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イージス・アショア問題の根源

イージス・アショア(ハワイ・カウアイ島) 出典:ロッキード・マーチン社

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・頓挫したアショア、拙速導入方針はSPY7採用ありきだったか。

・アショアは法律面・防御面で不備。SPY7は規定の試験も経ず。

・調達経緯不透明なSPY7は違約金がかかっても解約すべきだ。

河野太郎前防衛大臣はミサイル防衛用のイージス・アショア配備の中止を決定した。これによってその代案が検討されているが、政治問題にもなって混迷を深めているばかりだ。だがメディア、特に記者クラブメディアはその問題の根源を無視し、自民党国防部会などのリリースを吟味せずに、まるで広報のようにそのまま報道している。

そもそもアショアの導入、レーダーとしてのSPY7の「お手つき採用」まで、防衛装備としては、経緯はかなり異様としか言いようがない。

▲写真 SPY-7 出典:ロッキード・マーチン

筆者が取材した限りではアショアの導入はグローバルホークやオスプレイ同様に首相官邸の補佐官らと防衛省の内部部局の防衛政策局の一部官僚が結託し、海上自衛隊のイージスシステムの専門家の協力も得ずに、法整備も行わず、性急に話を進めた。まるでナチスドイツの総統府が国防軍の頭越しに新兵器の調達を決めたのと酷似している。その目的は国防というよりもSPY7というレーダーの調達ありき、としか思えない。

そもそも現行法ではアショアは電波法の規制によって、設置しても稼働できない。海自のイージス艦は電波法の規制によって沖合50海里にまで陸地から離れないとイージスレーダーを作動できない。同様なアショアのレーダーを陸地で作動させるのは違法行為になる。このためアショアを建設させても稼働できない。稼働させるのであれば脱法行為になる。当然訓練などできないし、違法行為を前提にするのであれば、文民統制の否定となる。

設置するには法改正が必要であり、その前提としては陸上に設置して人体や電子機器などに障害が発生しないかを調べるアセスメントが必要である。アショア導入を決定するならば法改正まで行かなくとも、きちんとしたアセスメントを行って法的に設置できる根拠を作るべきだった。

ところが防衛省は設置予定の自治体に対してはそのような説明をせずに、レーダー波の説明は陸自の03式中距離地対空誘導弾を用いて説明していた。これは例えるならば高速道路の騒音問題で大型ダンプカーの騒音を課題としているのに、中型トラックのデータを持って住民に説得するようものであり、詐術といってよい。

実はイージスレーダーの電波法による規制は、以前は公表されていたが、10年ほど前から秘密扱いになっている。このため住民には明らかにしなかったのだろう。そうであれば説明会以前に、内々に調査やアセスメントを行い、また秘密扱いを解除して説明すべきだった。この電波法の規制に関して筆者は河野前防衛大臣に会見で質問したが答えられない、の一点張りだった。

また河野前防衛大臣がアショア中止の理由に挙げた「ブースターを演習場内に確実に落下させることができない」、という説明も大概怪しい。アショアを設置するならば、常識的に考えれば通常の空対地ミサイルや、巡航ミサイル、ドローン、ロケット弾や迫撃砲弾などへ対処するための短距離ミサイルや、機関砲、ドローンジャマーなどの対空武装も必要だ。

その場合、当然ながらアショア設置場所近隣には撃墜されたミサイルやドローン、また迎撃ミサイルや機関砲弾が落下するのは必至である。なにゆえこれらの危険性を無視して、もっと危険性の低い、ブースター落下だけを問題としきたのか。

仮にブースターだけが問題ならば核弾頭が落ちてくる危険性に比べれば許容できる危険性として立法と補償で対処すべきだろうが、そのようなことは検討されていなかった。下手をするとアショアは防御システムを構築せずにアショアだけを設置するつもりだった可能性もある。そうであれば安価なドローンや迫撃砲で簡単に無力化できる。

