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情報が食の安全を守る?

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情報が食の安全を守る

  • 作者: 食の安全市民ホットライン,神山美智子,山口英昌
  • 出版社/メーカー: 旬報社
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書は食の安全・市民ホットラインにかかわるメンバーの共著であり、それぞれの「専門分野」についての食の情報についてかかれている。編者は神山美知子・弁護士と山口英昌・美作大学大学院教授だ。全15章と5つのコラムからなり、前半の第1部は「私たちは何を食べているのか」と題した個別の食に関するリスク情報、後半の第2部は「私たち消費者の権利と食の情報」と題して消費者の権利と「食の安全・市民ホットライン」の紹介を行うという構成だ。

第1部 私たちは何を食べているのか

第1部では、食品添加物や輸入食品、遺伝子組換えなどについて、それらがどんなに問題があるかについて記述されている。しかし、具体的にどのような健康影響が出ているかなどは書かれていない。あくまで「良くないもの」というイメージに訴えかける手法だ。実際、これらの項目はあるていど管理下にあるものばかりだ。少なくとも、現在の日本で問題になることはほとんど無いといえる。だが、すべての章がこのような曖昧な批判を行っているわけではない。第6章の「食品汚染の実態」では水銀やカドミウムについて、具体的な数値を示しつつ、管理の問題点を指摘している。実際、カドミウムなどは摂取量が多い人では健康影響が出ていると考えられている。その意味で遺伝子組換えや食品添加物などとはリスクの程度が異なる。この章では実際の摂取状況や耐用週間摂取量(TWI)など具体的な数値を元にして検討が行われ、読みごたえのあるものであった。

第1部最後の10章では食品の放射能汚染にあてられている。ここでは食品の汚染状況や検査体制の問題点、新基準についての解説が行われている。この章において特に目を引くのは牛肉などに偏った検査体制の問題点に対する指摘だ。昨年7月に肉牛への汚染が発見されたあと、各自治体は牛肉の全頭検査に踏み切った。しかし、牛肉の汚染原因はすぐに突き止められ対策もとられた。また、同じ畜産農家から出荷される肉牛は同じ餌を食べて育ったため、同一ロットと見なすことが出来た。それにもかかわらず消費者の安心のために全頭検査が行われ、検査体制は著しくバランスを欠いたものになっている。その見直しを提言しているところは評価に値する。一方で、各所で行われている陰膳検査には全く触れていないなど現状認識の展で疑問を感じる部分も見られた。

第2部 私たち消費者の権利と食の情報

第2部では神山弁護士がかねてから訴えている消費者の権利についての問題提起からはじまる。ここでは、消費者の権利の観点から神山弁護士たちが問題と考えている日本の食品安全基本法と韓国の食品安全基本法の対比を行っている。神山弁護士によると、韓国の食品安全基本法では「国民の安全で健康な生活」「消費者の権利」が盛り込まれていることが優れているとされている。

また、リスクコミュニケーションでは、日本では政策決定においてパブリックコメントを求めるとが求められているにもかかわらず、それが形骸化していることを批判しています。それに対し、韓国では事業者や消費者への情報提供と、その意見を聞くことが定められていると絶賛している。

しかし、実際に韓国の法律がどのように機能しているかについてはわからない。神山弁護士がかねてより韓国の法制度を絶賛しているのは知っているが、それが条文の中だけではなく、実際にどのように運用されているのかがわからないと、いくら良い良いといわれても判断の材料がない。1つでも良いので、実際に1つの規制法案ができるまでの経緯と消費者からの意見反映を実例で示していただければ多いに参考になったとおもわれるのだが、残念だ。

第2部の最後では市民による通報システムである「食の安全・市民ホットライン」についての紹介だ。これは問題があると思われる表示や広告などについて消費者が通報を行い、HP上でその情報を公開するというものだ。過去には小若順一氏が代表を務める、「食品と暮らしの安全」に対する薬事法違反を指摘し、HPの改善につなげるといったことも行っている。*1 *2

消費者運動の限界

本書の執筆陣は、まさにそうそうたる顔ぶれという言葉がふさわしい陣容だ。まさに日本の消費者運動のまとめともいえるのが本書ともいえる。長年にわたり、日本の消費者運動を支えてきた執筆陣には敬意をはらいたい。しかし、一方で今後の消費者運動がこのままでいいのかということを改めて感じさせられるのも事実だ。それは何かというと、やはり科学に基づいた活動ということになる。かつて、まだ食品製造のレベルが低かった時代。カネミ油症事件や森永ヒ素ミルク事件がおき、多くの被害者が出てしまったことは事実だ。戦後の消費者運動も、そうした時期に始まっているものと思う。しかし、食品安全を達成するための技術は大きく進んでいる。食品添加物の安全性一つとっても、当時と現在では想定されるリスクは大きく異なる。それを昔のままの批判を行うことが適切とは思えない。消費者庁や消費者委員会も出来た今、消費者団体も代わっていく必要はないだろうか?

*1:小若順一氏らの薬事法違反(? )を日本消費者連盟が明らかに? http://blog.goo.ne.jp/wakilab/e/439d8114a0e5a646e2bcd4429589d4ea

*2:「食の安全・市民ホットライン」とさいたま市保健所に拍手!! http://blog.goo.ne.jp/wakilab/e/96cca46451f120dffd5f3f183a7583a2

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