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苦しい地銀こそ〝発展的ガラパゴス化〟のススメ! - 友森敏雄 (「WEDGE Infinity」編集長・月刊「Wedge」副編集長)

ガラパゴスゾウガメ(nicholas_dale/gettyimages)

 つい先日「よいよこのカード使えなくなったわ」と、記者の妻がぼやいた。銀行のキャッシュカードのことだ。しかも、富士銀行。といっても若い読者には聞き覚えがないだろう。今はみずほ銀行の一部になっている。かく言う記者も親からもらった旧郵政省(現ゆうちょ銀行)のキャッシュカードをいまだに持っている。

 平成の30年間は銀行合併の時代だったと言っても過言ではないが、唯一「無風」とも言える状況だったのが「地方銀行」、それも第一地銀だ。

 都市銀行が16→7(1980~2020年)、第二地銀が71→38、信金462→257、信組484→145と平均すると半減しているのに対して、地銀は63→64に1行増えている。

 しかし、地銀も変わらざるを得ない状況になっている。今後どのような展開が考えられるのか『消える地銀 生き残る地銀』(日本経済新聞出版)を上梓した東洋大学教授の野崎浩成さんに話を聞いた。

 都市銀行の合併が進んだのは、〝バブル経済〟のツケを払わざるを得なかったからだ。バブルに浮かれた乱脈融資の結果、多額の不良債権が生まれ、〝バランスシート・ショック(自己資本の減少)〟に襲われた。結果として、合併して合理化を行うと同時に公的資金の注入をしてもらうことでなんとか延命した。一方で地銀は都銀と比較してバブル崩壊の影響は軽微だった。

 この時とは異なる危機が訪れていると、野崎さんは指摘する。

 「バブル崩壊後の1997年から2003年の危機は不良債権の発生や有価証券の価格低下など、多額の損失負担でした。赤字決算が自己資本を減らして破綻リスクが発生します。いわば〝サドンデス〟におかれるので非常に危機感は高いわけです。

 一方で、現在は収益力の低下によって少額の損失が出続けている状況です。じわじわと経営体力を削っていく〝ゆでガエル〟型と言えます。超低金利環境が20年続き、収益力が漸減してきたところでマイナス金利が導入されたことで〝湯温〟は上昇しましたが、サドンデス状態に比べると、経営陣の危機感はさほど切迫したものではないのかもしれません」

 野崎さんは、15年ごとに銀行業界に新しい変動がやってくると分析している。1988年~2003年は規制緩和による自然淘汰と、バブル後処理の時代、2004年~2018年は回復後の安定期、そして2019年~2033年はフィンテックなど新しいテクノロジーの登場と、第2の自然淘汰が訪れると見ている。

 第2の自然淘汰とはどのようなものか。端的に言えば「不要な銀行があぶり出される」ことだ。つまり、従来型の銀行業務を続けていれば不要な銀行として淘汰されてしまうが、自分たちの「ミッションを再定義」して環境変化に対応できるかどうかという「適者生存」が銀行にとって生き残りへの道となる。

 どのような「適者生存」が行われていくか見ていく前に、不要な銀行とはどのようなものか確認しておこう。

 「バブル崩壊後の不良債権処理において、検査官の態勢が整わなかったため、99年に「金融検査マニュアル」が作られました。これがゲームチェンジャーとなって、以降の貸し出しが厳格化されました。要するに、可能性あっても、グレーだと融資することができなくなったのです。結果的に、優良な事業者に融資が集中して、金利引き下げという過当競争が生まれました。

 これによって銀行から『情報生産機能』が失われてしまいました。情報生産機能とは、要するに〝目利き能力〟です。先輩と一緒に現場へき、場数を踏んで財務諸表からだけでは読み取ることのできない定性情報を読み取ってくる。こうした〝知の伝承〟ができなくなってしまいました。

 昨年末に検査マニュアルは廃止されました。今後は、少々馬鹿げていると言われても、与信コストを上げる、つまり、ある程度の失敗を許容しつつ、これはという事業主には融資していくことも必要になると思います」

 「もう一つは、経営側の責任とも言える問題です。『金融機関の店舗設置等の取り扱いについて』という通達が1997年に廃止されたことによって、地銀は他地域に店舗展開をすることができるようになりました。結果として隣県になどに進出して、こちらでも金利引き下げによる過当競争をしてしまいました。広域に展開することで、質より量に走り、収益額は増えるが、収益率は悪くなるという結果になりました」

地銀再編4つのパターン

 今後、起こるであろう地銀の再編について野崎さんは4つのパターンを指摘する。

 ①リージョナルメガバンク

 ②トランスリージョナルメガバンク

 ③プラットホーム型

 ④発展的ガラパゴス型

 「リージョナルメガバンクは、隣り合う地域での再編です。アメリカでも1990年代以降、1万件以上の地銀再編が起きましたが、これが最も成功しているパターンです。地域のプライスリーダーになることで過当競争を止めることができることに加えて、共通業務を統合することによる合理化を行うことができます。トランスリージョナルメガバングは、リージョナルに比べると効果は落ちますが、やはり重複業務の合理化を進めることはできます」

 実際、隣接、遠方を含めて、地銀のグループ化は進んでいる。千葉銀行と中国銀行(岡山)などが参加する「TSUBASAアライアンス」のように、システムの共同開発を源流としながらも多様な事業の協力体制を築くことで投資コストなどの削減を進めるといった動きもある。隣県同士となると、それまでの利害関係が邪魔して、一緒に仕事をするということが難しい場合もあるため、地域を越えた形での連携のほうが進みやすいという場合もある。

 プラットホーム型というのは、SBIホールディングスのような新しいプレーヤーの元に、地銀が参加することでこれまでとは違うサービスを提供する金融グループを目指すというものだ。このあたり、GAFAのようなプラットホーム企業が軸として参加するようなことがあれば、これまでとは違う新しい展開が期待できそうだ。

 さて、最後のパターンが「発展的ガラパゴス型」という聞きなれないパターンだ。

 「これは、地域金融機関の本質。何なのか? という答えをそれぞれの地銀が出すことです。例えば、地域の高齢者に、徹底的にスマートフォンの使い方を教えることでデジタルリテラシーを上げて、モバイルバンキングの利用を劇的に高めることで店舗負担を軽減して生き残るということ選択があってもよいと思います」

 野崎さんが本書の中で事例としてあげる例で興味深いのが、イギリス・ロンドンにある「C・ホーア&カンパニー(ホーア銀行)」という非上場の銀行だ。「共感」「社会的責任」「誠実・正直」「質の高さ」という経営方針を掲げ、「利益より安定性」「顧客一人ひとりを細密に知ることができる範囲でしか顧客を増やさない」「質の最大化とリスクの極小化」「全ての社員が完璧に商品特性を理解する」といったスタイルを貫いている。

 「全ての地銀がホーア銀行のようになるのは難しいですが、このような『リージョナル・プライベートバンク』として生き残るのも一つの選択肢としてあると思います」

 日本の場合、銀行は銀行法によって株式会社と定められているが、特に地銀の場合は、株主と地域住民の利害が一致しないという問題が生じてしまう。例えば、支店の統廃合は合理化という意味で株主にはプラスだが、地域の利用者にとってはマイナスだ。

 「資金吸収力、株主からの規律という意味で、銀行は株式会社と定められています。ただし、あえて上場会社以上に透明化したり、外部監査役を登用したりすることで、株式会社の機能を担保することはできます」と指摘するように、「株主<地域住民」がより実現しやすい形が認められてもよいかもしない。

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