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「中道」騒ぎに思う

7日の朝日新聞夕刊の記事。

民主「中道」路線安倍総裁が批判

自民党の安倍晋三総裁は7日朝、東京都内で講演し、次期衆院選で「中道」路線を打ち出す方針の民主党について、「自分の信念、哲学、政策もない人たちのことを中道の政治家という。堕落した精神、ひたすら大衆に迎合しようという醜い姿がそこにある」と批判した。

臨時国会の代表質問で仙谷由人元官房長官が「民主党は民主中道。首相にはど真ん中の中道を突き進んでほしい」と述べたことを受けた発言。〔後略〕

これに対して仙谷は公開討論を求める申入書を内容証明で安倍に郵送。すると安倍はフェイスブック(以下FB)に申入書を写真付きで公開し、仙谷にコメントを書き込むよう求め、自分もコメントすると述べたという。

FBのアカウントを持っていない人も多いのだから、公開討論にはならないのではないか。それに、FBは言わばホーム。お互いがアウェイでないと、対等とは言い難いのではないか。相手にする気がないのなら、ただそう言えばいい。わざわざ自分の土俵でないと勝負しないなんて、器の小さいことを言わない方がいい。

この「中道」批判の内容自体もよくわからない。菅内閣発足直後の「陰湿な左翼政権」という批判もそうだが(これも機会があればいずれ取り上げたい)、この人は時々、批判したいという思いが先行してか、妙なことを言う。

「中道」それ自体を何としてでも批判しようとすれば、確かにこうした表現になるだろう。保守政党たる自民党の面目躍如と言えるだろう。

しかし、では「自分の信念、哲学、政策」があればいいのか。例えば、共産党は社民党より「自分の信念、哲学、政策」がより強固なのだろう。だから社民党は「自分の信念」を曲げて自民党や民主党と連立し得たのに対し、共産党は議会進出以来万年野党である。それは、精神が「堕落」しておらず、「ひたすら大衆に迎合しよう」などと考えていないからだろう。

だが、それは何か評価すべきことなのだろうか。安倍は、仮に次期衆院選で過半数にわずかに満たない場合の連立相手に、社民党よりも共産党を選ぶのだろうか。

それに、立ち位置によって「中道」の中身は容易に変化する。一口に保守と言っても、さまざまなスタンスがある。

いわゆる極右から見れば、安倍もまた「中道」となるのではないか。「堕落した精神、ひたすら大衆に迎合しようという醜い姿」と言われかねないのではないか。

実際、共産党の志位和夫委員長は、「言葉で中道といっても民主党は立派な保守、右翼政党だ」と述べたという。

こんな曖昧な用語に対する批判に、さしたる意味があるとは思えない。

ためにする批判というやつではないか。

また、自民党は果たして、それほど明確な保守政党だったのだろうか。以前にも書いたが、結党時の自民党の綱領や「党の性格」「党の使命」「党の政綱」といった党の基本文書のどこにも「保守」の文字はない。綱領では「個人の創意と企業の自由を基底とする経済の総合計画を策定実施し、民生の安定と福祉国家の完成を期する」とし、「党の性格」では、「わが党は、進歩的政党である。」と自己規定している。

麻生内閣で、与謝野馨経済財政担当相は「自民党は実は社会民主主義の政党だと思っている」と答弁した。

一昨年の平成22年綱領でようやく「保守」の文字が登場するが、そこでも「我が党は常に進歩を目指す保守政党である」とされている。

「進歩を目指す保守政党」とは形容矛盾であろう。煎じ詰めれば「中道」と何が違うのだろうか。

もっとも、民主党が今「中道」を唱えるのも、よくわからない。民主党との対抗上、自民党が保守色を強め、安倍総裁の誕生となった。また、やはり保守系と見られる石原新党や橋下維新の会の動きもある。それらとの違いを鮮明化するために「中道」の語を持ち出したと解説されている。

しかし、「中道」とは元々、55年体制の下で、公明党や民社党を指して用いられた言葉だ。自民党による資本主義体制の堅持にも、社会党や共産党による社会主義革命にも与しない、第3勢力を指した用語だ。

しかし、共産党も、社会党の後身である社民党も、既に社会主義革命を実行する力量も意欲も持ち合わせてはいない。左右の一方が凋落した今、「中道」の語に何の意味があるのだろうか。

8日付朝日新聞朝刊は、民主党内の綱領をめぐる議論を次のように伝えている。

「中道」議論民主、難航の様相
党綱領策定へ、会合

民主党は7日、党綱領の議論を本格的に始めた。党執行部が自民党や第三極との対立軸として打ち出そうとしている「中道」を明記するかをめぐり、議論が噴出。〔中略〕今年8月に執行部が示した原案をもとに議論した。1998年の結党時につくった「私たちの基本理念」という文書にあった「中道」の文言は原案から消えたため、五十嵐文彦・前財務副大臣は「民主中道の民主は市民中心の政治。中道は穏健リベラルをさすことで、民主党独自の言葉で愛着がある」と主張。宮崎岳志衆院議員は「どういう国を目指すのか明確に分かるワードは残すべきだ」と、「中道」の明記を求めた。




