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焦点:香港で進む若者の「愛国心」教育、抵抗する教師も標的に


Sarah Wu

[香港 26日 ロイター] - クア・チューファイ氏の使命は、香港の学校から「有害な反中偏向」と思われる要素を取り除くことだ。彼の手先となるのは、もっぱら生徒の親たちである。これまでに数百人の母親・父親を味方として取り込んできた。目的は、生徒たちに中国に対する敵意を吹き込み、街頭での抗議行動への参加を促している教師を監視し、通報してもらうことだ。

クア氏によれば、「次世代救済」を掲げた取り組みの一環として、11万4000人の登録者を抱えるYouTubeチャンネルを活用して親たちをはじめとする支援者の協力を求めているという。

彼は10月下旬に投稿した動画で、昨年の香港で猛威を振るったデモの最中、若い学生たちに(投石用の)レンガを拾い集めるよう指示している「教師のように見える人物」の写真を見たと話している。動画のなかでクア氏は、こうした教師たちからは教師免許を取り上げる必要がある、と述べている。

「教師たる者が、いわゆる何らかの政治的立場ゆえに、この香港を生徒たちに破壊させているとすれば、絶対に許しがたいことだ」

<若い世代の敵意に危機感>

自警団的なクア氏の取り組みは、香港の親中派政治家の一部からの支援を得るようになった。香港の教師を標的にすることは、時として暴徒化した昨年の民主化デモを経て、反抗的な香港の若者を変えていこうとする中国指導部による計画の一環として取り込まれている。

ロイターが警察から提供された数字によれば、昨年6月から今年6月にかけて逮捕された9200人の抗議参加者のうち、約40%は学生だった。そのうち1635人は18歳以下である。香港特別行政区の教育長官によれば、小中学校の教職員約100人も逮捕されている。

一党支配体制を敷く共産党と「中華民族の復興」というビジョンに対し、香港でこれほど多くの若い世代が敵意を示していることに危機感を持った中国指導部は、数十年にわたる国内反体制派の弾圧の際に実績をあげた戦術、「再教育」を志向するようになった。目的は、香港の若者たちを中国の忠実な市民に作り変えることだ。

香港の政治家や教師、学校長、そして中国本土の当局者に取材し、新たな教材を検証したところ、中国政府が学校のカリキュラムや教職員、試験、課外活動など、すべてに関心を注いでいる状況が見えてきた。

香港問題に関する代表的な中国政府系シンクタンク、中国香港マカオ研究協会のラウ・シューカイ副会長によれば、最優先課題は香港の若い世代を遵法精神を備えた市民に変えること、次いで、彼らに国民としてのプライドを植え付けることである。同氏は「学生には、国の安全や利益を損なうことは何もやってはならないと言い聞かせるべきだ」と話す。それを達成したうえで「愛国心を培っていきたい」と彼は言う。

中国本土の当局者2人はロイターに対し、香港では林鄭月娥(キャリー・ラム)現行政長官の任期が切れる2022年までに包括的な教育改革が行われるものと期待している、と語った。匿名を条件に取材に応じたこの当局者らは、細部についてはほとんど語らなかったものの、教育改革には、教師に対する監視の強化も含まれるだろうと話している。

<萎縮する教師たち>

教育キャンペーンは、旧英国植民地である香港に対する政治的支配の確立という大きなプロジェクトを成功させるうえで不可欠な要素だ。中国はここ数カ月の間に、厳格な国家安全法を成立させ、多くの市民にとって恐怖の的である国家治安当局者を香港に常駐させることを可能にした。さらに主要な民主派活動家を逮捕し、香港立法会の選挙を延期した。

香港の教育界から立法会議員に選出された民主派イップ・キンユエン(葉建源)氏によれば、政府は急激な改革と統制の加速を正当化するため、香港の教育システムが「破綻した」という印象を与えようとしているという。イップ氏は、こうした動きは教師のあいだに警戒心を生んでいると話す。

9月、香港のある教師が、教室において香港独立を唱えたと告発され、教員免許取り消しの第1号となった。この動きについて林鄭月娥長官は、「腐ったリンゴ」を教育システムから取り除く必要があると語った。

今月初め、香港教育局は2人目の教師について免許を取り消した。発表のなかでは、英国が「中国におけるアヘンを根絶するためにアヘン戦争を起こした」と生徒に話すなど、歴史的事実を歪めたことが理由とされている。

1839年から1842年にかけての第1次アヘン戦争では、英国商人が支配していたアヘン取引を中国側が摘発したことを受けて英国が軍事行動を起こしている。中国政府はアヘン戦争を、外国列強が中国の植民地化・収奪を進めた「屈辱の1世紀」の端緒として位置付けている。それだけに、アヘン戦争の歴史認識には特に神経を尖らせている。

