- 2020年12月07日 06:43
Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに
1/2※本論文はプレプリントであり、著者ら以外の専門家からの科学的検討(査読)はまだ受けておりません。しかし、政策上重要なテーマであるため、速報性を重視するために公開しております。
新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)が世界中で猛威を振るっており、日本でも冬を迎えて感染者数の再増加を経験しています。
新型コロナに感染することに対する恐怖および、感染拡大を防ぐために多くの国で行われている外出自粛要請や移動制限などの対策は経済に悪影響を与えており、多くの国で新型コロナの感染拡大を防ぎながら経済活動を活性化する方法を模索しています。
日本では飲食業や観光業を救済する目的で、2020年7月22日から国内旅行(Go Toトラベル)に対して、10月1日からは飲食店の利用(Go Toイート)に対して政府が補助金を出しています。飲食店の利用に対する補助金は、日本だけでなく英国などでも実施されています。
日本のGo To トラベル事業には11月末時点で2000億円の政府予算が投じられており、延べ4000万人が利用している世界的に見ても大規模な事業です。11月からの新型コロナ感染者数の増加を受けて、この事業が新型コロナの感染拡大を増悪させているのではないかと懸念されていました。しかし、Go To トラベル事業と新型コロナの感染リスクの関係性は十分に分かっていませんでした。
そこで今回、私達の研究チーム*は、GO TOトラベル利用者の新型コロナ感染リスクを明らかにするため、15−79歳を対象とした大規模なインターネット調査(2020年8月末〜9月末に実施)によって集められてデータの解析を行いました。
*宮脇敦士(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA]) によって構成される共同研究チーム。
GO TOトラベルの利用経験(過去1−2ヶ月以内の利用の有無)と、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する5つの症状(①発熱、②咽頭痛、③咳、④頭痛、⑤嗅覚/味覚異常)を経験していた人の割合との関連を調べました。
性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた上で、Go To トラベルの利用経験のある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に発熱(Go Toトラベル利用者4.8% vs. 非利用者3.7%; オッズ比 1.9)、咽頭痛 (20.0% vs. 11.3%; オッズ比 2.1)、咳 (19.2% vs. 11.2%; オッズ比 2.0)、頭痛(29.4% vs. 25.5%; オッズ比 1.3)、嗅覚/味覚異常 (2.6% vs. 1.7%; オッズ比 2.0)を、より多く認めていたことがわかりました(図1)。
この結果は、Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示しており、Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆しています。
図1 Go To トラベル利用の有無別の新型コロナを示唆する5つの症状の有症率

年齢と基礎疾患の有無による層別化解析
また、年齢および基礎疾患の有無**で層別化した分析も行いました。その結果、Go To トラベルの利用経験による有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者で顕著でした(表1)。この結果は、高齢者の方が新型コロナ感染を恐れているため、たとえ旅行をしても慎重に行動し、その結果として感染リスクを増加させていなかった可能性を示唆しています。
**過体重・高血圧・糖尿病・心疾患・脳卒中・COPD・がんのうち少なくとも1つを持つか否か
一方で、基礎疾患の有無によって、Go Toトラベル利用と有症率との関係は変わりませんでした(表2)。
これらの結果は、現在日本で検討されている高齢者と基礎疾患のある人をGo Toトラベルの対象外とする方法が、新型コロナの感染拡大のコントロールにあまり有効ではない可能性が高いことを示唆しています。
表1 高齢者 vs 非高齢者で分けた分析

表2 基礎疾患なし vs 基礎疾患ありで分けた分析
