、ベートーヴェンと日本には、直接の「接点」はないのです。
 にもかかわらず、2020年の日本では、ベートーヴェンは「もっとも知られている音楽家のひとり」になっています。

 ベートーヴェンの「伝記」ではなく、クラシック音楽とは全く無縁の音楽の文化をつくっていた日本人が、どのようにしてベートーヴェンを知り、崇め奉るようになったのか?

 今の世の中を生きている僕にとっては、日本人がクラシック音楽を学び、ショパン・コンクールで上位入賞することに違和感はないけれど、明治時代に西洋の音楽に最初に接した日本人にとっては、「何これ?」というのが率直な感想だったのです。

 明治初期にオペラにふれた日本人の反応も、恐れをなして近寄らないか、笑いをこらえるのに必死になるか、というものだったようだ。

 まずは、明治八年(1875)。マリア・パルミエリという元ミラノ・スカラ座のプリマドンナが来日して宮中で御前演奏をしたときのエピソードだ。この御前演奏に陪席するはずの政府高官たちは、西欧音楽という得体の知れぬものに恐れをなして大部分が欠席し、がらんとした会場にネズミが駆け回ったという風刺画が当時の漫画雑誌『ジャパン・パンチ』に掲載されている。

 次に、明治十二年(1879)。来日したヴァーノン歌劇団のオペラ公演を観賞した日本人観客たちの反応を、当時の外国人向け新聞ジャパン・ウィークリー・メイル紙は「日本人大衆の観賞心は西欧の聴衆と全く正反対である。(略)プリマドンナの最も感動的な音符のところでは、ドッと大きな笑いが起こる」と書いている。この公演はさんざんの悪評で不入り。早々に打ち切られたという。オペラ歌手の高音の発声が、当時の日本人観衆には「まるで鶏の首を絞めたように」聴こえたというのが、爆笑を巻き起こした理由だともいわれている。

 演奏するほうも、やりにくかっただろうなあ。
 当時の日本人にとっては、これが率直な反応だったのです。

 芸術は国境を越える、とは言うけれど、実際は、日本人がクラシック音楽に慣れ、受け入れられるようになるまでには、かなりの時間がかかっています。
 
 今の時代を生きている人間は、「クラシック音楽を、素晴らしい芸術だと教えられて生きてきたけれど、明治時代の日本人にとっては、オペラ歌手は「鶏の首を絞めたような声」だった。
 そこから、多くの音楽家が、日本人に西洋音楽が受け入れられるための地道な努力を続けた末に、いまの「音楽」がある。

 そういう事実や受け入れられるまでの過程が丁寧になぞられることって、ほとんどないですよね。
 逆に言えば、ほとんどの異文化というのは、こんなふうに、最初は拒絶されたり、笑われたりしていたのです。
 そういう「あたりまえのこと」が、すごく丁寧に書かれている本なんですよ、これ。

 では、数多の音楽家がいるなかで、なぜ、ベートーヴェンだけが、日本人にとって特別な存在になったのか?

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