「民主」は自民党、社民党も党名に用いているから、民主党独自とは言い難い。

リベラルを主張したいのなら、「保守」と「リベラル」の対立軸を打ち出すべきで、「中道」などという曖昧な言葉に今さらすがる必要はないのでは。

しかし、

一方、「綱領に中道リベラルと書いた瞬間に選挙で戦えない」と懸念する意見も出た。鹿野道彦副代表は「右や左や真ん中ではなく国民を守るのが政治の要諦だ」と異論を唱えた。(岡村夏樹)

といった声が出るのは当然だろうし、私はこちらの見方に同意する。
使い古された右派・中道・左派ではなく、新たな対立軸で国民に信を問うてほしい。

ところで、元祖中道である公明党は次のように語ったという。
民主党の中道は「ご都合主義」公明・井上幹事長
2012年11月9日(金)16:43

公明党の井上義久幹事長は9日の記者会見で「中道主義をうたった唯一の政党は公明党だ。民主党は選挙対策の意味合いが強くご都合主義だ」と批判した。自民党の安倍晋三総裁と民主党の仙谷由人副代表の「中道論争」に、党綱領で中道主義を掲げる公明党が名乗りを上げた。

民主党執行部は自民党や第三極との対立軸として「中道」を打ち出す方針。安倍氏が「堕落した精神、ひたすら大衆に迎合しようとする醜い姿」と批判し、仙谷氏が安倍氏に公開討論を求めている。

井上氏は「信念、哲学、政策もない人たちのことを中道の政治家という」と語った安倍氏については「選挙対策として民主党が中道と言っているのなら、そういう批判は当たる」と述べ、自民党との関係に配慮して批判は避けた。


「中道の元祖は公明だ」…民主公約づくりを批判
2012年11月10日(土)09:00

公明党の井上幹事長は9日の記者会見で、民主党が衆院選の政権公約(マニフェスト)で「中道路線」の盛り込みを検討していることに関し、「綱領で『中道主義』をうたっているのは公明党だ。民主党は(石原慎太郎前東京都知事がつくる)『石原新党』をきっかけとした右傾化に対する差別化として、突然言い始めた。選挙対策の意味合いが非常に強い」と批判した。

公明党は1994年に策定した党綱領で、「いかなる主義・主張であれ、機構や制度、科学や経済であれ、すべて人間に奉仕すベきだ。これが〈生命・生活・生存〉を柱とする公明党の人間主義=中道主義の本質だ」と掲げており、元祖は公明党だと強調したかったようだ。

民主党は、98年の基本理念で「民主中道」を掲げている。細野政調会長は、この路線に着目して、次期衆院選の公約づくりにあたることを検討している。ただ、野田首相は8日夜、首相公邸で、各府省の政務官と会食した際、「『中道を使え』と言われるが、私は使いたくないんだ」と漏らしたという。




民主党は批判できても安倍は批判し得ないのは「ご都合主義」以外の何物でもない。まさに「堕落した精神」、大衆ではなく自民党に「迎合しようという醜い姿」と言えよう。

検索したら、件の仙谷の申入書が掲載されている安倍のFBのフォトアルバムが見つかった。
これはアカウントがなくても読めるのか。

コメントが現在1650。多くが安倍支持。こんなところでどうやって討論ができようか。

写真に添えられている安倍の文に暗然とした(太字は引用者による)。

先般、フェイスブックに載せた私の「政治家としての『中道』とは何か」という考えに対して、仙谷由人議員から内容証明郵便で申し入れ書が届きました。
内容証明郵便での厳重な配達だったので最初は、またどこかの左翼弁護士からかな(笑)?と思いましたが、いまや中道の仙谷大先生でありました。

〔中略〕

お申し込み頂いたのに、大変申し訳ないのですが、私は自由民主党総裁として民主党の党首である野田総理と来週党首討論を行いますが、パフォーマンス目当ての議員(仙谷さんは違うと思いますが(^O^)因みに野田総理、安住幹事長代理、細野政調会長、岡田副総理の名前を挙げましたが、仙谷議員の事にはまったく触れていません。その事が淋しかったのでしょうか(^_^;))達から注目を集めたいと申込まれた場合、いちいち公開討論を行う余裕は有りません。

近いうちに解散総選挙の陣頭指揮を執らなければならない私といたしましては、残念ながらその為に時間を費やすことはできません。
〔後略〕


笑えない。

この文が実際に安倍本人の手によるものか、それともスタッフによるものかは問題ではない。「安倍晋三」名義である以上、それは安倍サイドが安倍によるものとして発信したことに変わりはない。
この子供じみた文が、半世紀にわたってわが国政を担い、今また政権奪還を図る、巨大政党の総裁のものだというのか。

自民党の再生は未だ遠いようである。

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