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焦点:米確保の人工呼吸器14万台、約半数はコロナ重篤患者救えず


[2日 ロイター] - 米政府は今年4月、約30億ドル分の人工呼吸器を非常時に備える米戦略的国家備蓄(SNS)用に発注したと発表した。新型コロナウイルス感染が西海岸と東海岸で急拡大したことに伴う措置で、深刻な呼吸器疾患から米国民を救う目的だった。

しかし、ロイターが公開の仕様書を閲覧したり医師や業界幹部らに取材した結果、4月の発表以降に米政府が調達した14万台のうち、ほぼ半数は簡易型の呼吸装置だったことが分かった。コロナ患者の主要な死因である「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」の治療に必要な最低限の要件を満たさないとされる装置だ。

ARDSの患者に気管挿管して使うタイプの集中治療室(ICU)用装置はわずか10%しかなかった。40%が短時間の使用を想定する搬送用装置だった。

米胸部専門医学会の学会誌に掲載された人工呼吸器専門家22人の9月の研究によると、国家備蓄に追加された装置の半分は、ARDSの治療に向いていなかった。

事情に詳しい関係者によると、こうした人工呼吸器の配備数や性能を詳しく分析したのは、今回のロイターによる分析が初めてだ。

ジョンズ・ホプキンズ病院(ボルティモア)のサジッド・マンズール医師によると、呼吸器の多くがARDS患者に必要な条件を満たしていない上に、こうした人工呼吸器が国家備蓄されていることが、誤った安全の意識につながる。「ARDSになると症状は極めて重くなる。こうした患者のためには、どうしてもICU用の呼吸器が必要だ」と話す。

人工呼吸器の国家備蓄を管轄する米厚生省の報道官は、省庁間の部際チームが、新型コロナの治療ニーズをぎりぎり予測するしかなかった3月に、どの機種や性能を調達するかを推奨したと説明した。

当時は新型コロナについてほとんど分かっておらず、厚生省として想定できる最悪のシナリオに基づいて準備しようとしたという。その後に連邦政府が新型コロナの臨床データを多く入手できるようになり、対応を修正したとしている。

米国では先週にコロナ新規感染者が110万人を超え、コロナ死者は26万8000人を超えている。現状で米国内に人工呼吸器供給の危機はない。ステロイド剤などの治療法が出てきて、気管挿管の需要が低下しているためだ。厚生省や簡易型の呼吸器のメーカーは、そうしたタイプでも新型コロナのそれほど急性でない症状を改善することはできるとしている。

しかし、ICU勤務経験があり、人工呼吸器使用の研究も発表している呼吸器疾患専門家の3人は、ロイターの取材に対し、連邦政府はARDS患者に対処できる人工呼吸器だけを追加調達すべきだったと語る。予算なども限られる中で、この春に重視されるべきだったのは、まさに当時供給が不足していたタイプの機器だったとしている。

米胸部専門医学会の報告の共同執筆者、マイケル・クリスティアン医師によると、集中治療室の患者の圧倒的多数が深刻な呼吸器症状である場合、患者を支えられるのは複雑な機能の人工呼吸器だ。

厚生省当局者を含む呼吸器疾患の専門家はこの10年、議会公聴会や研究発表で、インフルエンザ大流行などを想定した国家備蓄の必要を訴えていた。

新型コロナ患者は人工呼吸器に数週間つながれることがあり得るが、簡易型の呼吸器は通常は数時間程度、重篤な状態になった患者をICUに運び込む際などに使うことが想定されている。

長期間の使用に向く肺の保護機能などを備えていないことが多く、専門家によると極めて重症な新型コロナ患者を救える可能性が低くなる。

<理想的でなくとも>

新型コロナ感染が中国や欧州で拡大した今年初め、世界各国の政府は人工呼吸器の確保に奔走した。アザ-厚生長官は2月、米国の人工呼吸器の備蓄は、新型コロナ流行と闘うには不十分だろうと表明。当時の備蓄は大半が重篤な呼吸器疾患に対処可能なタイプだったが、台数は約1万4000台だった。

トランプ大統領は3月下旬に米国は10万台を追加で生産するか調達すると約束し、数週間後に厚生省は大量発注を発表した。

厚生省報道官によると、当時はICU用だけでなく、患者搬送中や野営病院での臨時使用も想定して、調達する呼吸器の種類を多様化することが意図された。たとえ機器が理想的なものでなくても医療機関のニーズを満たすため、可能な限り多くの呼吸器を調達することが必要と判断し、そう推奨していたという。

国家備蓄は10月までに14万台が加わった。このうちICU用が1万5000台だった。厚生省の契約通知によると、このタイプの機器の価格は1台当たり約2万1600ドル。

このほか、重症患者のICU搬送時の使用を想定するが、圧力のコントロールや酸素レベル調節などの高機能も備えた、回復までの数週間に使用できるタイプを約5万8000台調達した。この平均価格は約1万6800ドル。

重篤な患者の短時間の移送や、それほど急性でない患者向けには4種類を計約6万6000台、総額約4億5000万ドルで調達した。平均価格は約7900ドル。ただ、このタイプでは重篤なコロナ患者の救命は難しい。

ロイターの分析によると、4タイプはWHOが3月に指針を公表した重症新型コロナ患者治療の最低基準を満たしていない。4タイプのメーカーのうち、コンバット・メディカルは、それほど急性でないコロナ患者を助けることができる機器だと述べた。ヒル・ロム・ホールディングスとレスメドは、WHOの基準を満たしている機器ではないとした上で、やはり急性ではない患者の治療に役立つとした。

<患者のリスク>

4つ目のタイプを共同で製造したのは、米フォード・モーターと米ゼネラル・エレクトリック(GE)。仕様書や専門家によると、気管挿管をしている急性症状のコロナ患者に長期間使うのには適していない。

カリフォルニア州が7月に国家備蓄から人工呼吸器500台の供給を要望したところ、受け取ったのはフォード/GEの製品だった。同州の公衆衛生当局者によると、必要だったのはより高機能な機器だったため、返却を要望。その後、厚生省はICU用の500台を送ってきた。同州に対し、フォード/GE製もそのまま保有できるようにした。

フォードは、製品の性能への質問についてはGEにするよう取材に返答した。GEはコメントを拒んだ。仕様書には「搬送中の患者支援や、重篤でない治療での使用のために特に設計された」と明記されていた。

国家調達を監督する当局者に助言するシンシナティ大学のリチャード・ブランソン教授は、気管挿管をしているコロナ患者向けの人工呼吸器を病院が必要としている時に、フォード/GEの製品を送るのは問題かもしれないと指摘。「期待していたのと違う機器を受け取り、それが患者の必要に合わない場合、患者が危険にさらされるため、リスクが高い」と指摘した。適切な時に適切な機器がなければ「患者は生き延びられない」とも述べた。

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