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アングル:タイで広がる反政府運動、軍・警察内部に共感も


Chayut Setboonsarng and Matthew Tostevin

[バンコク 2日 ロイター] - 7月、数千人のタイ国民が2014年の軍事クーデター以降で最大規模の街頭抗議行動に繰り出して政府の退陣を要求したとき、陸軍軍曹だったエッカチャイ・ワングカファンさんは抗議参加者の側についた。

抗議行動の1週間前、収監された活動家に関するニュース記事について、エッカチャイさんはフェイスブックに「独裁政権を倒せ」と書いた。抗議に参加した7月18日、彼は抗議グループ「フリーユース(Free Youth)」のハッシュタグを添えて、ライブストリーミング映像と写真をシェアした。数週間後、彼は「真実を語ると投獄される国」というプラカードを掲げる抗議参加者の写真をシェアした。

軍の上官は、彼にそうした投稿を止めるよう警告した。だがエッカチャイさんはすでに辞職を決意しており、10月に軍を離れた。

33歳のエッカチャイさんはロイターの取材に対し、「抗議行動が盛り上がっていくと、ソーシャルメディアへの投稿を禁止する命令が頻繁に出されるようになった」と語る。「彼らは早めに抗議行動を潰したがっているが、それは不可能だ」

<抗議活動、SNSで広がる>

タイでプラユット・チャンオチャ首相とワチラロンコン国王による君主制に反対する抗議行動が何カ月も続く中、ソーシャルメディアでは、一部の兵士、警察官、公務員のあいだに不満が広がっている様子が明らかになっている。過去に政治不安が生じたときも、タイ国軍の兵士が抗議参加者に対する共感を表わす例が時折見られたが、ソーシャルメディアの急速な拡大によって、そうした動きを封じ込めることは困難になっている。

ロイターが、兵士や警察官の利用するソーシャルメディアやチャットグループの投稿・メッセージを多数閲覧したところ、多くが抗議参加者への共感、政府に異議を申し立てる人々への対処についての怒りや不安を表明していた。なかには、タイの体制に対する自らの忠誠について触れている投稿もあった。

ソーシャルメディアでの動きだけで兵士らの離反がどこまで進んでいるかを確認することは不可能である。とはいえ、こうした投稿には当局も神経を尖らせるようになっている。

軍副広報官のシリジャン・ヌガトング大佐は、「社会不安につながりかねない誤解や挑発を生む内容を投稿するならば、それは不適切だ」と述べ、軍紀違反を予防するため、指揮官らは兵士によるソーシャルメディアでの活動を検証していると付け加えた。

エッカチャイさんの件について、また7月に抗議行動が激化して以来、軍内部での調査が拡大されたか否かについては、ヌガトング大佐はコメントを控えた。

<取り締まり強化に動く軍>

一部の投稿は、拡散力の高い動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」によるものだ。すでに削除されているが、TikTokに投稿された動画には、3本指を立てる合図をする兵士が映っていた。映画『ハンガー・ゲーム』に登場する仕草で、タイにおける学生主導の反政府抗議行動のなかで使われるようになった。「戦い続けよう、タイの兄弟姉妹たちよ」という字幕が添えられていた。

動画の投稿者はロイターに対し、自分は現役の職業軍人であると述べたが、記事では匿名とするよう希望している。

軍の一部では、取締りを強化している。ある砲兵連隊の将校たちが利用している非公開のチャットグループをロイターが閲覧したところ、連隊所属の兵士が抗議行動に参加したり、ソーシャルメディア上で政治的見解を表明することを禁止していた。

メッセージでは、「不適切な政治的見解が発見された場合、指揮官は適切な検討・是正を行い、部隊に政治状況を正しく説明することが求められる」とされている。

このメッセージについて軍に問い合わせたが、回答は得られなかった。

兵士らの離反が抗議行動や政府の対応に影響を与えているかどうかは不明である。

タイ北部のナレスアン大学で政治学を専門としているポール・チェンバース氏は、「軍のなかに若干の離反がある一方で、相当の勢力を構築するほど大きな不満が溜っているわけではない」と語る。

治安部隊の隊員や公務員に政府からの離反が見られるかという点について、政府のアヌチャ・ブラパチャイスリ報道官はコメントを控えており、「我が国は異なる見解を持つ者どうしの対話に力を注ぐべきである」とだけ述べている。

