「ジムや図書館に行かず、パーティーはキャンセルを」
そう訴えたのは、スウェーデンのロベーン首相。11月16日、新型コロナウイルスの感染急増を受け、規制強化し、9人以上の集会を禁止すると発表した。
他の欧州各国が都市封鎖(ロックダウン)を行うなか、スウェーデンは行動制限を行わない独自路線を続け、注目されていた。
「政府は経済や人々の精神面への『副作用』が大きいが、感染抑制の根拠に乏しいと見て、ロックダウンをしなかった。国民が自発的に行うことに期待して、ソーシャルディスタンスの確保や在宅勤務などを呼びかけてきた」(現地記者)
マスクをめぐる対応も他の国とは違った。「マスク着用はパニックや根拠のない安心感を広める」として、勧めなかったのだ。
「今もマスクを着けずに出歩く人がほとんど」(同前)
そんな対策の陣頭指揮をとってきたのが、公衆衛生庁の疫学責任者、アンデシュ・テグネル博士(64)。
「国民の6割は『経済と健康のバランスがとれている』と対策を評価してきました。テグネル氏はWHO(世界保健機関)のメンバーとしてラオスでワクチン接種プログラムに携わり、95年にザイールでエボラ出血熱の対応にあたった。彼の似顔絵のタトゥーを腕に入れる信奉者もいるほどの人気ぶりです」(同前)
人口約1000万人のスウェーデンは人口の一定程度が抗体を得て感染を防ぐ「集団免疫」の獲得を目指しているのではと言われてきた。だが、テグネル氏は「ワクチンなしの集団免疫の達成は不可能」と否定している。
ただ、人々の警戒態勢が緩み始めて、10月に感染者は累計10万人を突破。11月中旬に1日あたりの新規感染者数は6700人を超え、入院患者数の伸び率が欧州最大に。現在、累計で感染者は21万人を超え、死者数は6420人となったのだ。
フィンランドとノルウェーの死者数は約10分の1
一方で対策を再評価されているのが同じ北欧のフィンランドとノルウェーだ。両国はスウェーデンと地理的・社会的特徴が似ているが、100万人あたりの死者数は約10分の1に留まる。
「両国の共通点は、初動が早かったこと。3月にロックダウンや国境管理を厳格化し、移動する人々にPCR検査や自主隔離を強制した」(国際部デスク)
ストックホルム ©iStock.com
また、国際通貨基金によれば今年の経済成長率の見通しは、スウェーデンがマイナス4.7%で、ノルウェー(マイナス2.8%)やフィンランド(マイナス4%)を下回るという。
感染抑制と経済のバランスをどう取っていけばいいのか。北欧諸国のコロナ対応を世界中が注視している。
(近藤 奈香/週刊文春 2020年12月3日号)