20代女子陸上選手が告発する“性的被害”「DMで男性局部の写真が…」「体液を出してる写真を…」 から続く
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ユニフォーム姿のアスリートを狙う、悪質な撮影行為。「スポーツ界全体の問題だ」と声を上げた20代の女子陸上選手のハナさんとカオルさん(いずれも仮名)の思いを受け、JOC(日本オリンピック委員会)は、性的ハラスメントに競技横断的に対応しようと奔走している。
選手たちが一番に求めるのは法整備だが、実現までには長い道のりが待っている。法整備まで手をこまねくのではなく、具体的に何ができるかも重要だ。ハナさんとカオルさんが、動き出したスポーツ関連団体への期待と不安を語った。(全2回の2回目。前編を読む)
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「研修って、誰がするんだろう?」
――11月、JOCなどが出した声明文には、
(1)各競技団体が独自に行ってきた被害防止の取り組みを共有
(2)アスリートが自衛するためのネット研修の実施
(3)一般向けに情報提供サイトを設置
といった内容が盛り込まれました。第一歩として、どう受け止めますか?
ハナ 陸連(日本陸上競技連盟)やJOCの中にも、性的ハラスメント被害を知らない方が結構いたと思うので、声明文という形になったことは嬉しく思います。
ただ、研修って、誰がするんだろう? という不安もあります……。現在、最前線で陸上競技をしておらず、性的被害を受けていない人たちが、どうやってその研修をするのか、と考えてしまうんで。「そんなことがあるらしいぞ、気をつけろよ」程度の内容だったら、不安が残るだけだなと。
――具体的に、どんな対策ができるかを指導してほしいということですね。
ハナ 自分を守るために何ができるのかとか、競技ユニフォームひとつとっても、いろいろ選ぶ権利があるんだよとか。きちんと教えてほしいことがいっぱいあるから……。
公益財団法人日本オリンピック委員会HPより
――写真や動画をアップする中で気をつけなければいけないこと。経験者のおふたりだからこそ分かることもあるし、中高生に伝えたいこともありますよね。
カオル 今はSNSが普及しているので、何も考えずにアップするとその写真がどう使われる可能性があるのか、ちゃんと知るべきだと思います。例えば更衣室で自撮りすると、周りの着替えている子まで写ってしまいかねない。それを悪用する人はいます。自分だけじゃなく、周りにも被害が出る恐れがあると理解した上で、写真をあげた方がいいと思うし、そういうSNSの使い方をもっとちゃんと中高生に教えてあげるべきだと思っています。
陸上が好きで、きらきらしているところを撮りたい人もいる
――一方、競技中の撮影は、選手にコントロールできない部分でもあります。そもそも、こうした問題には20年ほど前から競技団体も頭を悩ませてきました。例えば体操やビーチバレーは一般客の撮影を原則禁止していますが、陸上では撮影を認め、頻繁に見回りをして不審者に声をかけるという対応を続けています。
ハナ その方法でやっていくしか、仕方がないです。大きい試合ならば、観客席の隣やすぐ後ろで怪しい行為をしている人を見かけたら通報してほしい、と呼びかけるのが今は一番いいのかなと思います。小さい大会なら、大きいカメラを持っているような方が目に付いたら、声をかけてもらう、などでしょうか。できるだけ、どこの試合でも警備員や巡回する人をつくる形で対応していただきたいです。被害が最小になるような流れを作る、今はそれしかできないとも感じています。
――陸上でも撮影禁止を、という規制までは求めないですか?
カオル 陸上競技を多くの人に知っていただくためには、撮影禁止を求めることは難しいかもしれないですね。陸上でも100mなどの花形種目ならみんな知ってるでしょうけれど、全種目となると、知名度のためには……難しいところだなと思います。撮影を一律禁止したら確かに被害は減ると思うのですが、陸上界全体を盛り上げるためには……。サッカーなどメジャーなスポーツに比べると、スポットライトが当たることが少ないですから。
ハナ 自分の宣材写真を、陸上が好きで写真を撮りに来ている子にお願いする人もいるんです。友達にも、陸上がすごく好きで、みんなのきらきらしているところを撮りたくて、競技場に足を運んでいる人もいます。そういった方との接点を全てなくしてしまうことは望みません。だから、撮影の機会は残してほしいと思います。
「ジャージ着て走れよ」という反応
――今回、JOCが対応に乗り出したことで、さまざまなメディアで報道されました。ネットニュースなどに寄せられたコメントで、印象に残ったものはありましたか?
カオル 「女子選手は男子に比べて競技レベルが劣っているから、露出度が高いユニフォームを着ていないと、誰も見てくれないよ」、「ジャージ着て走れよ」などでしょうか……。ああ、そう捉えられてしまうのかと思いました。
ハナ 「あのユニフォームがおかしい」というコメントが大半でしたね。ただ、ユニフォームにだって、選手の選択の自由があるべきだと思うんです。性的に見られることがあるかもしれない、性的被害に巻き込まれる可能性もあると理解した上で、できるだけ露出が少ないユニフォームに変えようとか、セパレート(上下で分かれ、お腹の見えるタイプ)のユニフォームを着たいとか、選択できる世の中になればいいなと思います。今、選手たちはセパレートがかっこいいと思って、みんな着ていますからね。
――セパレートを好きで着ている選手が、競技以外の面を気にして服装をかえることには、葛藤もありませんか。
ハナ あとから傷ついたり、写真が悪用されてしまうよりは、良いのではないでしょうか。一回、SNSに上げてしまったり、上げられてしまった後は、自分の手の届かないところに行ってしまうので。
カオル 性的ハラスメントを受けてからでないと、分からない人の方が多いと思うんです。だから被害も多いのだなと思います。私たちは陸上の成績が第一で、絶対その試合に集中しているから、撮られるとか思わないんです。ユニフォームのことばかり意識していられない。それで、撮られて後からSNSに載せられて、気づくんです。
ハナ 一番望ましいのは、みんながかっこいいなと思っているセパレートのユニフォームを着ても、被害に遭わないように、陸連やJOCに対策をしていただくことですね。