▲写真 イージス・アショアにより発射された迎撃ミサイル 出典:ロッキード・マーチン社

このような法整備やその前提となる調査やアセスメントを行わず、アショアの建設地2箇所をはじめから決定し、地元の了解も得られない段階でSPY7レーダーを「お手つき発注」したのは先述のように、SPY7調達自体が目的化していたからではないだろうか。

本来アショアを導入するに際しては海上自衛隊が使用している現用のSPY1レーダーの後継と切り離してはいけないはずだった。仮にアショアがSPY7、イージス艦がSPY6を採用するならば、訓練や教育が二重に掛かることになる。あるいはアショアに合わせる形で、海自のイージス艦のレーダーもSPY7に統一する必要がある。そのようなすり合わせを筆者が知る限り、防衛省はおこなっておらず、アショア導入に際してイージスシステム及びBMD(弾道ミサイル防衛)に精通している海上幕僚監部の隊員やCSEDSに留学経験とイージス運用経験の豊富な海上自衛官から助言等、得ていないようだ。

米国はニュージャージー州モアーズタウンにCSEDS(Combat System Engineering Development Site)というイージスシステムのテストセンターを有している。米海軍のイージスシステムの構成品及び接続システムは全てこの施設で試験をされ、その試験に合格する必要があるが、SPY-7はその試験を経ていない。

そもそもSPY7はイージスシステム搭載艦艇のためのレーダーではなく地上配備型ミッドコース防衛対弾道ミサイルシステム用として開発されたものであり、SPY7はその試験を経ていない。米海軍が採用していないSPY7を採用した場合には当然、日本独自のイージスシステムを作ることになり、巨額な試験費用やソフトウェア維持管理費用の負担が必要になる。また定期的に行われる能力向上のアップデートについても自前で負担して、相当の費用がかかる。

▲写真 CSEDS(米ニュージャージー州モアーズタウン) 出典:Boevaya mashina

対してSPY6は既に米海軍の要求性能を満たすためにハワイで弾道ミサイルと巡航ミサイルの同時探知・追尾の試験を実施し、成功している。計15回に及ぶ試験費用は15(約1,600億円)とされる。先述のようにSPY6は、米海軍が次期イージス艦用に採用したレーダーで、試験費用は米政府が負担する。SPY7に関してはそのような費用は我が国が負担することとなる。

またSPY6は米海軍のイージス艦への採用が決まっており、これを採用すれば米海軍との相互運用性の確保が可能である。また米海軍が大量に採用するため開発費やコンポーネントのコストも低減できるだろう。更に申せば大変厳しい米国の会計検査院の監視や、米議会の監視もあるのでコストの低減は抑えられるだろう。ところがSPY7の場合はそのような監視が付かないのでメーカーの言い値で払うことになる。

更に申せば海上自衛隊には海上自衛隊が保有する艦艇の戦闘指揮システムの維持管理のために艦艇開発隊に各システムのテストサイトが存在する。これは建設に約100億円かかっているが、SPY7を採用するならば同様の施設の建設も必要となる。

防衛省の試算によるとアショア用のSPY7をイージス艦に転用する場合4,800億~5,000億円超となった。これはかなり控えめだと思うが、現用のイージス艦の2倍以上のコストとなる。おそらくはSPY6を採用したイージス艦に比べて調達コストは2倍、維持運用費用も相当高くなるだろう。海自がSPY7を次世代のイージス艦に採用した場合、海上自衛隊の予算を相当圧迫することになる。

はじめに述べたように、法的に不可能でアセスメントもしない状態で、設置場所まで決めて性急にSPY7の採用を決定、「お手つき発注」をしたことが根源的な問題だ。誰がどのようにこのような杜撰かつ異常な計画を立てたのか、それを明らかにして責任を問う必要がある。

筆者は行政の透明性のためには、不透明な経緯で調達されたSPY7は違約金がかかっても契約をキャンセルすべきだと考える。それをしなければ同じようなことが「やり得」となって、満州事変のような独断専行が繰り返されることとなるだろう。

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