イップ氏は声明のなかで、件の教師が間違いを犯したにせよ、処分は「過剰」であると述べている。2人の教師の氏名は明らかにされていない。

香港の教育システムを監督する教育局は、ロイターからの問い合わせに応じるなかで、「教師たちは生徒に知識を伝達し人格を育むという重要な役割を担っている」と述べている。「あらゆる措置は、生徒の利益を守るという専門的な視点から行われており、政治的なものではない」

<教科書にも多くの改訂>

教師に対する監視の強化は効果を発揮しつつある。香港中学校校長会の名誉事務総長であるマイケル・ウォン氏はロイターに対し、6月に国家安全法が施行されて以来、どの校長も当局や親、世論からの批判を恐れるようになっていると語った。

2人の教師はロイターに対し、懲戒が怖いため、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の大量拘束など物議を醸す問題については触れないようにするつもりだと語った。生徒たちが最高学年で履修する公民科目である一般教養では、センシティブなテーマについては新たに改訂された教科書に厳密に従う予定だと彼らは言う。

香港の教育当局者の監督下で行われる教科書の改訂は、新学年を前にして完了した。改訂された教科書の2つを検証したところ、多くの変更が行われたことが分かった。削除されたのは、中国政府に対して批判的である、あるいは民主主義や公民権を擁護していると見られかねない部分である。

● 2014年、香港の主要な幹線道路を封鎖するに至った民主化抗議運動に触れた市民的不服従のセクションはまるごと削除された。「民主派」は「非主流派」と表現されている。

● 1989年の天安門広場で発生した共産党支配の正統性に異議を唱える学生の抗議行動への言及も削除された。

● 普通選挙ではなく制限選挙による香港行政長官の選出を疑問視する漫画も消えた。

● 香港の地域的なアイデンティティの強化と、香港に高度な自治を与えている統治モデル「一国二制度」への中国政府による干渉についてのセクションも削除された。

教育局では、自由主義研究の教科書に関する最近の見直しは、出版社の自主性に任されていると話している。

<すでの反発の兆候も>

デンバー大学のツァオ(・スイシェン)教授は、中国本土のような「非常に統制された、組織的な上下構造」が存在しない香港で愛国的な教育を行うことは困難だろうと話す。香港市民が外部の情報に「自由にアクセス」でき、引き続き「香港に関する国際社会の姿勢」などを認識していれば、当局としてもなかなか市民の考え方を変えていけないだろう。

すでに反発の兆候はある。民主派政治家のイップ氏が副書記長を務める加入者数10万人の香港教員組合では、(当局の)標的にされた教師たちを支援する合法的な基金を設立した。組合では、免許取り消しの処分となった2人の教師について訴訟を起こしている。

「1人の教師がこうやって処分されれば、他の教師も皆、同じように処分されることを恐れるようになる」とイップ氏は言う。「我々がまだ戦い続けていることを皆に知ってほしい。方法は変わったかもしれないが、抵抗は続いている」

戦いの反対側には、教育分野での十字軍を自任するクア氏のような親中派の香港市民がいる。放課後の個人教授センターで中国語を指導するクア氏は、中国や香港警察・香港行政府に対する敵意に対抗するために教師監視の取組みを開始したと話す。クア氏によれば、生徒たちは中国がここ数十年間で成し遂げた偉大な前進を知らされる必要がある。「どれだけ中国が嫌いでも、まず中国を理解しなければならない」と彼は言う。

クア氏によれば、彼のグループでは、教師に関する苦情を受理すると、親や生徒たちに、授業中の課題や宿題、録音といった証拠を求めると言う。学校に対応を求めても「反応が鈍い」場合には、香港教育局に苦情を提出するという。

自身のYouTubeチャンネルで紹介した、学生たちがレンガを拾い集めている画像について質問したところ、クア氏はロイターに対し、昨年の抗議行動中にメッセージアプリ「ワッツアップ」のグループで共有された動画から抽出したものだと説明した。ただし、その出来事がどこで発生したものかは思い出せないという。

6年生の息子を持つクア氏によれば、同氏のグループは現在、学校向けに提供する「国家教育、国家的なアイデンティティを強化する」講座を開発しているという。

「今まで、私が何よりも気にしていたのは、自分の息子が良い点数を取れるかどうかということだった」とクア氏は言う。「今は、息子の倫理的な人格形成、何が正しく何が間違っているかを息子が理解しているかということだけを気にしている」

(翻訳:エァクレーレン)

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