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「ハイブリッド戦争」と動揺するリベラル国際秩序 - 志田淳二郎 / 米国外交論・国際政治学

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「ハイブリッド戦争」の時代

(1)クリミア半島併合作戦

2014年のウクライナ危機以降、世界は「ハイブリッド戦争」の時代に突入した。2013年秋から2014年3月にかけて、ウクライナの隣国ロシアは、政治的・経済的圧力、サイバー攻撃、国境付近での15万名規模のロシア軍の「訓練」実施などを繰り返し、あらゆる領域でウクライナに圧力をかけていた。背景に、ウクライナがEU(欧州連合)への接近を図っていたことがある。

やがて所属を表す標章のない、緑色の迷彩服に身を包んだ完全武装の集団(リトル・グリーン・メン)が、ウクライナのクリミア半島に出現した。彼らは、地方政府庁舎・議会・軍施設・空港などの重要インフラを次々と占拠した。その後、ロシア正規軍も後続展開を開始、ウクライナ軍は効果的に反撃できずに、あっという間にクリミア半島は占拠され、物理的にウクライナ本土から分離させられたのである(注1)。

この直後にクリミア半島では、クリミアのロシアへの編入を問う住民投票が行われた。住民の大多数の賛成票をもって、2014年3月18日、クリミア半島は、ロシアへ、「民主的」に、かつ、「法的」に編入されたのだった。

このウクライナ危機以降、米欧、とりわけ、EUやNATO(北大西洋条約機構)加盟国の安全保障専門家の間で、「ハイブリッド戦争」という「新しい脅威」についての議論が活発に交わされ、現在に至っている。軍事力を背景に、軍事力以外のあらゆる手法をあらゆる領域で駆使したロシアのクリミア半島併合作戦は、まさに「ハイブリッド」な作戦だった。

「ハイブリッド戦争」という言葉は、ロシアのクリミア半島併合作戦を、なかなかによく表現しているフレーズだ。

(2)「ハイブリッド戦争」は「新しい脅威」か?

ところが、「ハイブリッド戦争」という言葉をめぐって、「新しい脅威」ではない、と主張する論者が少なからずいる。彼らにしてみれば、歴史上の「戦争」は、そもそも、「ハイブリッド」なものだったから、「ハイブリッド戦争」という言葉は、同語反復(トートロジー)となり、意味のある言葉ではないという。

歴史を振り返ってみても、たしかに、「総力戦」としての第一次世界大戦以降、各国政府は、「前線」での正規軍同士の戦闘のみならず、「銃後」の重要インフラを防衛し、資源を確実なルートで調達し、これを維持することへの対応に迫られた。敵国からのプロパガンダによる世論戦・心理戦に備え、自国民の士気を低下させないことにも神経を尖らせざるをえなくなった。

ベトナム戦争やソ連のアフガニスタン侵攻も、ある意味、「ハイブリッド」なものではあった。米軍は、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)と、ソ連軍は「ムジャーヒディーン」(イスラム聖戦士)を自称する武装ゲリラとの戦闘を余儀なくされた。両者は、非国家主体であり非正規軍である。2001年のアフガニスタン戦争、2003年のイラク戦争、その後の「テロとの戦い」でも、米軍は、タリバンやアルカイダ、「イスラム国」(IS)などの非国家主体との非正規戦を経験している。

ところが、2014年のロシアのクリミア半島併合作戦やその後のウクライナ東部紛争は、ここで挙げたような歴史上の「ハイブリッド」な戦いとは、根本的に性質が異なるものだ。なぜならば、ロシアや中国のような軍事大国は、非正規軍を支援するための通常戦力を動員する可能性があり、さらには、攻撃対象国の同盟国や友好国からの反撃を抑止するために、核戦力をも展開することも考えられるからだ。

これらのことを考えれば、ウクライナ危機以降注目を浴びている「ハイブリッド戦争」が、武装ゲリラ掃討作戦や「テロとの戦い」とは質的に異なる「新しい脅威」と捉えるのが適切だ。「新しい脅威」としての「ハイブリッド戦争」の定義については、欧州委員会(2016年)や米国ランド研究所のアンドリュー・ラディンの研究(2017年)が参考になる。

両者の議論を踏まえて、「ハイブリッド戦争」を、差し当たり、「宣戦布告がなされる戦争の敷居よりも低い状態で、特定の目標を達成するために、国家または非国家主体が調整の取れた状態で、通常戦力あるいは核戦力に支援されたうえで行う強制・破壊・秘密・拒絶活動」と定義しておこう(注2)。この定義では、クリミア型の「ハイブリッド戦争」を適切に説明できていることが分かる。

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