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40代になっても「いつ辞めよう」…そんな松重豊が役者を続けられた理由 ――松重豊の「僕が『空洞のなかみ』を書いたワケ」 #1 - 「文春オンライン」編集部

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 松重豊さん、57歳。還暦を目前にした人気俳優は、小説とエッセイを収めた1冊『空洞のなかみ』を書きました。初著書からみえてくる、何度も諦めかけた若手時代、自分を役者につなぎ止めた存在、そして2020年に起きた大きな変化……。

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 長年にわたって400作品以上の映画やドラマに出演し、大ヒットドラマ「孤独のグルメ」の主演も務める「俳優・松重豊」の“素顔”に迫るロングインタビューです。


松重豊さん(毎日新聞出版 提供)

◆◆◆

――松重さんといえば、沢山の作品で活躍する「俳優」というイメージです。そんな松重さんが「書く」ようになったきっかけは、なんだったんでしょうか。

松重 3年ほど前でしょうか、毎日新聞出版の編集者の方からお手紙をもらいました。僕と同じように、長年「脇役」を続けてこられた沢村貞子さんのエッセイが非常に面白いので、松重さんも書いてみませんか、と言われました。

 印象的だったのは、その内容以上に、この手紙の字がもう本当に、すごくきれいだったこと。ついそれに揺さぶられてしまい、気がついたら「やらせてください」と、書き始めることになりました。いまはもうパソコンですが、僕も一応大学は文学部だったので、文章や文字、そういう「ものを書く」ということで、人を動かすことができるんだと触発されてしまったんですよ(笑)。

 で、そうやって書き始めた週刊誌の連載がたまって「そろそろ本にしませんか?」といわれたのが2020年の2月頃でした。その後、あれよあれよという間に「緊急事態宣言」が出て、世の中は一変。俳優なんて「不要不急」な稼業ですから、撮影や上映、あらゆる仕事がストップしました。

 以前であれば毎朝の散歩中に台本を覚えていましたが、そこで覚えるセリフもない……。自宅に引きこもらざるをえなくなり、妄想するか家でプリンを焼いたりスイーツを作ったりするくらいしかすることがありませんでしたから(笑)、そこで一気に小説も書いたんです。

――生活が一変したことで、松重さんの意識にどんな変化があったんでしょうか。

松重 「もう俳優の仕事には戻れないかも」と思うこともありました。やっぱり劇場、映画館がどんどん閉鎖されたことは衝撃だったんです。「空襲警報発令といって、ウーッと鳴ったら家を出られないんだよ」とお年寄りから戦争について聞かされていたのが、まさに今、「今日は買い物に行っちゃ駄目」とか「外に出ると死ぬよ」と言われる日常が世界中の人に降りかかった。こんなことって、これまでなかったと思うんです。

 それこそ戦争でも起きない限り、地震が起きても劇場、映画館というのは、やっぱり心のよりどころとしてあるべきだと思ってきました。それが、今回コロナに関しては「あるべきだ」よりも、「場所として成立しないから」と突き付けられた。意識が180度変わりました。

 たとえば、本当に駆け出しのまだ役者としてやり始めた頃に、いまの時代を「大前提」として突き付けられたら、やっぱり「どうしようかな」と思うじゃないですか。年齢を重ねている私も、考えるスパンの差はあれど気持ちは同じでした。

 ただ、「表現」というものに関しては、歴史を見ていても世の中が大変な時期は何かが起きる。そういう時に何を言うのかって、のちのち絶対に「見られる」ことだと思うんです。

 だからこそ、いま何を思ったか、大事な足跡として確実に残しておかなきゃいけない。舞台も映画館も閉まっちゃったけど、じゃあ書いてみようと……。

「40代前半までつねにこの仕事を辞めることが頭にあった」

――コロナ禍で「どうしようかな」と先行きの不安を感じられたということですが、本の中にも、松重さんの若手時代の苦労話が数多く出てきます。若手の時に悩んだことはありましたか。

松重 いまも「向いてないなぁ」と思うことの方が多いですし、僕は何度もこの仕事を辞めようとして、実際、一度は本当に足を洗い、正社員として建設現場で働いていた時期もあります。その後、この仕事に戻っても、ずっとアルバイトが続く生活……。「いい加減あきらめようかな」と、いろんな局面で思っていたんですよね。

 40代の前半ぐらいまでは、常に自分の中に「いつ辞めようか」というか、廃業が頭の片隅にありました。まず生計が立てられないし、将来の展望も見えない。自分が自主的に「辞めます」といつでも言える職業ですし、代わりはいくらでもいると自分でも十分わかってますから。

「いまでもバイトの夢を見ます」

――自分で「いけるな」と思うようになったのは、どのあたりぐらいからでしょうか。

松重 バイトをしなくなって……でも、最近も「行かなきゃいけないのがヤダな……」とバイトの夢は見てますから、なんとも言えません(笑)。

 役者って、よく言われるんですけど、「もう俺安心だな」と思った時には、次は崖が用意されていて。「安心だな」と思う要素は全くないんですよね。いつも不安で。「いつ仕事がなくなるかな」という不安と戦っています。

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