<タブーに挑む抗議のうねり>

7月以降、何万人もの人々が路上に出て抗議行動に参加し、新憲法の制定と、2014年の軍事クーデターの首謀者だったプラユット首相の退陣を求めている。また抗議参加者は、国王の権限を制限することを求めている。君主制に対する批判が犯罪とされるタイでは、最近までこうした主題はタブー視されていた。

タイでは軍が重要な役割を担っており、1932年に絶対王政が倒れて以来、3分の2以上の時期は現役軍人・軍出身者に統治されていた。1932年以来、タイ国軍は13回にわたって権力を奪取しており、1973年、1976年、1992年、2010年など、複数回にわたって抗議参加者に対する流血の弾圧に関与している。

クーデターの多くは軍内部で広く支持されていたが、過去には軍内部の亀裂が露呈したこともある。2010年、バンコクで「赤シャツ隊」と呼ばれる反政府抗議行動に対する流血の弾圧が行われた際には、緑の制服を着た兵士たちの一部が抗議参加者に共感し、軍による弾圧作戦の情報を事前に抗議グループのリーダーに流していた。彼らは「スイカ」と呼ばれた。外側は緑だが、内側は赤(シャツ隊)への共感がある、という意味だ。

同じ年、「赤い指揮官」として知られる反主流派のカティヤ・サワディポン少将が、反政府抗議行動への支持を表明した後で暗殺され、タイ国軍内で忠誠を拒否することの危うさを明らかにした。

「治安部隊、それも抗議参加者に直接向き合う者たちは、ストレスの大きい立場に置かれている」と語るのは、政治分野の助言を提供するコンサルタント会社マーベリック・コンサルティング・グループのキラニー・タマパイバンウドム氏。治安部隊員は命令に従わざるをえないが、同時に抗議参加者からは「権力の犬」とレッテル貼りされる立場にある、と同氏は言う。

抗議行動のリーダーの1人であるタテップ・ルアングプラパイキツェリー氏は、治安部隊には命令に従わないよう呼びかけている、と話す。「指揮官に背を向けろ。この体制は崩れる、と」

別の兵士は、やはりソーシャルメディアに、対立を激化させるよりも緩和することを願っていると投稿した。「たぶん、上の世代が若い者の声に耳を傾けるべきときだ」と彼は言う。「プラユット退陣と憲法改正を求めることは、君主制廃止とイコールではない」

<ドレスコードは「黄色」>

タイの警察官や公務員のなかには、自らの役割に疑問を持つ者もいる。多くは、国王のパレードの際に王室を象徴する色である黄色のシャツを着て沿道に並ぶなど、王室への忠誠を公式に示す行動に参加するよう命じられた。

バンコク警察のキサナ・ファサンナチャロエン広報官(階級は大佐)はロイターの取材に対し、こうした活動は警察の職務の一環であり、法執行機関としての警察は政治的には中立だと語る。

ある警察官は、警察内のチャットグループの参加者に対して上官が王室の行事に参加するよう求めたのに対して、「これは警察の仕事なのか」と疑問を投げかけた。上官はチャットグループのなかで、自分は命令を伝達しただけであり、その疑問はもっと上層部に投げかけるべきだと応じた。

バンコク首都警察から国家機関である警察戦略室に送付された文書は、ロイターが閲覧したところ、バンコクで10月29日に行われた葬儀において、「国王の参列経路沿いに、女性警察官250人と男性警察官1950人を配置」することを要請するものだった。

「服装は黄色のシャツ、襟は黄色、黒いパンツに黒い靴」とされていた。キサナ広報官によれば、これは警察の通常業務だという。

タイ王宮警察に所属する20代後半の女性警察官は、匿名を条件にロイターの取材に応じ、「基本的には、民間人のふりをする」と語った。「黄色い服を着て、『国王陛下万歳!』と叫ぶよう命じられる」 もっとも抗議参加者によれば、警察官は髪を短く刈っているので、そういう場でも簡単に見分けがつくという。

23歳の公務員は、ワチラロンコン現国王が10代目となるチャクリー王朝の業績を称えるセミナーに出席することを命じられたと不満を漏らす。

「自分には大したことはできないから、抗議活動にカンパをした」と彼女はロイターに語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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